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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第五十六話 城の中にひとり

シロマを失い、悲しみに沈んでいる流転の國へ、ヒカル王の使い魔がやってきた。

「白魔術師部隊総出で探してもマヤリィ様は見つからないらしい。これから先は流転の國と合同で捜索を行いたいとのことだ」

書状を読んだルーリはすぐに命令を下す。

「ミノリ、桜色の都へ行って『魔力探知』を発動してくれ。クラヴィスはヒカル王のサポートを頼む」

「待って。ルーリはどうするの?」

「私はここで待機する。…足手纏いにはなりたくないからな」

今のルーリは白魔術師だが、前回の首脳会談では雷系統魔術を披露した。その為、もう一度魔術を見せてくれと言われたら困るし、そう簡単に魔術適性が変わったとも言えない。

それに、今はまだ白魔術を十分に使いこなすことが出来ないので、一緒に行ったところで何の役にも立てない。

二人はルーリの苦悩を知っているから、それ以上何も言わずに桜色の都へ行くことを決めた。

書物解析魔術を専門とするミノリは、常に様々な魔術書をアイテムボックスに入れており、そこに載っている魔術を発動出来るという汎用性の高い魔力を持っている。

クラヴィスは魔力も武力も持たないが、マヤリィから授けられたリボルバーがあるし、ただその場にいるだけでヒカル王を安心させることが出来るだろう。ある意味、一番役に立つのはクラヴィスかもしれない。

「では、行って参ります」

「何かあったら連絡するわ」

二人はそう言って桜色の都へ『長距離転移』した。


「本当は白魔術の訓練をしなければならないのだろうが…。他に私に出来ることは何もないな…」

ルーリはそう呟きながら霊安室へ足を運んだ。

そこには、ランジュ、ネクロ、シロマの遺体が『永久凍結』された状態で置かれている。

かつてネクロの実験体とする為にルーリ自身が殺したランジュの遺体はミノリに処理するよう命じていたが、彼女は荼毘に付すことはせず、いつか蘇生出来る日が来るのを願って『永久凍結』魔術を施し、彼の身体の時間を止めたのだった。ネクロの場合も同じ。身体は修復されたものの心臓が止まったままのネクロに『永久凍結』をかけ、いつの日かマヤリィが『宙色の魔力』を使って生き返らせてくれることを願っている。そして、シロマの場合も…。


あの日、シロマの所へ行くと言ったきり戻ってこないルーリを心配して訓練所に『転移』したミノリは、壮絶な現場を目にすることとなった。

崩れ落ちた訓練所の瓦礫の山の中で、ルーリとクラヴィスは真っ黒に焼け焦げたシロマの遺体を前にして、放心状態になっていた。

「私は『全回復』しか使えなかった…。シロマから最上位白魔術の適性をもらったというのに、蘇生魔法のひとつも発動することが出来なかったんだ…」

ルーリは涙ながらにそう言った。

「私は…シロマがすぐに雷系統魔術の訓練を始めるものと思い込んで、後にしたいと言う彼女の言葉も聞かずに、書庫から魔術書を持ってくると言ってしまったんです。彼女は疲れていたはずなのに…訓練を無理強いしてしまいました…」

クラヴィスもそう言いながら泣いている。

「シロマはミノリを救う為に白魔術を手放して雷系統魔術の適性を得たのに…。それがこんなことになってしまうなんて…」

一番つらいのはミノリだが、泣いている時間は残されていなかった。シロマが死んでからどのくらい時間が経ったか分からないが、このままにしておいては永遠に『蘇生』が不可能になってしまう。

「二人とも…離れて……」

ミノリは涙を堪えて二人に言う。

「ミノリにはこれしか出来ないの…!」

そう言って氷系統魔術の本を取り出したミノリは、ランジュやネクロの時にそうしたように、シロマの遺体に『永久凍結』魔術を施した。

「いつか…貴女が生き返りますように…」

そのままミノリは膝をつき、いつまでも泣いていた。


「ランジュ、ネクロ、シロマ…。本当にすまない。私はマヤリィ様を追放しただけでなく、皆を殺してしまった。やはり、私は悪魔なんだ…」

ルーリはしばらく皆の顔を見て静かに涙していたが、やがて玉座の間に戻り、二人の帰還を待つことにした。

そこへ、

「ルーリ様、こちらにいらっしゃいましたか」

シェルが入ってきた。

「どうした?何かあったのか?」

ルーリが心配そうに訊ねると、シェルはその場に跪いた。

「ルーリ様。流転の國の危機を前にして大変申し訳ございませんが、私は再びエルフの村へ行かなければなりません。…どうか、お許し下さいませ」

シェルの故郷であるエルフの村はかつて流転の城の近くに存在していたが、様々な出来事を経て、全ての住人が桜色の都領内に移住することになった。その為、シェルは流転の國の一員ではあるが、エルフの村に行くことも多い。

「…そうか、お前も大変だな。皆によろしく伝えてくれ。あと、色々と落ち着くまで流転の國には帰ってこない方が良いかもしれない」

ルーリは水晶球の言葉を思い出していた。

「マヤリィ様が不在の今、最悪の場合この國は崩壊する」

「そんな…!では、ルーリ様も一緒にエルフの村に…!」

シェルは今にもルーリの手を引こうとしたが、彼女は首を横に振った。

「今の私は仮にも流転の國の最高権力者だ。ミノリやクラヴィスの為にも、ここを離れるわけにはいかない」

「しかし、ルーリ様…!」

「大丈夫だ。必ずマヤリィ様を見つけ出し、全てを元通りにする。…そうしたら、安心して戻ってきてくれ」

「はい……」

シェルは最後まで悲しそうな顔をしていたが、ルーリは敢えて笑顔で見送った。

「皆によろしく伝えてくれ。…また会おう」

「はい!ルーリ様、どうかご無事で…!」


シェルを見送ったルーリは、マヤリィと過ごした日々を思い出していた。

今はマヤリィの顔も声も仕草も全て鮮明に思い出せる。

『「ルーリ、私は貴女が大好きよ。これからもずっとね」』

あの時のマヤリィ様の微笑みは美しかった。

いや、あの時だけではない。

マヤリィ様はいつも美しく、優しく私を包んで下さった。

「愛するマヤリィ様…。貴女様は…今どちらにいらっしゃるのでしょうか…」

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