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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第五十八話 全てが繋がる時

「クラヴィス殿…!」

流転の國から『長距離転移』してきた二人を出迎えたのはヒカル王だった。

「陛下…!本日はお会い出来て光栄に存じます」

クラヴィスとミノリはその場に跪く。

「クラヴィス殿、よく来てくれましたね。私も貴方に会えて嬉しいです」

ヒカルはそう言ってから、ミノリの顔を見る。

昨年のモンスター討伐の際、ミノリも桜色の都を訪れて戦闘に加わっていたが、直接ヒカル王と会うのは初めてだ。

「お初にお目にかかります、陛下。私はミノリと申します。書物解析魔術を専門とし、此度は『魔力探知』を行わせて頂く為に参上致しました。よろしくお願い申し上げます」

「初めまして、ミノリ殿。貴女が書物の魔術師殿でいらっしゃるのですね。どうぞよろしくお願いします」

ヒカルは丁寧に挨拶すると、改めてミノリの顔を見た。

(同じ名前、か…)

名前も同じだし、容姿もミノリ・アルバ男爵令嬢に似ている気がする。…まぁいいか。

「クラヴィス殿、今日はルーリ様はご一緒ではないのですか?」

ヒカルは残念そうに言う。

「はっ。我が主は流転の城にて待機しております。現在の状況で、最高権力者が國を離れるべきではないとの判断にございます」

「…そうでしたか。では、白魔術師殿も一緒に?」

『全回復』の宝玉を渡した時に今度連れてきて欲しいと言っていたシロマのことである。

「それが…大変申し上げづらいのですが…。彼女は先日、不慮の事故で亡くなりました。突然のことにございました…」

クラヴィスが悲しそうに告げる。

「そんなことがあったのですか……」

ヒカル王はショックを受けつつ、詳細を聞くことはしなかった。

「残念です…。一度お会いしてみたかった…」

彼はそう言うと、黙り込んでしまった。


「…というわけで白魔術師部隊に王都全域を探させているのですが、一向に発見されたとの報告がないのです」

貴賓室に落ち着いたヒカル王は桜色の都の現状を改めて二人に説明した。

「マヤリィ様が我が国にいらっしゃるとすれば王都内だと思ったのですが、我々の捜索方法は限られている。そこで、流転の國の魔術師殿に至近距離から『魔力探知』を行ってもらいたいと考えたのです」

「確かに、遠く離れた流転の國よりも桜色の都で発動した方が精度も高まります。…早速、行わせて頂いてよろしいでしょうか?」

ミノリは既に魔術書を用意している。

「念の為、王都の外まで調べてみたいと思います。お時間を頂くことになりますが、お許し下さいませ」

「はい。よろしくお願いします」

今ここで『魔力探知』を使えるのはミノリだけなので、ヒカル王は全て任せることにした。ミノリは一礼すると、部屋の外に出て行った。

「…そういえば、前にクラヴィス殿に会った時、私は大切なことを聞き忘れていました」

残されたヒカル王はずっと疑問に思っていたことをクラヴィスに訊ねる。

「マヤリィ様はいつから桜色の都にいらっしゃるのでしょう?もしや、追放されたその日に我が国まで来られたのですか?」

「っ……」

その時初めて、クラヴィスは肝心な話をしていなかったことに気付く。

「はっ。陛下のおっしゃる通りにございます。説明不足で申し訳ございません」

クラヴィスはそう言って頭を下げると、

「実は、追放されることになったのはマヤリィ様だけでなく、側近のジェイ様も一緒にございました。そして、その場には水晶球の干渉を受けなかった方がいらしたのです。その方はマヤリィ様を見捨てるわけにはいかないと言って自分の故郷である桜…」

「それはシャドーレのことですか!?」

ヒカルはクラヴィスの話を遮る。

「シャドーレが突然流転の國から帰ってきたあの日、彼女は意識不明の二人を連れていました。まさか、あの日『クロス』で保護した二人がマヤリィ様とジェイ殿だったということですか…!?」

