またいつか
迷宮の探索は順調だったが異形化の進行は留まることを知らず、弥生ちゃんに至っては全身を植物のツタが覆い、花まで咲き誇っている。喉も植物で覆われてしまったのだろうか。言葉も長いこと聞いていない。休憩のときはできる限りみんなの傍にいることを心掛け、一方的に話し続ける。いつ誰かが話せなくなるかわからない。でも夜になると花の香りが漂い私は睡魔に誘われ、夢の世界に旅立ってしまうようになった。それが言葉の話せない弥生ちゃんの優しさであるとは語るまでもない。
「ちょっトぉ、いイいかしらぁあ」
群れを成していたモンスターを撃破した直後、朝雛ちゃんが私に巻き付いてくる。すでに下半身は蛇の胴体になり、言葉の発声も怪しくなりつつある。
「何でしょうか」
「なんDaかねぇえE、あなたかRaおいしそそウなニおいがするのよOおお」
その瞬間私の首に鋭い牙を突き立てる。
「ぐっ……やめて」
締め付けられ、身動きも取れず、意識が遠のく。
「琴乃を助けるわよ!」
雫ちゃんの号令でレオくんが獣のような雄たけびを上げながら切りかかり、陸くんが側面から追撃を行う。二人の攻撃を受けながらも朝雛ちゃんは風の魔術で反撃を行い、距離を取られてしまう。朝比奈ちゃんは強力なウィザードで、異形化した身体は耐久力も高い。私の命の方が先に力尽きるだろう。
「奥義 雷霆」
全身に雷を纏ったメイちゃんが私を拘束していた胴体部分を切り裂き、重度の裂傷を負わせる。少し肉の焦げた匂いがする。拘束が緩んだ隙に、全力でその場を離れる。
「嗚呼……あAあアア」
もうまともな言葉はなく、私を取り戻すために動き出す。そんな彼女を阻んだのは雷を纏ったメイちゃんと雫ちゃんである。阿吽の呼吸とはまさに二人のことを指すのだ知った。直線的な動きしかしないメイちゃんの隙を埋めるように雫ちゃんが的確に援護する。朝雛ちゃんの反撃も雫ちゃんが防ぎ、メイちゃんは攻撃に集中している。ただ暴れまわるしかできなくなった朝雛ちゃんに、二人を突破することはできない。人質もなくなり、小夏ちゃんたち後衛型の魔術も命中し、怯んだ隙を雫ちゃんの止めをもって戦闘は終わる。
「人殺し!」「友達だったのに」
そんな声もあったが、不破くんに黙らされていた。
「俺たちもいつかバケモンなる。あんな状態で生きたいのか?」
理性も意思もなく、ただ本能のまま生き続けることを望む人はいないだろう。
「ちっ、雫も気にすんなよ。全員で殺したんだ」
いつも雫ちゃんと言い合いをしていたから勘違いしていたが、実は仲良くなったのかな。もしかしたら『悪夢迷宮』限定はあるけど議論をし続けた不破くんは雫ちゃんにとって一種の支えになっていたのだろう。少し放心していた雫ちゃんであったが、気を取り直し前を向く。
「……大丈夫よ。それよりせめて朝雛さんを弔ってあげましょう」
今まで死者を弔う余裕すらなかったが、今は違う。せめて死後は安らかに過ごしてほしい。
「火葬は私に任せてくれ。試したいことがある」
小夏ちゃんが朝雛ちゃんの死体の傍に片膝をつく。
「今までありがとう。また後でね……『火蛍』」
朝雛ちゃん身体は火に包まれると同時に無数の白い光が立ち上る。ゆっくりと穢れを清めた魂が天へと帰るように、ゆっくりと静かに昇っていく。幻想的な光景にしばし周囲の警戒も忘れ、見惚れてしまう。朝雛ちゃんは灰となり、その中には大きな魔石が一つ残っていた。人間に魔石は存在しないはずであったが、異形化した関係であると推測した。
「魔石が……いえ朝雛ちゃんの心は大切に持っていきましょう。琴乃、お願いできる?」
「私が必ず」
殺される寸前だった、それでも優しい子であったことを私は、私たちは知っているのだ。遺灰はそれぞれ少しずつ回収し、『収納袋』に仕舞う。
あの後、私は小夏ちゃんに魔術のことについて、質問していた。
「あの魔術『火蛍』って知らなかった。あんな綺麗な魔術があるんだね」
「でしょ。実は私が作ったオリジナルなの」
認められてはないけどね、と付け足したがあれは素晴らしい魔術であったことはこの場にいた全員が認めるところである。
「教えてあげる」
私の手を取り魔力を流しながら使い方を教えてくれる。
「私、ウィザードの素質はなかったけど……」
「大丈夫よ。集中して」
信じてくれたのなら、応えねばならない。小夏ちゃんは遺そうとしてくれてるのだとわかるから。
何度か試行錯誤をして、火の威力も光も薄いが発動までこぎつけることができた。
「やった! 初めて魔術が成功した!」
よくやったねと頭を撫でてくれた小夏ちゃん、この時間がいつまでも続けばいいのに――
『火蛍』を見たときから思っていたことがある。もし『火蛍』を出来たのなら私が弔わなければならない人がいる。そっと『収納袋』から優菜ちゃんの腕を取り出す。
「それは……」
「うん、優菜ちゃんの……弔わせて」
膝をつき、優菜ちゃんの腕に祈るように、許しを請うように詠う。
「優菜ちゃん、お別れずっと言えなくてごめんね。いつか会いに行くから許してね……『火蛍』」
その日は特別な日となった。みんなが忘れていた死者を弔うという儀式を思い出せたのだ。各々大切な人の形見や故人への手紙を記し、『火蛍』で送る。人はいつか死ぬ。なればこそ尊いのだと今一度心に刻む。
(´Д⊂ 朝雛ちゃんは書いている内に味が出てきたキャラでした




