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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第五十九話 それぞれの今

「あれがエアネ湖か…!」

ミラーよりも先にフランシスがエアネ湖を見つけ、その美しさに感嘆の声を上げる。

「綺麗だな…!」

フランシスが見入っていると、ミラーは独り言のように呟いた。

「離宮に入ったらもっと近くで見れそうね。入れてもらえたり…しないかしら?」

最初からツキヨに会うことが目的のミラーはエアネ離宮の門に近付いたが、警備員の声が聞こえてきたので気配を消して立ち止まった。

「えっ?ツキヨ様は留守なのか?」

「うん。国王陛下から呼び出されて王宮に行くことになったって聞いた。帰りはいつになるか分からないが、離宮の警備をよろしく頼むとのことだ」

「それは知らなかった。…国王陛下ってツキヨ様の甥にあたる方だよな?何の用があるのかな」

「そこまでは知らない。ただ、俺達はいつも通り仕事をするだけだよ」

(ツキヨ殿が国王陛下から呼び出された…ですって?)

警備員の会話を物陰で聞いていたミラーは予想外の事態に困惑する。

(しかも、帰りはいつになるか分からないって言っていたわね…)

ミラーは呆然と立ち尽くしていたが、これ以上の情報は得られそうもないので離宮から遠ざかろうとした。

その時、

「ミラー!どうしたんだ?湖はあっちの方が良く見えるよ」

フランシスが呼びに来てミラーの手を引いた。

「今日は天気も良いし、最高だな」

「ええ、とても綺麗ね…」

笑顔で湖を見つめるフランシスの横で、ミラーは心ここに在らずだった。


その夜、ミラーとフランシスは近くのホテルに泊まった。

「これからどうする?」

「どうするって?」

「いや…意外とエアネ湖が近かったから、他の観光地を回ってみるのも悪くないかなと思ってさ」

フランシスはもう少し旅人気分でいたいらしい。

「そうね…」

ミラーはツキヨが不在だったという想定外の事態を受け止めきれず、観光地の話どころではなかった。

「なんだか元気がないな。大丈夫か?」

沈んだ様子のミラーを見て、フランシスが心配そうな顔をする。

「ごめんなさい、ちょっと疲れちゃって…。でも、エアネ湖は素晴らしかったわ」

ミラーは無理やり笑顔を作る。

「ここまで来れたのは貴方のお陰よ。本当にありがとう、フランシス」

「いや、俺の方こそありがとう。あんなに美しい景色は初めて見たよ。ミラーが行きたいって言ってくれなかったら、一生見れなかっただろうな」

フランシスはそう言うと、

「これからどうするかは明日決めようか。このまま俺の店に帰ってもいいし、他に行きたい場所を見つけたらそこまで行ってもいい。…とりあえず、今日はゆっくり休むとしよう」

ミラーの長い髪を撫で、その唇にキスをした。

それ以上何もしないのは、彼女が本当に疲れた顔をしているから。

(フランシス…貴方って本当に優しい人ね…)

ミラーはそう思いながらベッドに横たわる。

「お休みなさい、フランシス」

「お休み、ミラー。また明日な」

二人は言葉を交わすと、すぐに眠りに落ちた。


一方、街外れのホテルに戻ってきたジェイは、少し休んだらエアネ離宮に向かおうと思っていたが、なかなか身体の疲れが抜けない。疲労回復しないことには、魔術を発動するにも心許ない。

(もしかしたら、こうしている間にも姫はツキヨ様に会ってるかもしれないな…)

しかし、マヤリィはツキヨに会えなかった。

ジェイはまだそのことを知らない。

(とりあえず、今は疲労回復に専念しよう。肝心な時に姫の役に立てなかったらどうしようもないし…)

実際、今のジェイは完全に魔力切れの状態だったし、体力的にもかなり疲弊している。

今までは気を張り詰めていたから意識していなかったが、こうして自覚してしまうと一気に倦怠感が襲ってきた。

(早く姫の所に行かなきゃいけないのに…)

