自己紹介
お別れの済ますようにと大人たちは一方的に伝えて、その日は帰っていった。
あまり猶予はなさそうであり、明日にでも迎えに来るだろうとの予感があった。
その晩は、孤児院で過ごした皆とのお別れ会だった。
元々、働きに出る日が近かったとはいえ、急な話で泣く子たちも少なからずいた。
優菜ちゃんは多くの子どもたちに慕われていたので、たくさんの子に囲まれ別れを惜しんでいた。
私にも懐いていた子どもたちがお別れの挨拶に来てくれた。
優菜ちゃんに比べて愛想のない私だったけど、慕ってくれた子がいたことが嬉しかった。
「琴姉、なんで」「ことねぇ、いかないで」
そう言って服の裾を掴んでいた二人の兄妹。あの子たちは元気だろうか。
優菜ちゃんではなく、いつも私に付いてきていた変わった子たちだった。
「休みの日とか会いに来るからね。」
そう答えたのに現在に至るまで顔を出せず、私は嘘つきになってしまった。合わせる顔なんてなかった。
「琴乃! まさかお前らが一番に出ていくとはな」
場がひと段落したとき聖くんが駆け寄ってきた。
「想定外だった。私は最後の方だと思っていた」
「お前はいく場所なさそうだもんな」
自覚はあったが、他人から言われるとムカつくものである。優菜ちゃんみたいに目標もなかったし。
「それで何? 喧嘩売りに来たの?」
「違う違う! そうじゃなくて落ち込んでないかって心配で……でも元気そうだな。元からあんまり心配してなかったけど!」
「まぁ私よりも優菜ちゃんの方が心配。騎士なんて何するのかすらわからないし、中央だって」
聖くんは少し思案して
「そうだよなぁ、騎士っていえば建国時の話を題材にした絵本に出てきて、王を守ったとか」
その通りだった。当時の私もそのくらいの知識しかなかった。
「わかんないことは仕方がない。それより聖くんは孤児院を出てどうするの? 冒険者にでもなるの?」
「わかるか! 冒険者になる予定だよ。他にも何人か誘ってな。実はお前も誘うつもりだったんだぜ?」
わかりやすいお世辞に笑いそうになってしまった。強い上に気を遣える聖くん、これは冒険者になってもモテるに違いない。
「気持ちは受け取っておく。たまに会いましょ」
「そうだな。冒険者になれば中央に行く機会もあるだろ」
私は確信していた。聖くんはとても強くなる。昔聞いた英雄のように輝くのだと。
お別れ会が終わってから優菜ちゃんと話をした。
「私たちどうなるんだろう」
「きっと悪いようにはならないと思う」
そんな話をずっとしていたと思う。結論の出ない話だったけど、一人でいるのは耐えられそうになかったから。
その日は二人、同じベットで眠った。
「今までお世話になりました」
優菜ちゃんと並んで最後の挨拶をし、迎えに来た大人たちと旅立った。
孤児院のあった衛星都市から騎士養成学校のある中央都市へ。中央都市は想像していた以上に清潔感に溢れており、目につく全てのものが色づいて見えるほどだった。
入学式までの数日間は自由に敷地内であれば、探索することができた。ただ学校は全寮制で自由に外出することもできず、自由に遊びにも行けた孤児院と比べ、牢獄のようで息苦しさを感じていた。
入学式を終え、クラス分けが発表されると悲嘆に暮れてしまった。多くの人が想像した通り、優菜ちゃんとクラスが分かれてしまったのだ。そのままボーとしていたところ先生が引きずってクラスまで連れていかれた……
「お前たちの担任となった山城だ。前衛型でAランク。授業、訓練の全般を担当する」
山城先生、推定三十代後半くらいだろうか。背も高くがっちりとした体格で、見るからに頼りになる出で立ちだった。騎士のランクというものは後に授業で習ったが、Aランクは国からも超一流と認められた者にしか与えられない。または聖騎士とも呼ばれる。
「副担任の五十嵐です。後衛型でBランク。魔術師を志す人は関わる機会も多いでしょう」
五十嵐先生は山城先生よりも若く、二十代後半くらいだろうか。背は高いけども少し線が薄い気がする。眼鏡をしていて切れ長の瞳、涼しげな目元、優菜ちゃんの好みに合致する。早く教えてあげなけいと恨まれそうだ。
「さてこれから自己紹介をしてもらう。天羽。お前からだ」
山城先生からまさかのご指名。先ほどボーっとしていたから、目を付けれてしまったのか。いや単純に五十音順だろう。トップバッターにされたことを恨みに思っていたので変なことを書いてしまった。しかし自己紹介、ここはどうするのが正解か。
「どうした。天羽、前に出てこい」
再度呼ばれてしまった。このとき私は何を思ったのか、たしかクラスの空気が重苦しいように感じていたと思う。孤児院では新しい子が来たとき、温かい雰囲気で迎えていたことを思い出し、自己紹介に一捻り入れることにした。
「天羽琴乃といいます。孤児院では年下の子たちには琴乃お姉ちゃんや短くして琴姉と呼ばれていました。皆様も姉だと思って好きに呼んでください」
最後にお辞儀をして自己紹介を終えた――
全然雰囲気は良くならなかった。私は間違えてしまったようだ。
「……次!」と号令をかけてくれた山城先生はまるで救いの神のようだった。山城先生、ついていきます。




