終わりへの一歩
色んな作品をなろうで読ませてもらっている中、自分自身でも小説を書いてみようという思いが強くなり投稿しました。処女作です。最後まで完走することが目標です(*´▽`*)
これは遺書である。
私が私を殺す前に、私の大切な友人たちを記録として残すためこの手記を残す。
ここ一ヶ月、一人で部屋にいる時に瞼を閉じれば思い出すのは、薄暗い闇と血の匂い。そして変わり果てた……友達に囲まれている光景。
あの時から胸に穴が空いているような、自分が自分でないような気がしている。
記憶は朧気で思い出すのも辛いけれど、大切な友人たちが精一杯、生きた証を、本物の英雄であった証をここに記す。
自己紹介が遅れてしまった。
私の名前は天羽琴乃。今世間で騒がれている学生大量失踪事件の生存者だ。
地上に戻りひと月も経った今頃になって、一連の事件の顛末を記す気になったのは、亡くなった犠牲者のお墓ともいうべき記念碑が建てられたからだろう。
何度も大人たちにお墓を建てて欲しいとの希望が叶った。
事件の詳細については、話し上手でもないし、何度もインタビューに答えるのは、私の性格上難しいと判断し、このような形をとった。
世間のみんなが知りたがっている失踪事件の顛末を伝える。
伝えれば終われる。終わらなければ。
どこから書いたものか悩みはしたが、事件のことだけでは大切な友人たちのことを伝えきることはできないだろう。
私の最も古い記憶から思い出そう。
最も古い記憶は孤児院の小さな部屋で遊んでいた記憶だ。
なぜ孤児院に預けられたのか。または両親に捨てられでもしたのか今でもわからない。
孤児院での生活は清貧を絵に描いたような生活だった。
朝早く起き、顔を洗い、布団を畳んでから食堂へ。
朝ご飯はパンと少し冷めたスープ。
そこからは掃除の時間、自分の部屋、食堂や礼拝堂に至るまで綺麗にする。
私は掃除の時間が好きだった。ほんの少しだけ世界が綺麗になり、気分がよい。
それと自分の世界に入り込める気がした。
お昼ご飯はお粥とたまにお肉がついてくる。小食だった私には我慢できる量だったけど、他の子たち、特に男の子には少なくて文句が声が多かった。
午後は孤児院にいる大人たちから文字や計算を教えてもらった。
この手記が書けるのも孤児院での教育があってのもので、お金も立場も何もない孤児に優しく教えてくれた先生たちには感謝の念が堪えない。
最初に習う字は孤児院の名前からだった。正式名称を天羽孤児院という。
初代孤児院長の名前からとっているのだと先生に教えてもらった。
私たち孤児は名字がないことも多く、そういった子たちには孤児院を出るときに、天羽の名字をいただけるのだ。私も当然その一例である。
名字ができるのは何とも可笑しな気持ちになったものである。
勉強の時間が終わると自由時間になる。外に遊びに行くのも部屋に戻るのも自由だ。
私は外に行くことが多く、駆けっこやかくれんぼに加え木登りが少し得意だったりする。
孤児院で一番仲が良かったのは同い年の優菜ちゃんだ。いつもニコニコしていて年下の子どもたちに優しい子だった。
小さな子どものいたずらも
「あらあら」
の一言で片づけてしまえる、そんな包容力のある大人びた姿に私は憧れた。
私はもっと怒りっぽかったから……
優菜ちゃんと一緒に掃除をしていた時だったと思う。確か孤児院を出る年齢が近づいてきた時だ。
「琴乃ちゃんは将来何になりたい?」
真剣な質問だったと思い返した今では思う。
「うーん、今みたいに静かに暮らせたらそれでいい」
「なりたいものとかはないの?」
「ご飯が食べれて、優菜ちゃんと一緒なら何でもいいかな」
正直なりたいものなんてなかったから、適当に答えていた。多くを望んだつもりはなかった。
「私はね。琴乃ちゃん、孤児院の子たちが風邪とか熱で苦しんでいるときに思ったの。
何かしたい。何か少しでも苦しみを和らげることができたらって。だから人を助けるお医者さんになりたいの」
「お医者さん……お医者さん似合うよ。優菜ちゃんならなれると思う」
