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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第六十話 再会と報告会

その日、ジェイはフランシスの店を見に行った。そこには『長期休業』とだけ書かれた札がかけられている。

(そういえば、ツキヨ様はルーリの顔を知らないはずだよね…?)

今のマヤリィは見た目も声も完全にルーリになっているが、ルーリ本人がツキヨに会ったことはない。

マヤリィが女王だった頃のルーリは流転の國においては『No.2』と呼ばれており、それと同時に『マヤリィの切り札』でもあった為、流転の國の国家機密扱いだった。ルーリの存在を知るのは流転の國の者だけだったのだ。

なぜそこまでルーリを秘匿したかったのかジェイには分からないが、今となってはルーリこそが流転の國の女王。そして、雷を司る大魔術師としてその名は知れ渡ってしまった。しかし、その姿まで知る者は少ない。

(ツキヨ様はどんな反応をするのかな…。彼ほどの魔術師ならばルーリにしか見えない姫の正体を見抜けるだろうか…)

正直なところ、それは賭けだった。

ツキヨが『幻影』魔術を看破し、マヤリィが流転の國に帰れるよう王宮に連絡を取ってくれる。…それが理想なのだが。

(『宙色の魔力』がないとはいえ、姫の幻系統魔術は強力だし、魔力値も高い。…お陰で『永幻術』が発動しちゃって困ってるんだけど)

ジェイは店を確認しに来ただけなのだが、真っ直ぐホテルに戻る気にもなれず、店の前に立ち尽くして考え事をしていた。

その時、彼を呼ぶ声がする。聞き覚えのあるハスキーボイスだ。

「ジェイ…ムズ…?戻ってきたの…?」

振り返ると、ルーリが立っていた。

正確には「ルーリ」の姿をした「ミラー」と名乗っている「マヤリィ」だ。ややこしいな。

ジェイがルーリの声を聞くのは久しぶりだった。マヤリィが声まで完全にルーリに変わる前にホテルを出たので、そうなるだろうと覚悟はしていたが実際耳にすると結構つらい。…本当に中身は姫なんだよね?

《落ち着いて頂戴。私はマヤリィよ。それと今の名前はミラー。…覚えているわね?》

ジェイの困惑を見透かしたようにマヤリィが『念話』で話しかけてくる。

その声さえもルーリなので、今は喋り方だけが頼りかもしれない。

《すみません、姫…。今まで散々『幻影』魔術のモデル=ルーリって考えていたのに、いざ貴女を目にしたら動揺してしまって…。フランシス、近くにいますよね?》

《ええ。…ここから先はうまくやって頂戴》

《畏まりました、姫》

「ジェイムズ、どこに行っていたの?心配したのよ?」

「ごめん、ミラー。…戻ってきちゃった」

すると、二人の会話が聞こえたのか、ミラーの後ろを歩いていたフランシスが顔を出す。

「ミラー、どうしたんだ?…ジェイムズじゃないか!」

「フランシス…!」

「また会えてよかった。君のことが心配だったんだよ」

「えっ…」

黙って姿を消したから怒られるかと思ったら、フランシスは笑顔で再会を喜んでくれた。

「フランシス…ごめんなさい…」

「謝ることはないさ。ミラーも君に会えて嬉しそうだし」

そう言われて彼女の方を向くと、マヤリィがルーリの顔で、しかしルーリならば絶対にしない表情でジェイを見ていた。

「本当に心配していたの…。ジェイムズ、もういなくなったりしないで頂戴!!」

そう言ってジェイムズに抱きつくミラー。

どこからどこまで演技なのか分からないが、

「ごめんね、ミラー。もう離れたりしないから」

ジェイは優しくマヤリィを抱きしめた。

その様子を見たフランシスは聞く。

「ジェイムズはまたホテルに泊まっているのか?」

「うん。そこのパシフィックホテルだよ。戻ってきてからしばらくどこにも行かなかったんだけど、フランシスのお店がどうなってるか気になって、さっき出てきたところなんだ」

