表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/17

またいつか


 迷宮の探索は順調だったが異形化の進行は留まることを知らず、弥生(やよい)ちゃんに至っては全身を植物のツタが覆い、花まで咲き誇っている。喉も植物で覆われてしまったのだろうか。言葉も長いこと聞いていない。休憩のときはできる限りみんなの傍にいることを心掛け、一方的に話し続ける。いつ誰かが話せなくなるかわからない。でも夜になると花の香りが漂い私は睡魔に誘われ、夢の世界に旅立ってしまうようになった。それが言葉の話せない弥生(やよい)ちゃんの優しさであるとは語るまでもない。


「ちょっトぉ、いイいかしらぁあ」


 群れを成していたモンスターを撃破した直後、朝雛(あさひな)ちゃんが私に巻き付いてくる。すでに下半身は蛇の胴体になり、言葉の発声も怪しくなりつつある。


「何でしょうか」


「なんDaかねぇえE、あなたかRaおいしそそウなニおいがするのよOおお」


 その瞬間私の首に鋭い牙を突き立てる。


「ぐっ……やめて」


 締め付けられ、身動きも取れず、意識が遠のく。


琴乃(ことの)を助けるわよ!」


 (しずく)ちゃんの号令でレオくんが獣のような雄たけびを上げながら切りかかり、陸くんが側面から追撃を行う。二人の攻撃を受けながらも朝雛(あさひな)ちゃんは風の魔術で反撃を行い、距離を取られてしまう。朝比奈ちゃんは強力なウィザードで、異形化した身体は耐久力も高い。私の命の方が先に力尽きるだろう。


「奥義 雷霆(らいてい)


 全身に雷を纏ったメイちゃんが私を拘束していた胴体部分を切り裂き、重度の裂傷を負わせる。少し肉の焦げた匂いがする。拘束が緩んだ隙に、全力でその場を離れる。


「嗚呼……あAあアア」


 もうまともな言葉はなく、私を取り戻すために動き出す。そんな彼女を阻んだのは雷を纏ったメイちゃんと(しずく)ちゃんである。阿吽の呼吸とはまさに二人のことを指すのだ知った。直線的な動きしかしないメイちゃんの隙を埋めるように(しずく)ちゃんが的確に援護する。朝雛(あさひな)ちゃんの反撃も(しずく)ちゃんが防ぎ、メイちゃんは攻撃に集中している。ただ暴れまわるしかできなくなった朝雛(あさひな)ちゃんに、二人を突破することはできない。人質もなくなり、小夏(こなつ)ちゃんたち後衛型の魔術も命中し、怯んだ隙を(しずく)ちゃんの止めをもって戦闘は終わる。


「人殺し!」「友達だったのに」


 そんな声もあったが、不破(ふわ)くんに黙らされていた。


「俺たちもいつかバケモンなる。あんな状態で生きたいのか?」


 理性も意思もなく、ただ本能のまま生き続けることを望む人はいないだろう。


「ちっ、(しずく)も気にすんなよ。全員で殺したんだ」


 いつも(しずく)ちゃんと言い合いをしていたから勘違いしていたが、実は仲良くなったのかな。もしかしたら『悪夢迷宮』(ナイトメア)限定はあるけど議論をし続けた不破(ふわ)くんは(しずく)ちゃんにとって一種の支えになっていたのだろう。少し放心していた(しずく)ちゃんであったが、気を取り直し前を向く。


「……大丈夫よ。それよりせめて朝雛(あさひな)さんを弔ってあげましょう」


 今まで死者を弔う余裕すらなかったが、今は違う。せめて死後は安らかに過ごしてほしい。


「火葬は私に任せてくれ。試したいことがある」


 小夏(こなつ)ちゃんが朝雛(あさひな)ちゃんの死体の傍に片膝をつく。


「今までありがとう。また後でね……『火蛍』」


 朝雛(あさひな)ちゃん身体は火に包まれると同時に無数の白い光が立ち上る。ゆっくりと穢れを清めた魂が天へと帰るように、ゆっくりと静かに昇っていく。幻想的な光景にしばし周囲の警戒も忘れ、見惚れてしまう。朝雛(あさひな)ちゃんは灰となり、その中には大きな魔石が一つ残っていた。人間に魔石は存在しないはずであったが、異形化した関係であると推測した。


「魔石が……いえ朝雛(あさひな)ちゃんの心は大切に持っていきましょう。琴乃(ことの)、お願いできる?」


「私が必ず」


 殺される寸前だった、それでも優しい子であったことを私は、私たちは知っているのだ。遺灰はそれぞれ少しずつ回収し、『収納袋』(アイテムボックス)に仕舞う。


 あの後、私は小夏(こなつ)ちゃんに魔術のことについて、質問していた。


「あの魔術『火蛍』って知らなかった。あんな綺麗な魔術があるんだね」


「でしょ。実は私が作ったオリジナルなの」


 認められてはないけどね、と付け足したがあれは素晴らしい魔術であったことはこの場にいた全員が認めるところである。


「教えてあげる」


 私の手を取り魔力を流しながら使い方を教えてくれる。


「私、ウィザードの素質はなかったけど……」


「大丈夫よ。集中して」


 信じてくれたのなら、応えねばならない。小夏(こなつ)ちゃんは遺そうとしてくれてるのだとわかるから。


 何度か試行錯誤をして、火の威力も光も薄いが発動までこぎつけることができた。


「やった! 初めて魔術が成功した!」


 よくやったねと頭を撫でてくれた小夏(こなつ)ちゃん、この時間がいつまでも続けばいいのに――


 『火蛍』を見たときから思っていたことがある。もし『火蛍』を出来たのなら私が弔わなければならない人がいる。そっと『収納袋』(アイテムボックス)から優菜(ゆうな)ちゃんの腕を取り出す。


「それは……」


「うん、優菜(ゆうな)ちゃんの……弔わせて」


 膝をつき、優菜(ゆうな)ちゃんの腕に祈るように、許しを請うように詠う。


優菜(ゆうな)ちゃん、お別れずっと言えなくてごめんね。いつか会いに行くから許してね……『火蛍』」


 その日は特別な日となった。みんなが忘れていた死者を弔うという儀式を思い出せたのだ。各々大切な人の形見や故人への手紙を記し、『火蛍』で送る。人はいつか死ぬ。なればこそ尊いのだと今一度心に刻む。


(´Д⊂ 朝雛ちゃんは書いている内に味が出てきたキャラでした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