毒のように
「キイイイイイイイイ」「…………」「ふふっ」
突然叫ぶもの、口を閉ざしたもの、些細なことで笑ってしまうもの、みんな限界だった。
「おい! もうこいつら置いていこうぜ! 俺たちまでおかしくなってしまう!」
「いいえ、全員で生きて帰る! それがリーダーとなった私の役目!」
今ではまともに会話しているのは不破くんと雫ちゃんくらいなものだった。私も何とか休憩時には小夏ちゃんや弥生ちゃんに話し掛けようとするのだが、無駄なエネルギーを消費させてしまうのではないかっと思ってしまってからは、話かけることも減っていった。
「何を……している? 何を!」
メイちゃんが朝雛ちゃんを問い詰める。
「何って魔石よ。甘くて美味しいわよ。身体に力が満ちていくわ」
魔石だった。魔石を食べることは禁じられている。『禁忌』とさえ呼ばれ忌避されていたはずだ。それなのに、なぜ朝雛ちゃんは堂々と自信ありげに魔石を食べているのかわからない。
「魔石を食べれば解決じゃない」
悪魔の囁きだったと思う。ここに魔石はいくらでもある。あれだけやつれて生きることを諦めていた朝雛ちゃんが、こんなに生き生きとしている。その姿は蠱惑的にも見え、私たちはその誘惑に抗う術を持ってはいなかった。
「魔石を使いましょう」
許可せざるを得なかった。それほど魔石を食べた朝雛ちゃんは凄まじいの一言で、好んで使用したのは風系中位魔術『風刃』はモンスターを一撃で屠り去っていく。途中からはわざと威力を抑え、嬲るようにモンスターの苦しむ姿を見て嗤っていた。
「食べられないわよね……」
心配そうに雫ちゃんが声を掛けてくれる。
「うん、決心つかなくて」
「私は食べざるを得なかったけど、琴乃。あなたは違うわ」
「どういうこと?」
「あなたは他人の魔力を受け入れられる体質があるから」
鍛錬のときは役に立った体質だったけど、そういった使い方もあったとは。
「……いやダメだよ、私だけ食べないなんて」
そんな押し問答をしていると、気味の悪い笑顔を張り付けた朝雛ちゃんが私にしだれかかってくる。顔や首をべたべたと触りながら、
「面白い話をしているわねぇ。魔力をあげるわよぉ」
「な、なんで」
「だってぇ、あなたが食べないなら、私が食べれるじゃない」
「……私の持っている魔石を渡す代わりに、魔力を分けてくれるの?」
「そうよぉ、いいでしょ? むしろそれがいいなぁ」
段々と睨み付けるように、首に触れている手の力も入ってくる。雫ちゃんが止めようとしてくれるが、朝雛ちゃんは芳醇な魔力を解放し、地面や壁を切り刻み、威圧する。
「ねぇねぇ、お返事してくれないのぉ?」
魔石への依存、その典型だったのだろう。食べ続けないと、感情の抑制が効かなくなり、平気で暴力を振るうことができるようになる。元々は大人しい子だったはずなのに。
「……ぁ……する……わたす」
息が苦しい。
「そうよねぇ、お利口な人は好きよぉ」
「ケホッ……はぁ……はぁ」
息も絶え絶えに、『収納袋』からいくつか魔石を取り出す。朝雛ちゃんはひったくるように魔石を奪うと、愛しい人を見るように、熱を浮かべた表情で魔石を味わっていく。食べ終えた後の朝雛ちゃんは上機嫌で、私をまるでペットを扱うかのように撫でまわしてくる。
「いい子ねぇ、約束通り魔力をあげるわぁ」
顔を首を身体を撫でまわしながら魔力を注ぎ込んでくる。感覚的なものだが、ピリピリするような苦みのある魔力だった。それでも魔力は魔力。久しぶりに魔力が満たされ、生きるための力に変える。頭がすっきりし、身体も調子もいい。過程に問題はあったにせよ、感謝はしておくべきだろう。
「ありがとう、朝雛さん、助かった」
「いいのよぉ、それよりこれからもよろしくねぇ」
『収納袋』には実習から今のいままで倒したモンスターの魔石がぎっしり詰まっている。
「ごめんなさい。私の責任だわ」
雫ちゃんは謝ってくれるけど、仕方のないことだと思う。
「気にしないで、久しぶりに元気になれて嬉しいよ」
もし朝雛ちゃんを止めるなら、きっと殺し合いになったはず。朝雛ちゃんは魔石のためなら平気で人を殺す選択を選べるようになってしまった。




