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神々の配信で俺だけ映らない ~撮影係の俺が画角の外で全部倒していることに、視聴者の神様だけが気づき始めた~  作者: おはぎだんご
第二章 神託欄がうるさい

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第13話 二つの石

 休みの翌日、俺は中層へ降りた。

 五百二十で止まった数字を見て決めたことだ。隠せば減り、減れば冬至に間に合わない。それなら中層に降りて俺は手を出さず、声だけでティナに全部斬らせればいい。ティナが斬れば数は合うし、合えばネルは静かで、アウラは「お行儀」と書く。

 十一階の入口のあたりだけで、一時間で戻り、巣の下には入らない。


「配信、始めます」


 石が熱い。五百二十で始まって、中層に降りた瞬間に五百八十になった。


≫戦神ガルヴァ:降りたか

≫雷神ドゥル:降りた! 蜥蜴を出せ!

≫迷子の神:今日は勝手に倒れるかな


 倒れない。今日は倒れない。

 岩蜥蜴が二匹出て、どちらもティナが前足から首へと斬った。俺は横穴の位置と出てくる順番を声で渡しただけで、短剣は鞘から出さなかった。

 二匹目のとき、ティナは俺が言う前に「右ですよね!」と言って、それは右だった。横穴の並びを、彼女は二度で覚えたのだ。

 三匹目は横穴の奥で出てこなかったが、出てこないものは斬らなくていい。


≫冥府の神ネル:二匹死んだ。二匹斬った

≫知恵の女神アウラ:今日は数が合うわね。撮影係はお行儀がいい日

≫戦神ガルヴァ:剣姫の腕が上がっている。それはそれで見られる


 神眼は六百十に上がった。

 ティナが「右ですよね」と言ったあたりで二十増えたのは、覚える配信者を神様が好むからだ。昨日の分を取り返して、少し越えた。

 ガルヴァが書いたのが大きい。この神が書けば、強い者を見たい神々が付いてくる。

 だがドゥルは最後まで「蜥蜴が勝手に倒れない」と不満で、迷子の神は「今日はつまらん」と書いた。

 見たいものを見せていなくても数字は上がるが、上がる速さが前より遅いだけだ。


 ◇


 地上に戻ると、ギルドの窓口に、ギルドの印が押された合同探索の申し込みの紙が置いてあった。申し込み元の欄には「白銀の翼」とある。


「ごうどう……たんさく?」


 ティナは裏に何も書いていない紙を裏返して、それでも見ている。


「二つの組が一緒に潜って一つの配信にする制度です。神託欄が共通になり、神眼は合わせた数で出る。申し込みは中層十三階、二日間」

「合わせた数?」

「白銀の翼の三千四百と剣姫の六百十で四千十」


 ティナの目が大きくなった。四千という数字を、彼女は口に出すのも初めてだ。


「それってすごいじゃないですか」

「すごいのは数字だけです」


 ジークの狙いは分かる。三千四百まで減った白銀の翼の数字を、剣姫と並べて四千に見せたいのだ。それだけではなく、合同の間は神々が二つの石のどちらの画も選んで見られて、終わったあとの神眼は見ていた画のほうに残る。剣姫の神々の何割かが、白銀の翼の画面に移る。

 吸うつもりなのだ。白銀の翼が五年かけて作った画面に、剣姫の神々を座らせる。


「断ります」

「えっ」

「理由は三つ。一つ。ジークは石を奪いに来る。自分の剣を真ん中にしたがる。二つ。石が二つになる。ロロの石が別の角度から映す。俺が何かすれば俺の石で隠してもロロの石で見える」

「三つ目は」

「セレスです。あの人は、俺を試しに来る」


 ティナは紙を見下ろして考え込んでから、顔を上げた。


「受けます」

「ティナさん」

「冬至まであと八十日くらいです。六十枚のうち返せたのは四枚。一日に五枚入っても神眼が落ちれば三枚になる。四千の配信に一度でも出れば剣姫の名前が広まります。そうしたらうちの配信に戻ってくる神様もいます」


 計算していた。

 俺が教えた数字の見方を彼女はこの二週間で覚えていた。覚えたうえで、俺の反対側の答えを出したのだ。


「それに」

「それに?」

「白銀の翼と並んで、うちの撮影係のほうがいいって神様に見せたいです」


 理由にはなっていない。なっていないが、俺はそれを聞いて断る言葉を一つ失った。


「……条件があります」

「はい!」

「俺はあなたの石だけを持つ。白銀の翼の伏兵は契約外。ジークが噛まれても俺は何もしない」

「はい」

「それから俺はあの配信で何も殺さない。声も必要なとき以外は出さない。あなたが全部やる」

「はい!」


 返事がいいのは、いつものことだ。


 ◇


 申し込みに判を押しに窓口へ行くと、ジークがいた。

 銀の鎧の脇腹に磨いても消えなかった浅い傷があって、本人は気にしていない顔をしていた。気にしている人間がする顔だ。

 壁に寄りかかってこちらを見ているのは、待っていたのだろう。二週間と四日ぶりだが、数えていたわけではない。


「よう。無口の撮影係」


 知っているのは、ティナが配信で神々に言った「無口」が神々の書き込みになって神託欄に残り、白銀の翼の配信者であるこの男にも読めるからだ。


「どうも」

「剣姫の数字は運がいいな。中層の事故で跳ねたんだろう。あれはいい事故だった」


 神々が「勝手に倒れた」と騒いだ四匹を、この男は事故と呼んだ。蜥蜴が勝手に死ぬ事故で、人間の側ではそういうことになっている。

 俺は何も言わなかったし、言わなくていい。


「組めばもっと伸びる。うちの数字と並べば剣姫も格が上がる。感謝しろよ」

「ティナさんに言ってください。俺は撮影係なので」

「そうだったな。誰でも同じ、の」


 ジークは笑って行った。

 ティナが横で、何かを噛み殺した顔をしていた。


「……噛み殺しました」

「見ていました」

「褒めてください」

「偉いです」


 窓口の男が、判を押した紙と一緒に折った小さな紙を寄越した。


「ヴァーンさんから。撮影係の方にと」


 開くと、一行だけだった。


 ──十三階で。あなたの石が何を映さないか、見せてもらうわ。


 映すものではなく、映さないものを見に来るというのは、神様と同じ見方だ。人間でそれをするのは、俺の知る限り一人しかいない。


 ◇


 夜、宿で板を見ると、神託欄にメルティアの今日の一行があった。


≫豊穣の女神メルティア:合同ですか。撮影係さん、石は二つになりますよ。お気をつけて


 知っている。

 この女神は、人間の側のギルドの紙まで知っている。


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