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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第六十六話 弔いの炎

マヤリィが桜色の都に行っている頃、流転の國に帰還したジェイは次の役目を果たす為、霊安室に向かっていた。

『蘇生』することが叶わなかったランジュとネクロをいつまでもそのままにしておくことは出来ないのだ。


霊安室に入ったジェイは、まずランジュの棺の前で『弔いの炎』と呼ばれる魔術を発動した。死んだ者に敬意を払い、神聖な炎を顕現させて火葬する。それが『弔いの炎』だ。正確にはジェイはこの魔術を使役出来ないので、マヤリィの『宝玉』を使って発動している。

この炎は死んだ者にしか届かない為、棺の中ではランジュの遺体だけが燃え、まもなく骨となった。ジェイはランジュが死んだ経緯を覚えていないので、実感が湧かないまま彼の骨を骨壺に納めた。

そして、次はネクロの番だ。こうして見ると、本当にマヤリィにそっくりだとジェイは思う。神秘的な藍色の髪と、今はもう見ることの叶わない藍色の瞳がマヤリィとネクロを見分ける方法だった。あと、声も。

「ネクロ…。悪魔種である君が死ぬなんて、思いもしなかったよ…」

人間種であるランジュはともかく、悪魔種に属するネクロがそう簡単に死ぬとは思っていなかったし、三人の遺体を見た時は、他の二人は無理でもネクロの『蘇生』だけは成功するだろうと思っていたのだ。しかし、結果は違った。

「君と実戦訓練をした時は驚かされたっけ…。いつも隠遁のローブを被ってたけど、姫に瓜二つなだけあって、君も美しい女性だね」

ネクロとはそれなりに関わることも多かったので、ジェイは彼女と交わした会話を思い出し、暫しの間、思い出に浸っていた。それに、姫そっくりの彼女に『弔いの炎』を発動することに対し、躊躇いの気持ちがあったのかもしれない。

「君はネクロだ。流転の國の最上位黒魔術師にして、誰もが恐れる鉄壁のネクロマンサー。…今までありがとう。流転の國を必ず元通りにすると誓うよ」

ジェイはそう言うと『宝玉』に込められた魔術を発動した。棺の中に炎が現れ、彼女の身体を包み、やがて骨だけが残された。それを丁寧に骨壺に納める。

「…行こうか、二人とも」

そして、ジェイが二人の骨壺とともに『転移』したのは「弔いの間」と呼ばれる部屋だった。

今ここには、かつて天界からやってきた侵入者に殺されたユキとバイオが眠っている。それぞれに用意された墓石の下に骨壺が納められ、墓標が立てられている。彼女達の他には、完全に仲間と認められる前に死んだティーメの遺灰を納めた『弔いの箱』と小さな墓石、それから彼女の為の墓標もあった。

ジェイはマヤリィが用意していった二つの墓石の下に、それぞれの骨壺を納め、墓標を立てた。

「どうか安らかに眠って下さい…」

そう言って仲間達の墓前で手を合わせるジェイ。

皆の顔を思い出し、しばらくそこを動かないでいたジェイの目に、もうひとつの墓石が目に留まった。

『我が娘クロネ ここに眠る』

墓石にはそう書かれていた。まだ新しい。

「我が娘…?誰のことだろう…?」

ジェイは不思議に思った。墓標も立てられず、墓石だけが置かれている。それも、かなり小さい。

「僕のいない間に何かあったんだろうけど…聞かない方が良いんだろうな…」

ジェイはそう呟くと、弔いの間を後にした。

マヤリィの代理という形になってしまったが、死んだ二人を悼み、埋葬する儀式は終わった。


ジェイはわざわざ確認しなかったが、あの小さな墓石の下には骨壺も遺品もなく、ただルーリの想いだけが入っている。

自分を『親』と呼び『名前』を付けて欲しいと言った人造人間のクロネ…。黒魔術の暴走によってネクロを死なせてしまったクロネ…。猛毒魔術の連射によってミノリを苦しめてしまったクロネ…。

彼女は『宙色の魔力』を借りたルーリが発動した禁術『絶命』によって命を落とし、その身体は消えてなくなった。

しかし、ルーリはクロネのことが忘れられず、小さな墓石に『我が娘クロネ ここに眠る』と刻んで、弔いの間の仲間達の傍に置いたのだ。

このことは、ルーリしか知らない。

…が、まもなくルーリもこのことを忘れてしまうだろう。

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