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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第五十二話 魔力爆発

「ルーリ、それって『悪魔のチョーカー』よね?ユキが使ってたのと同じ物?」

少し落ち着いたミノリは、ルーリの首に装着されたマジックアイテムに気付く。

「ああ。これはユキの遺品だ。宝物庫で見つけて、借りてきた」

ルーリはそう言って魔術具を取り外すと、ミノリに見せる。

「これは装着した本人にしか外せないアイテムだから、ユキは苦労して毒系統魔術の訓練をしていたことだろう」

天界からの侵入者に殺されてしまったユキは、マヤリィから直接この魔術具を授けられた。

「毒系統魔術を司るマジックアイテムならば『解毒』の後押しをしてくれるかもしれないと思っていたが…やはり、マヤリィ様の魔力は残されていたようだ」

本来ならば『悪魔のチョーカー』を身に着けたところで、毒系統魔術の適性を持たないルーリにはそれに属する魔法を使えない。しかし、この魔術具にはマヤリィの魔力が僅かだが残されていた。必ず味方を守るマヤリィの魔力…。それを信じて、ルーリはこのマジックアイテムを『ダイヤモンドロック』と同時に使うことを決めたのだ。

「結果的に、貴女の計画は全て成功したのね。『雷系統魔術適性』の宝玉を作ることも、『能力強奪』魔術も、回復魔法と『解毒』魔術の発動も…」

計画の全てを聞いたミノリは、自分を助ける為にルーリとシロマがどんなに苦労したかを知って、申し訳ないような気持ちになっていた。

「ルーリ、疲れてない?」

「ああ。私なら大丈夫だが…ちょっとシャワーを浴びてくる。着替えたいしな」

ルーリはミノリの返事も待たずに部屋の奥へと消えた。

(ルーリの髪、本当に短くなっちゃったのね…)

ミノリはその後ろ姿を見て、切ない気持ちになった。自分の身体が治ったのは嬉しいが、その為にルーリもシロマも犠牲を払った。『能力強奪』という禁術によって白魔術の適性を失ったシロマは、もう二度とその適性を得ることは出来ないのだ。それに『魔術適性』の宝玉を作れるのも一度だけ。書庫にあったという宝玉に関する魔術書は先ほど少し見せてもらったが、ところどころに挟んであるメモの細かい字と付箋の量を見て、どれだけルーリがこの魔術書を研究したか、ミノリには痛いほど伝わってきた。ルーリもシロマも、全て理解した上で、元に戻せないことを知った上で、宝玉による『魔術適性の交換』を行ったのだ。

