No10.ヴィスワ川決戦
ドイツ帝国東部国境、ヴィスワ川。ここにはドイツ軍の要塞が複数点在していた。この決戦の地に集結したのはドイツ軍75万人,ロシア軍90万人という前代未聞の大兵力だった。大兵力同士が全力で激突する稀代の決戦が、今ここに始まる。
「兵力的には我々が有利である。しかし独軍は西部戦線で仏軍を軽々と破った歴戦軍である。ここは我々から攻めることはせず、守勢に回ることが良いと考える。」
そう言うのはロシア帝国軍北西正面軍司令官、ニコライ・ルジスキーである。
「ミハイル・アレクセーエフ参謀長はどう思うかね?」
「はい。わざわざ歴戦の相手に対して攻撃を仕掛けるのは愚の骨頂。あくまで守勢を取り、相手が疲弊した所を反撃するのが良いと考えます。」
「それに対して意見が。」
ロシア軍の司令部は静まり返った。なぜならばそういったのは少尉の参謀候補でありながら、ロシア軍の俊雄と噂されている人物だったからだ。その名はミハイル・トゥハチェフスキー。"赤きナポレオン"の若き姿であった。
「シュリーフェンはシャルルロワ会戦と同じように、我々を挟撃するものと思われます。我々が守勢を取っている所を挟撃されれば包囲殲滅されます。」
「ならばどうすれば良いのかね?」
「我らはここに囮を残して隠れるべきかと。そしてドイツ軍が囮に攻撃を仕掛けた所で本軍が攻撃します。言わばシャルルロワ会戦のドイツ軍の戦法を行うのです。思いもよらぬ攻撃を受ければ兵は混乱します。そうすれば敵軍も撤退せざるを得ません。」
「うむ。それは良い作戦かもしれぬ。しかし我らがその策を読まれて攻撃されればどうする?」
「その場合は我々と囮軍で挟撃すれば撃破できます。どちらにしても敵に痛手を与えられるかと。」
「それは良い。この作戦で行く。異存はないな?」
「ははっ!」
「シュリーフェン参謀長。航空部隊はどうするのですか?」
「航空部隊は隠し駒として使う。万が一敵が策を弄し、我々が痛手を負った時に戦局を大きく変えるために使う。」
「ははっ!では我々は敵軍を挟撃しますか?」
「うむ。前線の部隊に命令を伝えよ!」
「ははっ!」
「ルジスキー司令官!敵は二手に分かれて囮部隊に向かってきております!」
「トゥハチェフスキーの言ったとおりだな。敵が囮部隊に攻撃を始めた隙に我々は敵の横っ腹を突く!」
「Ура!」
「ヒンデンブルク将軍。敵軍を発見いたしました。」
「うむ。ルーデンドルフ参謀長。師団に攻撃を命令せよ!」
「ははっ!」
こうしてドイツ前軍はロシア囮軍に対して攻撃を開始した。
「これはおかしい。ロシア軍の抵抗が微弱すぎる。何か策でもあるのか?」
「将軍!これは囮作戦です!急いで全軍を撤退させましょう!」
「何!?囮作戦だと!?急ぎ撤退させよ!」
しかしもう遅かった。ヒンデンブルク将軍が囮作戦に気づいた頃には既にロシア主力軍は襲いかかっていた。
「将軍!兵は不意を疲れて大混乱です!」
「クソッ!シュリーフェン参謀長に電報を打て!ワレキシュウヲウケ。ゼンメツカクゴデタタカウとな!」
「ははっ!」
「シュリーフェン参謀長!前軍から緊急電報!ワレキシュウヲウケ。ゼンメツカクゴデタタカウとのこと!」
「前軍が奇襲を受けたか。航空部隊に攻撃を命令せよ。目標はロシア帝国主力軍!」
「ははっ!」
その頃ドイツ前軍はロシア軍の奇襲によって壊滅寸前にあった。
「将軍!もはや支え切れません!このままでは前軍が壊滅します!」
「シュリーフェン参謀長を信じよ!我らは全滅するまで抵抗を続ける!」
その時、天空から爆音を響かせて航空部隊が殺到した。
「あの航空部隊は何だ!?」
「将軍!あれは皇帝陛下直率の航空部隊です!」
「ということは司令部からの援軍か!」
「はい!航空部隊の攻撃によって敵軍は混乱状態!今のうちに反撃しましょう!」
「うむ!」
完全なる奇襲だった。敵を包囲殲滅していると思っていたロシア軍は一気に大混乱に陥った。ドイツ前軍がこの隙を見逃すはずもなく、一気にドイツ軍は息を吹き返した。これにより完全に戦局は逆転。一気にロシア軍は窮地に陥った。
「司令官。もはや撤退するべきかと。」
「うむ。奇襲作戦は潰え、このままでは我々が壊滅する。前線の師団に攻撃を中止して撤退せよと命令せよ。」
「ははっ!」
こうしてロシア軍は壊滅する前に戦場を離脱。辛うじてドイツ軍は勝利を得た。しかしその代償は大きかった。ドイツ軍は9万人を失い、ヒンデンブルク将軍も追撃戦のさなかに砲撃を受け戦死した。しかしロシア軍も損害は大きく、17万人を失う大損害となった。また、この戦いには大きな意義があった。トゥハチェフスキーによってシュリーフェンの挟撃作戦が読まれ、囮作戦に引っかかり逆に大損害を追ったということだ。これによりトゥハチェフスキーが脅威であるということは強くドイツ軍に認識された。
これによりヴィスワ川決戦はドイツ軍の辛勝に終わった。しかしロシア軍は降伏の気運を全く見せず、次の決戦のための兵員補充を行っていた。
果たしてこの戦争は終わるのか。ドイツ軍は勝ち切ることが出来るのか。