クラヴィスは追放された後のことまでは知らないので、ヒカル王の話が分からない。

ヒカルはそんなクラヴィスの様子に構わず、

「すぐにシャドーレを呼んでくれ!聞きたいことがある!急ぎ貴賓室まで来るよう伝えて欲しい!」

侍従にそう命じると、黙って今までの状況を頭の中で整理し始める。

「陛下、お呼びでございますか!?」

シャドーレは『クロス』の宿舎にいたらしく、すぐに貴賓室に飛び込んできた。今日は休みなのか、軍服を着ていない。

ヒカルは挨拶もせず、いきなり本題に入る。

「シャドーレ、貴女に聞きたいことがあります。…マヤリィ様のことです」

「マヤリィ様にございますか?今、どちらに…?」

「それが…分からないのです。だから貴女に来てもらいました。マヤリィ様が追放され、桜色の都にいらしてから何があったのか…知っていることを全て教えてくれますね?」

いつになく緊張感を漂わせるヒカル王を前に、シャドーレは跪いて頭を下げる。

「はっ。畏まりました、陛下」

シャドーレが説明を始めてしばらく経った頃、ミノリが『魔力探知』を終えて戻ってきた。

本当に久しぶりの再会。

でも、今はそれを喜び合える雰囲気ではない。


「…では、あの日貴女とともに王宮に現れたお二人は、やはりマヤリィ様とジェイ殿だったのですね!?」

「はい。その通りにございますわ」

ヒカル王はシャドーレの話を聞いて、ようやくあの日保護した二人がマヤリィとジェイだと確かめることが出来た。

「…では、マヤリィ様とジェイ殿はしばらく貴女の邸にいたのですね?」

「はい。お二人とも長らく意識不明の状態でしたが、ジェイ様が先にお目覚めになりました」

シャドーレは話を続ける。

「ジェイ様は流転の國と連絡を取る為の手段として『長距離念話』の魔術具を作って下さいました。その後しばらくは流転の國のミノリと連絡を取ることが出来たのですが…。今度はマヤリィ様が行方不明になってしまわれたのですわ」

「マヤリィ様が行方不明に…!?貴女の邸にいたのではなかったのですか?」

驚くヒカル王に対し、シャドーレは申し訳なさそうに言う。

「確かに私の邸にいらしたのですが…マヤリィ様は私の気付かないうちに目を覚まされ、置き手紙を残して姿を消されてしまったのです…」

「置き手紙…!?」

「はい。そこには、探さないで欲しいと書かれておりました」

シャドーレは言う。

「そして、ミノリと再会して幸せに暮らすようにとも書かれておりました。…あの時、マヤリィ様はもう二度と流転の國に帰れないと思って、國に帰る道を模索する私達を解放する為に、あのような手紙を残して下さったのだと思います」

「…そう。あの時はまだルーリの記憶も元に戻ってなかったし、とても流転の國はマヤリィ様を迎え入れられる状態ではなかった。でも、今は…」

ミノリはそう言って言葉に詰まる。

「私はマヤリィ様の置き手紙に気付いてすぐ、お言葉に背いてあの御方を探しましたが、見つけることは出来ませんでした…。ですので、既に王都にはいらっしゃらないかと存じます」

それだって、随分と前の話だ。

ヒカルは知らなかったことを次々に聞かされ、頭を悩ませていたが、

「そういえば『魔力探知』の結果はいかがでしたか?」

ミノリに訊ねる。

「それが…マヤリィ様の魔力はどこにも見当たらないのです。陛下がおっしゃった通り、遠い流転の國からでは無理でも、桜色の都まで来れば探知出来ると思ったのですが…。結果として、マヤリィ様の魔力を見つけることは出来ませんでした」