ミノリがこの計画を実行に移すまでの二人の心情を思って沈んでいると、

「ミノリ、コーヒーでもどうだ?まだ無理かな?」

部屋の奥からルーリの明るい声がした。

「飲めそうなら淹れるけど、どうする?」

そう言って出てきたルーリは、予想に反してワイシャツにスラックスという出で立ちだった。

イメージ的にバスローブ姿で登場するのかと思ってた。もしくはいつものドレス。

ミノリは彼女の姿に唖然としたまま、

「た、たぶん飲めると思う…」

「分かった。淹れてくるよ」

そして、ミノリは久しぶりに立ち上がり、テーブルについた。改めて部屋の中を見回せば、洗練された最高級の家具ばかりだ。

出されたコーヒーカップもソーサーも、ミノリの部屋にある物とはまるで品格が違う。

「…おいしいわ」

「よかった。ミノリとこうしてコーヒーが飲めるなんて、本当に嬉しいよ」

ルーリはそう言って微笑んだ。

綺麗なロングヘアはバッサリと切られてしまったが、彼女の美しさは変わらない。ただ、見慣れないだけだ。

ミノリの視線が気になったのか、ルーリはワイシャツの上にテーラードジャケットを着る。

「なんだか今の髪型にはドレスが似合わない気がしてな。マヤリィ様がお召しになっていた服装を真似させて頂いたんだ」

確かに、マヤリィはいつもスーツ姿だった。

その理由が、何を着たら良いのか分からないから、だとは誰も知らない。

「ルーリ…ごめんね…」

「謝らないでくれ、ミノリ。私は大丈夫だが、シロマのことが気がかりだ。『ダイヤモンドロック』も、シロマを心配している気がする」

顕現する前から持っていたというシロマの相棒(マジックアイテム)『ダイヤモンドロック』は、これまで彼女とともに皆の危機を何度も救ってきた。

「白魔術の適性を得た以上、私が持っているべきなのだろうが…」

ルーリはそう言いかけて、黙り込んでしまった。


「シロマ、身体は大丈夫ですか?」

「はい。少し…落ち着かないだけです」

今、シロマの身体には『流転の閃光』が宿っている。彼女がその気になればいつでも雷系統魔術を発動出来るだろう。

「これから雷系統魔術の訓練をするのですか?」

「いえ、もう少し落ち着いたら…」

いつものシロマらしくもなく、部屋で何もせずに過ごしている。

「魔術書が必要ですよね?書庫に行って見てきましょうか?」

「今は結構です。ありがとう、クラヴィス」

シロマは丁重に断った。

しかし、クラヴィスは何とかシロマの役に立ちたい。

「ルーリ様は強すぎて魔術書とか読んでなさそうですが、書庫に行けば何冊か見つかるはず…」

「今は読みませんから、後にして下さい」

「でも、部屋に置いておけばすぐに読めますよ」

「そのうち私が探しに行きますから」

「そのうちっていつですか?」

「っ…」

クラヴィスが失言に気付いた時にはもう遅かった。

「今は読まないって言ってるでしょう!?」

今までに見たことのない形相でクラヴィスを睨むシロマ。その腕には雷が巻き付いている。

「シロマ…!」

慌てて謝ろうとするクラヴィスだが、シロマの言葉の方が早かった。

「ごめんなさい、クラヴィス。訓練所に行ってきます」

『流転の閃光』を発動させてしまった彼女はすぐに訓練所に『転移』した。雷系統魔術を使いこなせない今、ここにいては彼を危険にさらすと思ったのだろう。

「シロマ…!」

クラヴィスは追いかけようとしたが、出来なかった。結局、自分は何の役にも立てない。それどころか、シロマを怒らせてしまった。

「シロマ…ごめんなさい…」

彼女の部屋に一人残され、クラヴィスは俯いた。


「『流転の迅雷』!発動せよ!!」

その瞬間、物凄い勢いで雷が落ちる。

ルーリがよく使っていた『迅雷』魔術である。

あのまま部屋にいたら、わけも分からず発動してしまっていたかもしれない。

だから訓練所に来たのだが、一向に気持ちは落ち着かない。『流転の閃光』もシロマの感情に応えるように強烈な雷系統魔術を放つ手助けをしてくれる。…頼んだ覚えはないけど。

