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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第七十二話 女王の願い

『元いた世界』、つまり現代日本で発症した精神病に今も苦しめられているマヤリィは、流転の國に帰ってきてからも度々その症状に悩まされた。

「ルーリ、傍にいて頂戴…」

流転の國の女王であるマヤリィが弱っている姿を見せるのは、側近のルーリもしくはジェイである。二人とも、マヤリィの病気について熟知し、何とかして彼女を病の淵から救い出そうとしている。しかし、マヤリィの病気…『双極性障害』を治す方法は見つからない。

「はい、マヤリィ様。私はここにおります。決して貴女様のお傍を離れるようなことは致しません」

悪夢にも等しい月日を乗り越え、記憶を取り戻し、再びマヤリィの傍近く仕えることとなったルーリ。

「貴女…髪伸びたわね…」

マヤリィはベッドに横たわりつつ、美しいルーリを見て微笑む。

以前『猛毒』魔術に冒されたミノリを救う為に捧げた髪も、今ではだいぶ長くなった。

「あの時、禁術をかけなくてよかったわ。…本当に綺麗なブロンドね」

「有り難きお言葉にございます、マヤリィ様。貴女様に褒めて頂けるとは、私の髪も喜んでいることでしょう」

そう言ってルーリも微笑む。彼女は自分の髪を愛し、大切にしているのだ。

本来はマヤリィも美しい髪の持ち主なのだが、過去に色々あったせいですっかり自分の長い髪を厭うようになってしまった。桜色の都で逃亡している最中にも、ジェイに伸びた髪を切って欲しいと頼んだほどである。

「…ねぇ、ルーリ?」

「はっ」

「ジェイを呼んでくれる?髪を切りたいの」

マヤリィの短い髪も本人の感覚では結構伸びたらしい。

「畏まりました、マヤリィ様」

ルーリは恭しく頭を下げると、ジェイに『念話』を送る。

《こちらルーリ。ジェイ、マヤリィ様がお呼びだ。至急、お部屋の前まで『転移』しろ》

ジェイに対してはこういう口調のルーリ。

《こちらジェイ。了解した。すぐに行くよ》

ルーリに対してはこういう口調のジェイ。

二人は我こそがマヤリィ様を一番愛していると考えているが、同時にお互いに敵わないとも思っている。

それでも、なんだかんだいってルーリとジェイは仲が良いし、マヤリィを病から救い出す為に協力し合っている。マヤリィもそんな二人を信頼しているから、自分の部屋に呼んだり、甘えたりする。

ジェイがマヤリィの部屋の前に『転移』したと同時にルーリがドアを開けた。

「姫…!」

ジェイは真っ先にマヤリィの元へ駆け寄る。

「具合はいかがですか?」

「ルーリと話していたら少し良くなったわ」

マヤリィがそう言うと後ろでルーリが嬉しそうな顔をした。

「それで、貴方を呼んだのは…」

「髪を切りたいんですね?」

「話が早くて助かるわ」

長い年月を離れることなく過ごしてきたマヤリィとジェイ。

(まだ何も言ってなかったのにな…)

ルーリは二人の間に入っていくことは出来ず、今はただ見守っていた。


「なんだか久しぶりに刈り上げた気がするわね」

仕上がりを見て、マヤリィは嬉しそうに微笑む。

「物凄く短くした時からそのままでしたから…襟足とか、かなり伸びてましたよ」

「マヤリィ様、素敵なヘアスタイルにございます…!」

ルーリはショートヘアの似合うマヤリィを前にして、その姿に見とれている。

「貴女様のお美しさは言うまでもございませんが、頭の形も綺麗でいらっしゃるのですね。それに、色っぽいうなじ…。今夜は私が貴女様を頂いてもよろしいでしょうか?」

一見マニッシュなショートヘアなのに、その後ろ姿は不思議と艶かしい。女性特有の細い首と華奢な身体つきが強調されるからだろうか。

「ちょっと待ってよ、ルーリ。僕がいること忘れてない?」

「出来れば忘れたい」

「真顔で言わないでよ」

「お前の仕事は済んだだろう?」

「そうかもしれないけど…!」

二人はマヤリィの前でマヤリィを取り合う。

すると、

「ふふっ」

その会話を聞いていたマヤリィが楽しそうに笑う。

(こんな調子でジェイとルーリが会話しているのを聞くのはいつ以来かしら)

「二人とも、傍に来て頂戴」

マヤリィが微笑みながらそう言うと、ルーリは右側から、ジェイは左側から、彼女を守るように腕を回す。

(いつも私は貴方達に守られているのね…)

大好きな二人に抱きしめられて幸せを感じるマヤリィ。

その横顔は女王に相応しい気高さと美しさ、そして果てしない優しさに満ちている。

「二人とも、聞いてくれるかしら」

ジェイとルーリが何か言おうとした時、マヤリィは体勢を変えることなく、優しい声で語りかける。

「…自分の病も治せない私が言うのもなんだけれど、皆には元気でいて欲しい。貴方達が幸せなら、私も幸せだから」

マヤリィはそう言って微笑む。

「それが私の願いよ。…忘れないでね」

その時、ジェイとルーリは以前マヤリィが言っていたことを思い出す。彼女がいる限り、流転の國の方針は揺らがない。


『ここは流転の國。

 誰もが心穏やかに健やかに、

 そして自由に暮らせる平和な國よ』


自身が病に冒されていようと、マヤリィは女王としていつでも配下達の心身の健康と幸せを願っている。

そして、宙色の魔力はその為にあるのだ。

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