魔剣取得と春来たる
保健室だろう。いつもよりベットの感触が固い。
「起きたか」「よかった~」
雫ちゃんと小夏ちゃんが見ていてくれたようだ。
「うん、気絶してたよね?」
「そうだ。小夏の馬鹿が一気に魔力を流したから」
「それは本当にごめん!」
いつも飄々とした小夏ちゃんが、今はさすがに元気がない。
「気にしてないよ。大丈夫。付き合ってくれてありがとう」
「五十嵐先生も謝っていたわ。見ていながら止められなかったと」
先生にも心配を掛けてしまったか。目も覚めたし、一度報告してから寮へ戻ることにした。
五十嵐先生に体調を気遣われ、山城先生にはお叱りを受け、寮へ戻る。
色々とあった一日だったけど、全体的には実りのある一日だったと思う。今後も怠らずに努力を重ねていこう。
疲れたし今日は優菜ちゃんと一緒に寝て回復に努めよう。孤児院にいたときはみんなで寝ていたから、一人で眠るのは寂しい。
優菜ちゃんは起きてはいたけど、眠る寸前だったようで申し訳ない。優菜ちゃんのクラスでも体力づくりはあったようで疲れ果て限界だったらしい。少しお話しようと思ったけど別の機会にした方が賢明だ。一緒に眠るだけで我慢我慢。
◇◇◇◇
翌日以降も授業の流れは初日と変わらない。午前は座学、午後は体力づくりをメインに実技で毎日くたくただ。
放課後は雫ちゃんと小夏ちゃんと特訓だ。そんな平穏な日常が流れていた。
そこに変化が加わったのは基礎体力がつき、肉体強化も感覚強化も思う通りに発動できるようになった頃……先生方は私の成長速度に合わせたわけではないだろうが、ちょうどいいタイミングだった。
「今後は午後のカリキュラムに前衛型は剣術の訓練、後衛型が魔術の訓練を入れていく」
前衛型である私は剣術ということになる。初日に行ったのは先生の型を見て真似る。それだけだった。
初日どころか数か月は型をなぞるようで、体力づくりから解放され「やっと戦える!」と喜んでいた男子たちや一部名家の人たちからも不満の声が聞こえる。
先生もその空気を感じ取ったようで、少し考えこんだ後
「どんな時でも、身体が動くように、何度も何度も繰り返すことが大切だ! とは言っても納得するのは難しいだろう」
そこで少し息を吸ってから
「型が完璧になったとき、お前たちに魔剣を渡す」
そう先生が言った瞬間、周囲から歓声が沸く。一体何事だろうか。魔剣というものが凄いものらしいことは伝わってきたが……
小夏ちゃんに聞こうかと思ったが、後衛型である彼女は五十嵐先生の方で説明を聞いている。雫ちゃんの方は授業中に話し掛けると怖いくらいの目つきで睨んでくるので、休憩時間か放課後まで待つしかなさそうだ。
「魔剣のこと?」
放課後、雫ちゃんに聞いてみると意外そうな顔でこちらを見ている。騎士剣は授業でも出てきてないはずだが……
キョトンとした顔をしていたからだろうか。雫ちゃんは頭を振って
「いえ、琴乃なら授業中すぐに質問するかと思って」
「盛り上がってたから」
「そういうこと。魔剣を渡されるときに改めて説明されるだとうから軽く説明するわ。云わば魔力で育てる武器みたいなもの」
「育てる?」
「ええ、魔力を毎日注ぐことで所有者にあった剣に育つの。サイズが変わったり、属性がついて色も変わるわ」
面白そうと正直に思う。それに自分の為だけの武器になるなんて、夢がある。
「それはそれとして、今日も特訓よ。切り替えて」
今日からは剣術も見てもらいながら、日々を過ごす。数日経つ頃には基本の型はマスターし、先生方も褒めてくれた。これは魔剣をもらえる日も近いのではないかと予想していたのだが、そう上手く事が運ぶことはなかった。魔剣をもらうには剣術のマスターを、というのは個人ではなくクラス全員だったようで、当然個人個人に出来の際はある。その中で後衛型の一人が剣術はからきしで、補助魔術が得意な子のようなのだが、身体を動かすのは下手で体力も最低限しかなく、剣術の基本をマスターするのはまだ先らしい。
※後衛型の場合、魔剣は宝剣のような儀礼用の剣になるらしい。女子に人気が高い!