「私は怖い…。誰かを傷付けるかもしれない攻撃魔法が怖い…!」

しかし、皮肉にもその葛藤が苛立ちとなり『閃光』を発動する引き金となっている。

「止めたい…!雷を止めたい!!なのに…どんどん渦が巻き付いていく…!」

気付けば、腕だけでなく、身体全体に『流転の閃光』の雷の渦が広がっている。身体は痛くも何ともないが、それを見たシロマは恐怖を感じる。

「やめて…!お願い…!」

『閃光』を止めたい。なのに、止まらない。

シロマはパニックに陥る。

完全に制御不能になっている。

「どうして止まってくれないの!?」

魔術をコントロール出来ない自分への怒り、知らないうちに広がっていく魔力への焦り、そして、とてつもない負の感情があふれ出した。


「っ!?」

「何事だ!?…訓練所か!」

ルーリは急激な魔力の高まりを感じ、その出どころが訓練所だと一瞬で気付く。

「ルーリ、この魔力って…」

「ああ。雷系統だ。シロマが使っているのだろうが…この大量の魔力放出は少し気になるな」

そう言った時、さらに膨大な魔力が一点集中で放たれたのを感じる。

ルーリは顔色を変えて、

「…ミノリ。ここで待っててくれ。私は訓練所に行ってくる」

そう言い残して『転移』した。

が、訓練所は瓦礫の山と化していた。

「っ…まさか…!」

辺りを見回すが、シロマの姿はない。

そこへ、

「ルーリ様!!」

「クラヴィス!来たのか!?」

「はっ!」

結局、いてもたってもいられなくなって『転移』してきたクラヴィス。彼は『魔力探知』が出来ないので、予想外の惨状に驚愕する。

「ルーリ様…これってまさか……」

「ああ…。間違いなく魔力爆発だろう」

そう言いながら、ルーリは瓦礫を動かしてシロマを探し始めた。

「私もやります…!」

しかし、非力なクラヴィスはあまり役に立たなかった。そういえば、彼は魔力も武力も持たない顕現者だったとルーリは思い出す。

「クラヴィス、無理はするな。瓦礫は私がどけるから、お前は足元に気を付けてシロマを探せ」

「はっ!畏まりました!」

結界部屋と呼ばれる第4会議室がクロネに爆破された時も大変な状況だったが、訓練所は結界部屋の何倍もの広さがある。そこが崩れ落ちたのだから、瓦礫の量も比較にならないほど多い。

(シロマが…これを……?)

クラヴィスは聞きたかったが、悲壮感を漂わせながら作業を続けるルーリの横顔を見ては何も言えなかった。

訓練所にも結界が張られていることはクラヴィスも知っている。シロマも訓練所ならば他に危険を及ぼさないと思ったのだが、周囲に誰もいない状況が逆に彼女の魔力をヒートアップさせてしまった。

「シロマ!どこにいるんだ!?」

ルーリは何度も彼女の名を呼んだ。

「答えて下さい!シロマ!!」

クラヴィスも声を張り上げた。

…しかし、応答はない。


崩壊した訓練所の瓦礫の中を探すこと数時間。

真っ黒に焦げた人の身体の一部が見つかった。

「クラヴィス、すぐにこれを動かす。…少し下がってろ」

ルーリがそう言って幾重にも積み重なった瓦礫をどけると、その下にシロマの姿があった。

かろうじて顔は判別出来るが、身体は真っ黒である。凄まじい魔力を持った雷に焼かれてしまったのだろう。

「シロマ……」

その時、ルーリのアイテムボックスから『ダイヤモンドロック』が飛び出してくる。

「っ…。『全回復』発動せよ!」

ルーリは力を込めて回復魔法を発動するが、死んだ者には効かなかった。

「蘇生…蘇生魔術は……」

こんな時、シロマならば『超再生魔法』という禁術を発動しただろう。他にも、今役に立つ白魔術があるのかもしれない。

しかし、ルーリには分からなかった。

「私はどうしたらいい…?教えてくれ…」

ルーリは『ダイヤモンドロック』を握りしめて涙を流す。

「シロマ…すまない。私のせいだ…」

「いえ、違います。私が彼女に余計なことを言ったから…」

クラヴィスは真っ黒になったシロマの前に膝をつき、彼女が『転移』する前に初めて見せた怒りの表情を思い出す。

「ごめんなさい、シロマ…」

悔やんでも、謝っても、シロマは帰ってこない。

今ここに『宙色の魔力』を使える者はいない。


覆すことの出来ない残酷な事実だけがその場に横たわっている。

クラヴィスに危険を及ぼすまいと結界の張られた訓練所に『転移』したシロマですが、制御不能に陥って魔力爆発を起こし、その強大な魔力で訓練所を崩壊させ、最終的に彼女自身も命を落とすことになってしまいました。


またひとつ命を失った流転の國。


「マヤリィが亡くなれば流転の國は崩壊する」と言った水晶球の言葉が重く響きます。

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