苦しんでいる病気の子がいた時、ずっとそばで看病していた優菜ちゃんなら。
「応援、してくれる?」
もちろんと答えた私に穏やかな笑顔を見せてくれた。そして他愛のない話をしながら掃除に戻っていった。
孤児院を出たら身寄りのない私たちは働きに出るか、命を代価に迷宮を探索する冒険者になるくらいしか道はない。
たまに養子としてもらわれる子もいたが、珍しいケースだった。
私は当然働きにでるつもりだったし、先生たちもそう思ってたに違いなかったはずだ。
働き先は孤児院と繋がりのある場所になる。病院はあったかな。優菜ちゃんの希望は通ってほしいと願ったし
先生には
「優菜ちゃんをお願いします!」
なんてお願いを何度もしていた。先生困らせてごめんなさい。
しかし既定の年齢に達した市民に対して実施される魔力検査に、私と優菜ちゃんは引っかかってしまった。
検査結果が出た瞬間の大人たちの反応は今でのはっきりと覚えている。
決して喜びの目ではなく、驚愕と警戒の目であった。
魔力とは人間であれば誰でも有しているものであるし、動物や植物にだって魔力はある。
そのためわざわざ魔力の検査というのも不可解であったし、今ではそれ以外のものを探していたのではないかと推測している。
実際に同い年の子どもたちの中で、魔力の扱いが上手く、強いとさえ言えるのは、聖くんという男の子だったと思う。
魔道具の扱い方上手で、色んな魔道具を使っても疲れた顔を見せたことがなかったし、加えて敵わないなと思ったエピソードが一つある。聖くん含め、何人かで外に遊びに出かけたときのことだ。
「そろそろ帰ろうぜー」
「えー、まだ大丈夫だよ」
もう少しいいかなと考えていた私だったが、聖くんの
「いや、今日はもう帰ろう。最近日が落ちるのも早くなってきたし」
聖くんは男の子たちの中で一目置かれており、女の子たちの中でも人気が高く、まさに鶴の一声だった。
みんなが帰路に着いたとき、それは現れた。
大型犬、いや当時は子どもだったから大きく見えただけで、実際はそんなに大きいサイズではなかったはずだ。
犬型の魔物が都市の中にいること自体が異常事態で、何より私たち人間に対してあそこまでの敵意を向けられたことに誰も動けないでいた。
最初に動いたのは、魔物の方だった。最も近かった子に飛び掛かっていく。
「逃げて!!」
そう叫んだのは、多分優菜ちゃんだったと思う。
ターゲットにされた子は恐怖で動けないようで、私たちは最悪の事態を想像した。
でもそうはならなかった。魔物に向かっていった子がいたのだ。
「くらえ!」
聖くんは、持っていた木の棒に魔力を込めて、気合の入れた一撃が魔物に入った。
「キャウン……」
魔物はよろめきながら数歩さがり、こちらを睨んでいる。
「今のうちに!」
その掛け声に、みんな一斉に走り出した。
私はなぜか動けず、その後何が起きたかも覚えている。
夕陽の眩しさとは別に、聖くんの体が薄っすらと光っている。
魔物はその姿を見て、怯んだように見えたが勇敢にも牙を剥き飛び掛かる。
聖くんは魔物を真っすぐ見つめ、腰を落とし、首元に目掛けて一突き。
ぐしゃりと骨が砕ける音が聞こえ、地面に落ちた魔物は、少しの間痙攣していたが、やがて動かなくなった。
「マジでびびったな。琴乃も大丈夫か?」
まずは自分の心配をしてほしいところだ。子どもで、しかも木の棒で普通は魔物と戦って勝つなんて。
「琴乃?」
「ううん、大丈夫。それより聖くんの方こそ無理したんじゃない?」
「それが意外に調子がいいんだよなぁ。なんつーか今目が覚めたみたいな」
それは、もしかしたら英雄がこの世に生まれ落ちた瞬間だったのかもしれない。
あんな凄い戦いをした聖くんが一番だと思う。
それなのになぜ、私と優菜ちゃんが選ばれたのか。
私と優菜ちゃんの二人は検査に来ていた多くの大人たちに囲まれ今後の話を一方的に聞かされた。
準備ができ次第、中央都市にある騎士養成学校に入学することになる――と。




