私も共に逝きたい
翌日から探索を再開する。あと数日休憩に充てる案も出たのだけど、朝雛ちゃんを筆頭に魔石への依存が進行しているメンバーからの強い要望で出発となった。
私たちは二つのグループに分かれつつあった。魔石を常に取り込み、戦闘を積極的に行う第一グループ。魔石は最低限に抑え、戦闘は消極的な第二グループ。私は特異体質で魔石を取り込まないけど、戦闘にはスカウトとして積極的に参加するというどちらのグループでもない異端者であった。
『悪夢迷宮』という環境にもなれ、私たちは忘れてしまっていた。私たちは『禁忌』を侵している。それが当たり前の光景となり、感覚が麻痺してしまっていた。最初はただの違和感だった。
魔石を積極的に取り込んでいる第一グループのみんなの背が伸びている気がしたのだ。このときの私は魔力は肉体にも影響するから、成長期にでも入ったのではと楽観的に考えていた。
次に感じたのは朝雛ちゃんに魔力共有をしてもらっているときだった。触れている手や肌の感触が人のものではなく、ザラザラとした鱗に近い感触だった。
「ちゃんとつけているのねぇ、えらいわぁ」
朝雛ちゃん自身は特に気にしていないのか、魔石や私がちゃんとペンダントをつけていることの方が重要のようだ。
違和感が確信に変わったのは弥生ちゃんと身体を拭いているときだった。
「えっ!」
「琴乃ちゃん、何かあった?」
背中の上部、肩甲骨のあたりから植物の芽のようなものが生えてきている。これは一体……弥生ちゃんに伝えていいのか。
「えっと、植物の芽が生えてて」
隠しいても誰かが見つけてしまうと判断し、正直に伝えることにした。雫ちゃんや小夏ちゃんにも診てもらうが原因はわからず、帰ったら調べてもらいましょうという無難な結論に落ち着く。私は理由はないが異常なことが起きていると確信していた。
「きゃあああ」
第一グループの集まっていたあたりが騒がしい。モンスターは出現したわけではなく、一見異常は見当たらない。
「どうしたの?」
代表して雫ちゃんが問いかけるが、返事はない。しばらくして重たい口を開いたのは朝雛ちゃんだった。
「……身体に変化があったのよぉ」
朝雛ちゃんのその肌は鱗が巻き付き、爪も鋭く、目の瞳孔も縦長に変化している。他第一グループの面々も多かれ少なかれ身体が異形へと変貌してしまっている。
「そういうことね。今後は魔石を取り込むのは最小限にしましょう」
雫ちゃんのその提案は第一グループに無常にも却下される。身体に異常が出ても魔石を求め続ける。末期症状だった。こちらも弥生ちゃんに症状が出てしまっている。できる限り早くこの『悪夢迷宮』を脱出しなければ命はない。
それでも第一グループの行動指針は変わらない。生きて帰るという目標はすでに忘れ去られ、魔石を得るためにただモンスター殺戮する、それだけの存在になってしまった。第二グループも戦わないわけにはいかず、食料の問題もあり、魔石の摂取は続けられる。弥生ちゃんに生えた芽は、どんどん成長し蕾まで成長する。レオくんは身体がより大きく肥大化し、鬣まで生えてきている。彼が昔名乗った通り、獅子に成ろうとしているのだろう。せめて異形ではなく自らが望んだ存在になってほしいと願う。
雫ちゃんは身体に黒い斑点が浮かび上がり、小夏ちゃんは足先から透けていっている。陸くんは幸いなことに変化は見られないという。
異形化について発覚してから、パーティみんなからの魔力供給を申し出てくる機会が増えてきた。
「やめて! どうして魔力を渡そうとするの? 大事にして!」
私は抗議の声をあげたが、パーティのみんなは死期を悟った病人のように悲壮な決意を目に湛え、魔力を渡してくる。抵抗しても無駄だった。人数差もありながら、本当は心のどこかでわかっていたのだ。もう手遅れなんだと――
一度だけ魔石を食べようとしたことがある。どうせ助からないのなら私もみんなと同じになりたかった。頬に強い衝撃を感じる。何度も何度も、手が痛いだろうに、何度も何度も。
「あんたは馬鹿よ!!! コト!! 大馬鹿よ……」
私のためを思って本気で叩いてくる小夏ちゃんは、大粒の涙をこぼし続ける。私にはその涙の方が痛かった。
「小夏、もういいでしょ、琴乃も私たちの気持ちわかってくれるわね」
言葉は出なかった。私も泣き続け、何とか頷くことしかできなかった。