「魔力が辿れないほど身体が弱っているという可能性は考えられませんか?」

「確かにその可能性もありますが…マヤリィ様はとても高い魔力値をお持ちの方ですから、全く感じられないというのはあまりにも不自然です。何か他の理由があるように思えてなりません」

ミノリは言う。

しかし、それが『永幻術』のせいだと気付くことの出来る者はいない。

『永幻術』は幻系統魔術に属する禁術で、それを意図せず発動してしまったが為に『マヤリィ』と呼べる存在はこの世から消えてしまった。だから、彼女が魔術を使ったとしても、それがマヤリィの魔力によるものだとは見做されなくなってしまったのだ。

ミノリの『魔力探知』をもってしてもマヤリィの魔力を見つけ出せないのはそういうわけなのだが、真相を知る者はいない。

「さらに、ジェイの魔力も探知することが出来ませんでした…」

ミノリは、マヤリィと一緒にいるであろうジェイの魔力も辿ってみたが、見つからなかった。

というのも、ちょうどその頃、ジェイはシャドーレ探しを諦め、街外れのホテルに戻って休息を取っていた。少し前ならば『空間転移』を発動していたので魔力を感じ取れたかもしれないが、タイミングの悪いことに今の彼は疲弊して魔力切れの状態だ。

ことごとくすれ違っているが、誰もそれに気付けない。

「これからどうしたら良いのでしょう…」

手詰まりの状況にヒカルは頭を悩ませながら、

「…クラヴィス殿、例の水晶球はマヤリィ様が亡くなれば流転の國は崩れると言っていたのでしたね?」

「はっ。水晶球は確かにそう言っておりました」

クラヴィスが答えると、ヒカル王はある提案をした。

「…ならば、貴方達をこのまま流転の國に帰すわけにはいきません。ルーリ様や、今も流転の國にいらっしゃる方々も含めてこちらで保護させてもらえませんか?現段階でマヤリィ様が見つかっていない以上、最悪の事態に備えたいと思うのです」

ヒカル王は言う。

「貴方達にとって流転の國が大切な場所であることは分かっています。でも、私は貴方達を死なせたくありません」

クラヴィスやミノリを帰した後で、万が一流転の國が崩壊してしまったら、彼等はそれに巻き込まれて死んでしまうだろう。ヒカルはそこまで心配していた。

「シャドーレ…私には何が出来るのでしょう…」

ヒカルは最悪の事態を想定して怯えている。

「ヒカル様、大丈夫ですわ。必ず流転の國を元通りにする方法を見つけますから」

「シャドーレ……」

若き国王は泣きたいのを我慢して、シャドーレの手を握る。

…でも、本当は抱きしめて欲しい。無理だけど。

なんで自分は国王なんだろう。

こんな立場でなければシャドーレに甘えられるのに。

とか思っていると、

「ちょっと失礼致しますわね、ミノリ、クラヴィス殿」

シャドーレは今一番して欲しいことをしてくれた。

「どうか、おひとりで背負い込まないで下さいませ。ヒカル様には私がついておりますわ」

「シャドーレ……」

彼女の細く長い腕の中で、ヒカルは思わず泣きそうになった。

「ヒカル様、大丈夫ですよ」

シャドーレは優しくヒカルを抱きしめる。

今この時だけは姉に甘える弟のようだった。

「ありがとう、シャドーレ…」

まだ若い彼は憧れの女性に抱きしめてもらえたことが嬉しくて、その場にいる二人のことをしばらく忘れていた。

「貴女がいてくれてよかった…」

ヒカルがそう言うと、シャドーレは優しく微笑んだ。


その後、今日久しぶりに会ったヒカル王とシャドーレは、今日久しぶりに流転の國の話をした。それだけでなく、桜色の都の現在の話を始めた。

「畏れながら、私は流転の國と我が国が再び盟約を結んだことさえ存じ上げませんでした。『クロス』にかかりきりで陛下の補佐をすることも出来ないとは、私は隊長職に向いていないのでしょうか…」

