第四十九話 決心
「これは…もしや、ユキさんが使っていたマジックアイテムですか…!?」
「ああ。よく覚えていたな、シロマ」
ルーリは頷くと、シロマにその魔術具を手渡した。
『悪魔のチョーカー』と呼ばれるそれは、かつて流転の國に侵入した天界の者と戦って命を落としたユキが身に着けていた魔術具である。ユキの適性は毒系統魔術だったから、うまく使えば『解毒』の手助けをしてくれるのではないかと思ったのだ。
魔術書が見つからずに困っていたルーリはユキのことを思い出し、彼女の遺品となった『悪魔のチョーカー』を宝物庫から持ち出した。水晶球ではなくマヤリィが直接ユキに授けた魔術具だから、マヤリィの魔力も残っている。
「…このマジックアイテムと回復魔法を組み合わせることでミノリ様を救うことが出来るとおっしゃるのですね?」
「ああ。この魔術具からは僅かだがマヤリィ様の魔力も感じられる。これを装着すれば、毒系統魔術は使えなくとも白魔術を後押ししてくれるはずだ」
『流転のリボルバー』といい、マヤリィが授けた特別なマジックアイテムは必ず味方を守るように出来ている。
マヤリィの魔力と、毒を司る魔術具、そして白魔術。ミノリを救う為にルーリが考え出した計画だ。
シロマは説明を聞きながらそれをしばらく観察していたが、急にルーリの手に戻した。
「これは…使う者を選ぶマジックアイテムにございますね」
「分かるのか?」
「はい。持っているだけで、私とは相性が良くないと感じました」
シロマが言う通り『悪魔のチョーカー』は使う者を選ぶ。これを身に着けるに値しない者が使おうとすれば、魔術具に宿った『毒』に冒されるという諸刃の剣である。
少しの間持っていただけなのに、シロマは魔術具の『毒』を感じ取り、慌ててルーリに返したのだ。
「…そうか。もしお前がこれを使えるなら魔術適性を交換する必要はないと思っていたのだが…やはりな」
ルーリにはだいたい検討がついていたらしい。
「…シロマ」
「はい、ルーリ様」
改まって名前を呼ばれて見れば、ルーリは真剣な表情の中に申し訳なさが垣間見える面持ちでシロマを見ている。
「シロマ。ここまで一方的に話を続けてきてしまったが、私に協力してくれるか?」
「えっ…」
「今更こんなことを言ってすまない。だが、無理強いはしたくないから聞く。…私が説明した方法で魔術適性の交換が成功すれば、お前は白魔術師ではなくなってしまう。そうしたらお前はつらい思いをするかもしれない。…だから、魔術適性の交換が嫌なら嫌だと言ってくれ。私はお前を苦しめてまでこの方法を取るつもりはない」
「ルーリ様…」
「決して私に遠慮はするな。確かに私はミノリを助けたいが、同じくらいシロマのことも大切に思っている。私はもう仲間を苦しめたくないんだ…」
『流転の國のNo.2』と呼ばれた立場から女王に選ばれ、記憶を操作されてマヤリィを追放し、悪魔種の負の部分を引き出されて恐怖政治を行ってきたルーリ。
ランジュを殺し、好奇心で造り出したホムンクルスによってネクロを失い、今もミノリを苦しめている。
マヤリィの記憶を全て取り戻した今、ルーリは常に罪悪感と後悔と深い悲しみを背負って皆の前に立っているのだ。
(ルーリ様…)
シロマには分かる。今ここで自分が断ったとしても、ルーリは怒ることも落胆することもなく、すぐに他の方法を探し始めるだろう。
「ルーリ様、聞いて下さい」
シロマは意を決してルーリに告げる。
「今の私は、白魔術師にもかかわらずミノリ様の身体を治すことが出来ません。様々な回復魔法をかけさせて頂きましたが、何の効果もありませんでした。そんな私には、もはや白魔術師を名乗る資格はないと思います。ですから、ミノリ様をお救いする手助けとなれるのならば、ぜひ私の魔術適性を使って下さいませ。それが、白魔術師としての私の願いにございます」
「シロマ…」
これは、シロマだからこそ言える言葉だとルーリは思った。彼女は自分の魔術適性を永遠に失うと分かっていても、仲間を救う道を選ぶことが出来るのだ。
「お願いします、ルーリ様。私の魔術適性をお受け取り下さい」
誰に対しても優しく慈悲深い彼女だが、実際は流転の國で一番の努力家で、とてつもなく自分に厳しい人物である。そんな彼女の鍛錬の賜物がマヤリィも認めた最上位の白魔術なのだが、ミノリを救えないと思い知らされてからは自分の無力さに苛まれ、落ち込む日々が続いていた。
「シロマ…本当に良いのか?」
「はい。決して後悔は致しません。…ルーリ様こそ、大丈夫にございますか?」
その時、シロマはルーリよりも力強い瞳をしていた。
「大丈夫だ。私はミノリを救う為なら何でもすると決めている。絶対に後悔はしない」
ルーリがそう言い切ると、シロマは笑って頷いた。
「…それでは、準備が出来次第、実行ということになりますね?」
「ああ。すぐに『能力強奪』の宝玉を作る。術式は理解しているからあまり時間はかからないだろう。…それと、私の魔術適性を込める為の宝玉を用意しなくてはな」
その後、二人は具体的な打ち合わせを始め『魔術適性の交換』を実行する日時まで決めた。
「あとは、マジックアイテムだな…」
ルーリが言う。
「当然だが、今私の身体にある『流転の閃光』はシロマが雷系統魔術の適性を得た瞬間に、シロマの身体に取り込まれることになる。普通のマジックアイテムとは異なるから最初は不思議に思うかもしれないが、お前なら大丈夫だ」
「畏まりました、ルーリ様。では、私は『能力強奪』を発動される際に『ダイヤモンドロック』をお渡しします」
『ダイヤモンドロック』はシロマが流転の國に顕現する前から持っていた魔術具である。
「ああ。『ダイヤモンドロック』の力がなければ、ミノリを救い出すことは出来ないだろう。よろしく頼む」
こうして、双方のマジックアイテムの確認まで済ませると、ルーリは書庫に留まって宝玉を作り始めるのだった。
全ては大切な仲間を救う為。
覚悟を決めた二人は、計画実行に向けて動き出します。




