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「なんだか現実とは思えない一日でしたね。陛下のご決断の素早さに驚きました」
国王陛下と王妃殿下を見送った後で、皆で夕食を頂きながら呟くと目の前に座るお義母様が微笑む。
「陛下は昔からそうですよ、ねえ旦那様」
「そうだな。陛下は昔から思い切りがいい」
あれは思い切りが良いとは少し違う気がするけれど、お義父様がそう言うならそうなのだろう。
私は長いものには逆らわずに素直に巻かれる方だ、無駄な抵抗はしない。と思いながら美味しそうな焼き色が付いた魔鴨肉にナイフを入れる。
公爵家の料理人の腕は良い、とっても良すぎて食べ過ぎてしまいそうだ。
「それにしても、北の塔とは。まさかヤニック・フルーリーまで共にとは驚きました」
「まあ、あれは上に兄がいるからな。あの言い方であれば家に罪は問わないのだろうし、それならばフルーリー家も何も言えないだろう」
友人として側にいさせられたギュスターヴ様と違い、彼はお目付け役だったみたいだからその立場であれば第二王子殿下を諫めなければならなかった。決して殿下の言うがままに呪いを掛けてはいけなかったし、猫になった殿下をこの屋敷に連れて来るのはもっともっとしてはいけなかった。
彼が殿下を連れて来なければ、殿下の気持ちが悪い思惑をこちらに知られることは無かったのだから。
「父上達の準備がまさか陛下達への連絡だとは思いませんでした」
「実はお前が呪いを受けた時、陛下に約束を取り付けていたのだ」
「呪いを受けた時にですか?」
「私は甘すぎると申し上げたのですけれどね」
重々しく答えるお義父様と、それを困った様に見つめるお義母様、二人を見ながら私は無言でお肉を頬張る。
程よい焼き加減だし臭みは一切無いし、味付けがとても良い。実家の料理人も良い腕だったと思うけれど、使っている素材の質が全く違う。こんな良い食事を日々出来る様になったら、私は太ってしまうかもしれない。
「お前は第二王子の失態を隠そうとしていたが、それは臣下としてしてはいけないことだ。あの方の浅慮さはその都度正して行っても治らなかったのだから、迷惑を被った本人が簡単に許してはならないのだ」
「それは確かにそうです。そのせいでシュテフイーナを無駄に傷つけることになったのですから」
私を傷つけたというのは、初夜を一人で過ごさせたことを言っているのだろうから、私は何も言わずまたお肉を頬張る。もぐもぐと味を堪能しながらよく噛んで、お肉が口に入っているから何も言えないのだと見せる。
「そうね、初夜の恨みと出産時の恨みは生涯続くと言われているのだから、あなたはしっかりと反省なさい」
お義母様の言葉に頷きそうになりながら、気力で堪える。
出産時の恨みって何だろう、初夜にやらかされた時と同じくらいの恨みってなにがあるのだろうかと、未知のことに不安になる。
「はい、生涯忘れず、生涯シュテフイーナに尽くします」
「そうね、あなたはそれ位した方がいいわ。シュテフイーナ、甘い顔はしてはいけませんよ。この子は少しキツクしておく方がいいのですから」
「母上、それは……」
「お義母様の教え心に刻みますけれど、私甘くなってしまうかもしれません」
お義母様の教えは大事、でもギュスターヴ様はもっと大事だから困った顔でそう言えば「きゃあ、甘くなるんですってえ」とはしゃいだ声が少し離れた席から聞こえて来る。
はしゃいだ声の主は、ギュスターヴ様の妹だ。私の義妹になった彼女は、少々夢見る少女かもしれない。
第二王子殿下のやらかしの理由と、後始末はギュスターヴ様の弟妹達にも周知するため、すでに食事を終えているというのにここに二人も座っているのだ。
「まあ、それは新婚ですものね。シュテフイーナはしっかりしているようだから、好きになさい。でも何か困りごとがあれば遠慮なく言うのですよ」
「はい、お義母様。ありがとうございます、心強いです」
嫁いで問題が起きるのは義母と義姉妹達だと良く聞くけれど、今のところ私は大丈夫そうだと安心する。
「シュテフイーナ、本当に反省しているし、絶対に忘れないから」
「ギュスターヴ様、信じていますわ」
にっこりと微笑んで、美味しい食事を終える。
あまりにも長い一日だったし、もう眠りたいけれどそうもいかないのが新婚の私達だ。
二人きりで少々お酒を頂いた後、それぞれ入浴し二人用の寝室に向かった。
「シュテフイーナ」
「ギュスターヴ様」
時間はもうすぐ日付が変わる時間、昨日よりもきわどい寝間着を着せられた私をギュスターヴ様は赤い顔で見つめている。
「猫になった姿も見てみたかった気がしますけれど、やっぱり人間がいいです」
「シュテフイーナ」
私が意地悪く笑うと、へにょりと眉を下げて情けない顔でギュスターヴ様が私の名前を呼ぶ。
遠くから日付が変わったのを知らせる神殿の鐘の音が聞こえて来るけれど、ギュスターヴ様は人のままだ。
「人でも猫でも、生涯一緒にいてくれる?」
「ええ、初夜の延期も浮気も許しませんが、生涯あなたと共にいます」
ふふふと笑いあって、抱き合う。
これから先、何年も何年も夜になると悲しそうな猫の鳴き声が北の塔から聞こえて来ると噂になったけれど、その声の主が元人間の王子だということを知る者はほんの僅かにいるだけだった。
終わり
お読みいただきありがとうございます。
没ネタ供養の短編でした。
色々設定が甘くて申し訳ありません。
ちょっとでも楽しんで頂けていたら嬉しいです。