「いや、そんなことはありませんよ。貴女がダークの後を継いで隊長になったことに関しては、隊員達だけでなく国民も好意的に受け止めています。それに『クロス』の隊長は本当に忙しい。…今日も休みだと言うのに急に呼び出してしまって悪かったと思っています」

「とんでもないことにございますわ、陛下。流転の國の危機とあらば、私も黙っているわけには参りませんもの」

《待って。いつからシャドーレは『クロス』の隊長になったの?》

珍しくミノリはクラヴィスに『念話』を送る。

《それは私にも分かりかねます。前に話した時は、シャドーレ様に関するお話は全く伺いませんでしたので》

クラヴィスも『念話』で答える。

実際、あの時は流転の國の事情を話して首脳会談の約束をしただけなので、シャドーレは話題に上らなかった。クラヴィスもシャドーレの近況について訊ねることはなかったし、ヒカル王も彼女の話はしなかった。

先ほど反省したように、もっと早くシャドーレにマヤリィの話を聞いていたら、結果は違っていただろうか。

「…では、本日伺った皆様からの報告を纏めてみたいと思いますわ。情報の共有は大切ですものね」

シャドーレの言葉で、各々の報告が整理された。

●クラヴィスとミノリの報告

・ルーリの記憶が戻った後、桜色の都と再び盟約を結んだ。

・現在『宙色の耳飾り』を装着出来るのはマヤリィだけであり、彼女が死ぬと流転の國は崩壊する。

・桜色の都で『魔力探知』した結果、マヤリィは見つからなかった。

●ヒカル王の報告

・クラヴィスの書状をきっかけに流転の國と再び盟約を結んだ。

・白魔術師部隊に命じてマヤリィを探しているが、手がかりは掴めていない。

・万が一の場合を想定して「白魔術の権威」と呼ばれるツキヨを王宮に呼び寄せ、治療中のミノリ・アルバ男爵令嬢も王宮にいる。

●シャドーレの報告

・マヤリィはずっとシャドーレの邸にいたが、気付かぬうちに置き手紙を残して消息を絶ってしまった。

・『クロス』の隊長となった後は宿舎に寝泊まりしているので、しばらく邸には帰っていない。


「ところで、ミノリ。しばらく『長距離念話』をしなかったけれど、まだマジックアイテムは持っているかしら?」

改めて皆の報告を聞いた後、シャドーレはジェイの魔術具の存在を思い出す。

「ミノリは持ってるわ。壊れてないし、今も使えると思う」

その言葉に反応したのはヒカル王だった。

「では、そのマジックアイテムを使えば、それを作ったジェイ殿と連絡が取れるのでは?」

「確かに、その可能性はありますわね。お二人が姿を消された後、ジェイ様のマジックアイテムは邸内のどこにも見当たりませんでしたので」

二人の話を聞いて、ミノリはワイヤレスイヤホン型の魔術具を取り出す。

「これが『長距離念話』の為のマジックアイテムにございます。もしジェイが今もこれと同じ物を持っているとしたら、連絡が取れるかもしれません…!」

ヒカル王はそれを聞くと、

「では、試しに発動してみて下さい。ジェイ殿と連絡が取れれば、マヤリィ様の居場所も分かるでしょうから」

かつて国交断絶状態だった桜色の都のシャドーレと流転の國のミノリを繋いだマジックアイテム。今度は行方知れずのジェイと彼等を繋ぐ架け橋になれるだろうか?

「あの日」保護した二人の正体がマヤリィとジェイだったことを知らなかったヒカル。

『クロス』の活動で忙しく、流転の國と桜色の都が再び盟約を結んだことを知らなかったシャドーレ。

特に話題に上らなかった為、シャドーレの近況について知らなかったクラヴィス。


そして…流転の國のミノリはヒカル王の報告にあった『ミノリ・アルバ男爵令嬢』が何者なのか気になって仕方がないことでしょう。

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