第14話 どっちの石を見ればいい
合同探索の朝、上層の入口に八人が並んだ。白銀の翼の五人と撮影係のロロ、剣姫と俺だ。
ジークは俺を見なかったが見ないことで何かを言っているつもりなのだろう。セレスは俺を見て、何も言わなかった。それが一番うるさい。
「ホルスト先輩!」
ロロだけが石を胸に抱えて俺に駆け寄ってきた。十九歳だ。
「先輩って呼んでいいですか。窓口の人に前の白銀の翼の撮影係だって聞いて。あの、俺、画面が揺れるって神様に毎日書かれてて」
「知っています」
「どうしたらいいですか」
「あとで」
ジークが「行くぞ」と言った。順番はジークが決めて、白銀の翼が前で剣姫は後ろ、「後ろで見て学べ」だった。ティナは噛み殺す顔はせずに「はい!」と言ったが、学ぶ気でいるのだからそれはそれでいい。
「配信、始めます」
ティナの声とジークの「始める」が重なって、石が二つ同時に熱くなった。板の神眼は見たことのない形になった。
神眼 四千十 ── 剣姫の石 千二百十/白銀の石 二千八百
合同の板はどちらの石を見ている神が何柱かを出す。知ってはいたが、見るのは初めてだ。
剣姫の六百十が合同になった瞬間に千二百十と倍になっているのは、白銀の翼の神々が物珍しさで覗きに来ているからだ。
≫迷子の神:どっちの石を見ればいい
≫知恵の女神アウラ:剣姫の石よ。動かないほうが見やすいわ
≫雷神ドゥル:白銀のほうは揺れる。酔う
≫戦神ガルヴァ:両方見る。並べると面白い
◇
中層十三階ではジークが前を歩き、ロロは言われたとおりジークの剣を追ったので揺れた。
俺はティナの左斜め前にいた。剣姫の石は剣姫を映すので、それだけを守る。
「エド」
ジークが振り向いた。
「お前も俺を映せ。剣姫は後ろで映るものがない」
「契約はティナさんの石です」
「合同だ。配信は一つだろう」
「石は二つです」
ジークの顔が一瞬だけ報酬を半分にすると言ったときの昔の顔になった。
だがジークは神々の前では声を荒げない男で、俺はそれをずっと見てきた。彼は前を向いた。
伏兵は十三階の中ほどで出た。
一匹目の岩蜥蜴の首をジークが飛ばした音に紛れて、横穴から二匹目が来る。二週間前に盾役が噛まれたのと同じ場所で、迷宮は同じことをする。
俺は見ていたが何も言わない。白銀の翼の伏兵は白銀の翼のもので、契約外だ。
言ったのはティナだった。
「右の横穴! 二匹目!」
声が十三階に響いて、盾役が振り向いた。間に合った。蜥蜴の顎が盾の縁を噛み、盾役が踏ん張っているあいだにジークの二の太刀が首を落とした。
誰も噛まれない。
俺が声で教えてきた横穴の並びを、彼女は十三階でも自分の目で見たのだ。声は要らなかった。
≫知恵の女神アウラ:剣姫が先に見たわね
≫戦神ガルヴァ:白銀の翼より早い。後ろにいたのに
≫迷子の神:剣姫の石、横穴が映ってた。白銀の石は剣しか映ってない
≫冥府の神ネル:二匹死んだ。白銀が二匹斬った
板の数字が動いた。
剣姫の石 二千百/白銀の石 千九百
逆転した。
合同の配信の中で、後ろを歩く六百柱の配信者の石を、前を歩く三千柱の配信者より多くの神が見ている。
神様は組ではなく画を見るという、前から分かっていたことが、板の数字になって出たのだ。
配信者のジークはこの板を持っていて読める。
振り向かなかったが彼の背中は読めた。
「剣姫」
少ししてジークが言った。
「前に出ろ。見せてやれ。十三階の真ん中だ」
見せてやれ。言葉はそうだが、顔は違う。二週間前に三柱だった剣士に、十三階の真ん中を歩かせるのだ。そこが伏兵の出る場所だと、この男は知っている。
ティナが俺を見た。
「わたし、前ですか」
「前です」
俺は小さくうなずいた。
俺は殺さず、声も必要なとき以外は出さないと条件は決めてあるが、「必要なとき」は俺が決める。
ティナは前に出て白銀の翼の五人の横を抜けるとき、誰の顔も見ずに前だけを見ていた。
蜥蜴は三匹、順番に出る。
一匹目は彼女が自分で見つけて前足を落とし、首を斬った。横から来た二匹目には、俺が「左」とだけ言って、それで足りた。三匹目は天井に近い横穴にいて、彼女は気づかない。
「上。三歩下がって落ちてきたところを」
下がったところに蜥蜴が落ちて、落ちた背中に剣が入った。
三匹とも、ティナだ。俺の石は一度も動いていないし、短剣も鞘の中だ。
≫冥府の神ネル:三匹死んだ。剣姫が三匹斬った
≫雷神ドゥル:いいぞ剣姫!! 白銀より速い!
≫戦神ガルヴァ:腕を上げた。本当に上げている
≫知恵の女神アウラ:撮影係はお行儀がいいわね。二つ石があるときは
剣姫の石 二千九百/白銀の石 千三百
二千九百。千三百。
ジークは前を向いたまま何も言わず、ロロは石を持ったまま、ジークと板を交互に見ていた。
セレスは、ずっと俺を見ていた。蜥蜴ではなくティナでもなく、石も動かさず短剣も抜かない俺を。
◇
地上で合同が解けると、神眼は分かれて、剣姫の石の神々は剣姫の配信に残った。
千八百だった。六百十で始めた朝が千八百で終わったのだから、三倍だ。吸うつもりで来た男が、吸われた。
「千八百……奨励金、十八枚?」
「上限が十枚です。千柱から上は奨励金は増えない」
「じゅう……」
「増えるのは加護と、名前です」
十枚でも、彼女はその場に座り込んだ。一日十枚なら、冬至までの六十枚に八十日かかるところが、六日で済む。
「先輩」
解散のあと、ロロが追いかけてきた。
「どうやったら揺れないんですか」
「寄れと言われても寄らないことです」
「それ、首になります」
「なりますね」
ロロは泣きそうな顔をしてから「でもやってみます」と言った。この子は悪くない。悪いのは雇い主だ。
セレスは最後に来て、ティナに「いい声だったわ」と言ってから俺に向き直った。
「明日は十四階ね。わたしが前に出るわ」
「どうぞ」
「あなたの石の外側を見せてもらう」
外側。石が映さない場所で、つまり俺がいる場所だ。




