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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第五十話 最後の夜

明日、雷系統魔術適性の宝玉を作る。

それには、この髪を捧げなければならない。

魔術書に従って、白魔術の適性をもらう代わりにシロマに渡す宝玉を作ると決めたのは私だ。何も肉体を切られるわけではない。髪を切られたところで痛くない。…身体はな。

その夜、ルーリは念入りに髪を洗い、最高級のトリートメントを使い、名残惜しそうにドライヤーをかけた。

いつもウェーブがかかっているのは毎朝コテで巻いているからであり、本当はストレートヘアである。

乾かしてからブラッシングすると、真っ直ぐな長い髪をした自分が鏡に映っている。

輝く金色の髪は傷みもなく、本当に美しい。

柘植の櫛で梳かすと、さらに艶めいて見える。

「マヤリィ様が褒めて下さった髪だ…」

ルーリは自分の髪を前に持ってくると、今にも泣きそうな表情で手櫛を通す。

サラサラとした柔らかい手触り。いつもはこんなに意識することもなかったが、たまにはストレートのまま皆の前に出てもよかったな、と思う。もはやそれが出来るのは明日だけだが。

「私の髪、こんなに綺麗だったかな…」

流転の國に顕現した時から長い髪だった。一度たりとも短くしようなどと思ったことはない。

人のことは気にしない性質だから何も言わないが、シャドーレが短髪を好む理由は理解出来なかった。だからといってなぜロングヘアでいるのかと聞かれれば答えられないかもしれない。

ただ、自分の長い髪が好きなのだろう。

「…自分で決めたことだ。ミノリを救う為なら私は何だってする。そう誓ったじゃないか…」

なのに、ルーリの女心は素直だった。

もう決めたことだと自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、涙があふれてくる。

「私は…この髪が好きだ」

ルーリは何度も長い髪の感触を確かめる。

しなやかな髪はルーリの指をするりとかわす。

この手触りを忘れたくない。

「うっ……」

誰にも見せたことのない表情でルーリは泣く。

叶うならば、切ってしまう前にもう一度、マヤリィ様に見て頂きたかった。

叶うはずのない願いを押し殺して泣き続ける。

「髪が短くなってしまったら…ドレスが似合わなくなるのかな…」

ここは衣装部屋。流転の國に顕現してから数えきれないほど入っては、そのたびにドレスや靴を探した。不思議なことに、その時欲しい物が必ず見つかる部屋なので、ルーリはいつも自分の好きな服を着ることが出来た。

「明日、私はどんな姿になってしまうのだろう」

特に睡眠を必要としないルーリだが、明日の魔力消費を考えると少しは休んでおいた方が良いかもしれない。

ミノリには、今日は夜通し書庫に籠ると言ってあるから、部屋に帰らなくても心配されることはない。しかし、実際にルーリが籠っているのは衣装部屋だ。

「…少しは横になるか」

そのまま床に寝転がるルーリ。豊かな髪を広げて、ルーリは呟く。

「この髪も…見納めだな…」

ルーリは横になってからもしばらく自身の長い髪に指を通してはその手触りを感じていたが、いつの間にか眠っていた。

ブロンドのロングヘアを愛おしそうに抱いて、ルーリは朝まで眠り続けた。

衣装部屋には大量の洋服や服飾雑貨があり、試着出来るスペースがあり、さらにはシャワー室も完備されています。


シャドーレと違って、髪を切ることに抵抗を感じるルーリ。

今まで一度も短くしたことのない髪ですが、魔術適性の宝玉を作るにはかなりの長さが必要となるでしょう。

逆に言えば、シャドーレにはこの宝玉を作ることが出来ません。


全てはミノリを救う為。

ルーリは迷いを振り切って、明日に備えるのでした。

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