最近、その子の肩身が狭いということで。
「今日から放課後の特訓に加わる桜さん、自己紹介して」
「えっと……桜弥生です……よろしくお願いします」
見た目は私よりちょっと背が大きいくらいで、桜色の髪、目線は地面を向いていて声も小さい。クラスメイトではあるものの話したことはほぼない面々に囲まれて緊張している様子。雫ちゃん厳しいものね。わかります。
「よろしく~小夏でいいわよ」
小夏ちゃんの明るさがせめてもの救いだろう。同じ後衛型だし、私たちよりは交流もあっただろう。
「よろしくお願いします。琴乃とお呼びください」
気の弱そうなタイプであったため、呼び方とかも遠慮することを考慮し、指定させてもらった。
「自己紹介は済んだわね。さっそくストレッチをしたら剣術の練習をしましょう」
雫ちゃんの号令の元、いつもの特訓を開始する。弥生ちゃんは勝手がわからずオロオロしていたが、雫ちゃんがマンツーマンで指導にあたり、なんとかついてくる。しかし特訓が始まってからずっと弥生ちゃんの動きが固く、まともな特訓になっているようには思えない。雫ちゃんは真剣に教えているし、アドバイスも的確だけれども受け取る側の準備ができていない気がする。
その予感は的中し、一週間弥生ちゃんとの特訓を行ったが、成果は芳しくない。小夏ちゃんがこういうときに昔から折衝役を務めていたと予想していたが、そういった動きはなく私の感は外れてしまった。陸くんの方かもしれない。とはいえこのままでは弥生ちゃんへの風当たりは強くなる一方だし、弥生ちゃんの方も委縮しっぱなしである。ここは孤児院で大人しい子とも仲良くなった経験のある私の出番と判断し、特訓終わりに弥生ちゃんの部屋まで勝手についてきた。
「あの……私の部屋はここなので……」
弥生ちゃんが遠慮がちに話し掛けてきた。
「うん、部屋で少し話せたらと思って」
私の要求を伝えると、少々嫌そうに目を伏せる弥生ちゃん。でも明確に拒絶の言葉は返ってこなかったため、そのまま待つ。この場面ではこちらからどんどん話すのではなく相手からの言葉を何十秒でも、何分でも待つのが大事だと思っている。およそ一分ほど経ってからようやく、部屋のドアを開けて招き入れてくれた。
部屋は小奇麗で整理整頓されており、机には家族の写真だろう、弥生ちゃんと両親の笑顔が飾られている。
「いい笑顔。仲がいいの?」
「あっ、うん、仲いいよ?」
まさかの疑問形で返されてしまった。
「……」
「……」
このままではよくない! 孤児院で培った仲良しになる必殺技を切ることにする。私は弥生ちゃんの背中に腕を回し、顎を肩におき、優しくそっと抱きしめる。
「えっ? えっ?」
弥生ちゃんは混乱しているようだ。ここで追撃をかける! 背中をゆっくり撫でる。安心させるように、味方であることを体温を通して伝えていく。次第に弥生ちゃんの力が抜けてきた。
「いきなりごめんね。ただ安心してほしくて」
「……驚いたけど、大丈夫。琴乃ちゃんって大胆なことするんだね」
やっと笑ってくれた。ほんの少しだけ心のドアを開けてくれたと思う。
「孤児院では普通なことだったから」
「……そうなんだ。えっと……特訓のことだよね?」
「無関係ではないけど、私は弥生ちゃんのことを知りたいと思ったから。できれば好きなこととか聞かせてほしい」
弥生ちゃんは一瞬身体を固くさせ、離れようとする。
「ごめんなさい。急すぎたね。何も話さなくていいから、このままでいさせて」
ペースを見誤り、踏み込み過ぎてしまった。もう二度と心を開いてくれないかもと弱気になるが、まだ突き放されていないので可能性は残っていると信じる。
しばらくすると、弥生ちゃんが腕を私の背中に回して、お互いに抱きしめる形になる。弥生ちゃんは恐る恐る手を動かして撫でてくれる。こちらの不安が伝わって逆に余裕が出てきたのだろうか。
「……私の好きなものはね。家族だよ。お父さんは魔道具師で、お母さんは売り子をしてる」
話してくれた! きっと迷って迷って迷った上で話すと決断してくれた弥生ちゃん。
「お父さんが魔道具を作るときの姿は真剣で、私はそれを見るのが好き。お母さんはお父さんが作った魔道具を自信満々に売るの」
ゆっくりと、でも大切な思い出を話してくれる。私は言葉を発さずに、少しだけ抱きしめる力を変えて続きを促す。
「だから本当は騎士になるつもりはなかったの。でも適正があったみたいで……お父さんもお母さんも自由に決めていいって」
魔道具師になりたかったのか、家族一緒がよかったのか……家族のことはわからないけど羨ましいと素直に思った。
「いっぱい悩んだけど、自信を持ちたくて学校に来た……でも」
言葉を交わして一週間の私に話す内容ではないだろう。ずっと溜め込んでしまって、緩んでしまったのだ。
「全然ダメで……補助魔術だって、他よりマシってレベルで」
泣きそうだった。私も釣られて泣きそうになる。
「クラスにも迷惑かけて……委員長にも教えてもらっているのに……」
本格的に泣き出してしまった。言葉は断片的だったけど、家族想いで真面目で、その故に自分を追い詰めてしまう、それが弥生ちゃんだった。立ち直る言葉を掛けれたらよかったのだが、家族もいない私には、入学直後から委員長にも先生にも迷惑をかけている私には、その資格はないのだと思ってしまった。言葉もないまま弥生ちゃんが泣き疲れて眠ってしまうまで、私は背中をさすり続けた――