しかし、ジェイはしばらくホテルから動けなかった。


一方、王宮ではミノリが何度も『長距離念話』を発動しようと試みていたが、全く繋がらない。

ジェイはすっかり魔術具の存在を忘れているみたいだ。

「…今は駄目みたい。少し間を置いてから、もう一度試してみるわ」

ミノリはマジックアイテムを装着したまま、ため息をつく。

「ミノリ様、これからどうなさいますか?」

「一度、流転の國に帰りましょう。『長距離念話』なら離れていても出来るから」

「ちょっと待って下さい、お二人とも」

クラヴィスとミノリの会話を聞いたヒカル王が慌てて声をかける。

「私は本気で貴方達を保護させてもらいたいと思っています。どうか、このまま桜色の都にいてくれませんか?ルーリ様には私から書状をお送りしますので」

ヒカル王は流転の國が崩壊するのが怖かった。それ以上に、クラヴィス達を失うのが怖かった。

「しかし……」

二人はルーリのことが心配だった。ヒカル王から書状が届いたところで、今の彼女は流転の國を離れることはしないだろう。

「クラヴィス殿、ミノリ殿、どうかお願いします」

「陛下…!」

ヒカル王が頭を下げたのを見て、クラヴィスは動揺する。

《…仕方ないわ。陛下の言う通りにしましょう》

《はい…。畏まりました、ミノリ様》

案外、至近距離で使う方が『念話』は便利だったりする。

クラヴィスはヒカル王の前に跪き、

「陛下、有り難きお言葉に感謝申し上げます。貴方様のおっしゃる通り、不測の事態に備えて桜色の都に滞在させて頂きたいと存じます」

そう言って頭を下げた。

「よかった…!すぐに部屋を用意させます…!」

ヒカル王は心から安心したらしく、嬉しそうにクラヴィスの手を握った。

(ミノリ…本当に大丈夫ですの?)

シャドーレは流転の國に残ったルーリの身を案じているであろうミノリの心配をしていた。

その間にも、ヒカル王は使い魔を呼び寄せ、侍従に命じた。

「早急に流転の國のルーリ様へ書状を送ってくれ。今日の話を簡潔に書き記し、桜色の都に『長距離転移』して下さるようにと」

「はっ。畏まりました、陛下」


一方、ルーリは玉座の間に待機していたが、

(西方から魔力…?桜色の都か)

西の方角から魔力が急接近してくるのを感じ、城の最西端まで迎えに行った。

「ヒカル王の使い魔だな。…手紙を持ってきてくれたのか」

彼の使い魔である白い鳩は手紙を渡すと、ルーリの肩に乗る。

「『魔力探知』は出来なかったか…。そんな気はしていたが、マヤリィ様は今どちらにいらっしゃるのだろう…」

返事を急かす鳩を宥めながら、ルーリは続きを読む。

「至急、桜色の都へ…?使い魔を連れて…?」

それが一番大事な要件だと言わんばかりに鳩が鳴く。

「待て、使い魔。そんなに慌てないでくれ」

一緒に『長距離転移』することが分かっている使い魔は、ルーリの肩に止まって動かない。

「…そうか。ヒカル王は流転の國が崩壊することを恐れているのだな」

マヤリィがどこにも見つからない今、流転の國は危機的な状況にあると言える。ヒカル王が恐れるのも当然だとルーリは思った。

「しかし…私はここを離れるわけにはいかない」

ルーリは白い鳩に微笑みかける。

「『睡眠』魔術発動。…すまないな、使い魔」

睡眠魔術をかけられた鳩はルーリの肩の上で眠ってしまった。

「お前が桜色の都に帰るのは明日になってからだ」

ルーリはアイテムボックスから鳥籠を取り出すと、鳩を愛おしそうに抱いてその中に寝かせた。

「…悪く思わないでくれ」

憂いを帯びた瞳で鳥籠を見つめ、ルーリは玉座の間に戻るのだった。

ツキヨに会えず落ち込むミラー(マヤリィ)。

姫と合流したいのに疲れが取れず動けないジェイ。

桜色の都に留まることになったミノリとクラヴィス。

流転の國に書状を送ったヒカル王。


そして、書状を読んだのち、ヒカルの使い魔に『睡眠』魔術をかけたルーリ。

流転の國にひとり残った彼女の思惑とは…?

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