(そうだったのね…)

ようやくジェイがなぜここにいるかを知ったマヤリィ。

「私達は見ての通り、今帰ってきたの。エアネ湖、とても素晴らしかったわよ」

「ああ。本当に綺麗だったな。次はジェイムズも一緒に行こう」

「そうね、それがいいわ」

しばらく和気藹々と話していたが、急にフランシスが真面目な顔で言う。

「ジェイムズ、君もミラーのことが好きなんだろう?」

「えっ?い、いきなり何…?」

ジェイはどうしたらいいか分からなくなる。

「実は…俺達付き合ってるんだ」

「えっ…」

ますますどうしたらいいか分からなくなる。

「…すまない、ジェイムズ。君がいないのをいいことに俺はミラーに告白した。ミラーは優しいから俺の気持ちに応えてくれたけど、やっぱり…君と一緒にいるのが良いんじゃないかな」

「フランシス…!」

ミラーは困った顔で二人を交互に見る。

「…確かに、僕はミラーのことが好きだ」

ジェイムズは少し間を置いてから話し始めた。

「僕達は故郷にいた頃から一緒だった。旅を始めた頃は他にも仲間がいたけど、気が付いたら二人だけになってた。皆、訪れた街に住むことになったり、故郷に帰ったり、ばらばらになってしまったんだ。…でも、僕はミラーと二人きりで旅を続けられるのが嬉しかった。昔からずっと…僕は君のことが大好きなんだよ」

最初はフランシスに向かって話していたジェイムズだが、最後の一言はミラーへの告白だった。

「ジェイムズ……」

ミラーは神妙な顔をしていたが、

《その設定いつ考えたの?覚えられないわよ?》

《すみません、今です。即興劇ってことで…》

『念話』は全く神妙じゃなかった。

「そうか…。やっぱり君達は離れてはいけなかったんだな」

それを聞いたミラーは不思議そうに訊ねる。

「フランシス…優しいのは私ではなく貴方よ…。どうして、私達のことをそんなに気にかけてくれるの?」

「…君と旅をしている時に思ったんだ。君に相応しいのは俺じゃなくて、ジェイムズなんだって」

フランシスは言う。

「それに…俺は長旅は出来そうにないからな。ミラーの恋人としては失格だろう?」

「フランシス…。私、貴方とエアネ湖まで行けて本当に楽しかったのよ?」

「ああ、俺も楽しかったよ。ありがとう、ミラー」

フランシスは笑顔でミラーを抱きしめると、

「それで…君は今夜どうする?」

分かってるのにそれでも聞く。

「…ホテルに泊まるわ」

「それがいいと思う」

短い言葉を交わし、フランシスとミラーは顔を見合わせて微笑んだ。


「お帰りなさいませ、ミラー様」

パシフィックホテルに現れたミラーを見て、フロントの女性が嬉しそうにお辞儀する。

「ただいま。心配かけたみたいね?」

「とんでもございません。ジェイムズ様が幸せそうで何よりです」

ここに戻ってきた時は疲労困憊が具現化したみたいだったのに、今は笑顔でミラーの隣にいるジェイムズ。それを見た従業員はプリンセスミラーが帰ってきたからジェイムズが元気になったのだと思った。


「改めて…久しぶりね、ジェイ」

「はい!お久しぶりです、姫♪」

ホテルの部屋に入ると、二人はようやく落ち着いて再会を喜び合うことが出来た。

「では、報告よ。私からね。…エアネ離宮には行ったけれどツキヨ様がいなくて会えなくて帰ってきた。以上」

「了解しました。では、僕からの報告です。…シャドーレの邸にも『クロス』の訓練所にも行きましたが数日かけてもシャドーレには会えませんでした。以上です」

互いの様子で予想はついていたが、全く収穫のない報告会に二人とも身体の力が抜けた。

「姫、これからどうしますか?」

「もう、しばらくここから動かないわ!」

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