第五十五話 エアネ湖へ
目を覚ますと、既に午前十一時を回っていた。
「おはよう…って時間ではないわね…。昨夜はお疲れ様、フランシス」
「おはよう、ミラー。昨夜のステージも最高だったよ。本当に素晴らしかった」
まだ眠そうなミラーの傍でフランシスが嬉しそうに笑っている。
「この間のドレス、着てくれてありがとう。やっぱり君はドレスが似合うよ」
そう言ってフランシスはミラーにキスをする。
「…嬉しいわ。貴方がプレゼントしてくれるまで着たことなかったから」
ミラーは素直に喜ぶ。
「君が喜んでくれて俺も嬉しいよ。…さて、明日の出発に向けて荷造りしないとな」
フランシスは店に長期休業の札をかけ、ミラーと一緒にエアネ湖に行くことにしたのだ。
「…ねぇ、フランシス?本当にお店を空けてしまっていいの?」
今更だが、ミラーは心配そうに訊ねる。
「大丈夫だって。俺も一度は旅をしてみたいと思ってたんだ。それに、君と離れたくないから」
「フランシス…」
「心配するな。エアネ湖までの案内は俺に任せてくれ」
嬉々として荷造りを始めるフランシスにつられて、ミラーも楽しそうに旅支度を始めるのだった。
…とはいえ『空間転移』なしでこの国を移動するのは初めてだし、本当は旅をした経験のないマヤリィは「旅人はただの設定」だということが離宮に着く前にバレないか心配だった。地図を読むのも得意ではないし、そもそも本物の旅人を見たことすらない。
しかし、フランシスのある発見によってその心配は杞憂に終わった。
「ミラー、エアネ湖までの近道を見つけた。大通りからは外れるが、ここを通れば最短距離でエアネ湖に辿り着ける」
「本当?それは助かるわね…!」
「ああ。この道をこう行けばかなり時間を短縮出来る。…意外とエアネ湖は近いかもしれないな」
(よかった。バレずにエアネ湖まで行けそうね…)
フランシスの説明を聞きながら、さすがは桜色の都の民だと思うミラーであった。
翌日。
二人は如何にも旅人という出で立ちで出発した。勿論、コーディネーターはフランシスだ。
最初は民家も目に付いたが、次第に目の前の光景は変わっていく。
「…それにしても、凄い道に出たな。ミラー、大丈夫か?」
「ええ。少し歩きづらいけれど、大丈夫よ」
そこはもはや町ではなく、本当に桜色の都なのだろうかと疑いたくなる景色が広がっていた。
恐らくここは未開拓地だ。
「…そういえば、桜色の都には他種族の町があると聞いたことがあるわ。フランシスは会ったことあるかしら。例えば、エルフ種とか」
シェルの顔を思い浮かべてミラーが聞く。
「いや、俺は一度も会ったことがないし、見たこともないな。桜色の都の法律で守られているとは聞いたが、彼等は辺境で暮らすのが好きらしいから」
フランシスの話によれば、桜色の都の領土はとても広く、様々な種族が暮らしているが、大多数を占めるのは人間種とのことだった。
「国王陛下ならば、いろんな町や村を視察されているから、他種族との交流もされているかもしれないな」
その時、ミラーはヒカル王のことを思い出した。今頃、彼は何をしているだろうか。
…マヤリィ様、貴女を探していますよ。
ミラーとフランシスは道なき道を進みながら、途切れることなく会話を続け、エアネ湖までの最短ルートを歩いていくのだった。
ヒカルの書状を受け取ったツキヨはミノリ嬢を伴い、大通りを通って王宮に向かっています。
ミラーとフランシスは地元の地図を見て知った最短ルートを通ってエアネ湖に向かっています。
同時刻のすれ違い……。




