第四十三話 話したいこと
「…ジェイ。話したいことがあるの」
ミラーとフランシスが買い物に出かける前の日、マヤリィは言った。
かろうじて声だけは原型を留めているが、顔も背格好も本物のルーリにしか見えない。
「貴方も分かっているでしょう?これからの私達のことよ」
ホテルの部屋で、二人は向かい合って座る。
「貴方と一緒に旅をしていたはずのマヤリィはいなくなってしまったわ。そして、禁術が解けない限り、戻ってくることは出来ない。…このままの状態でいるのはお互いに幸せではないと思うの」
「姫……」
ジェイは一生懸命にマヤリィの姿を思い描きながら話を聞く。
「僕はどうしたら良いんでしょうか…?」
禁術を解くにはマヤリィを超える魔術師であり、なおかつ『禁術無効化』を発動する必要がある。そして『禁術無効化』もまた禁術だ。
「最近、僕は頻繁に貴女とルーリを間違える。…本当に申し訳ないと思っています。見た目はルーリでも、中身は姫のままなのに…」
「それは仕方のないことよ。私とネクロを見分けろって言っているのと同じ次元の話だもの」
流転の國でルーリが造り出したホムンクルス・クロネの暴走によって命を落とした黒魔術師のネクロは、マヤリィと顔も背格好も驚くほど同じだった。因みに、二人ともネクロが死んだことを知らない。
「私とネクロは声だけは全く違うけれど、この禁術の場合はそうはいかないみたい。…恐らく、私は近いうちに声まで完全にルーリになるわ」
「声まで、ですか…」
マヤリィは頷く。
「私から見た貴方は今までと何も変わらない。でも、貴方から見た私はルーリ以外の何者でもない。貴方さえ良ければ構わない、と言いたいところだけれど…今の状況で貴方と一緒にいるのは結構つらいのよ、私」
「姫……」
ジェイは何も言えず、ただマヤリィの声を聞いている。
「禁術を解く為に行動を起こせば、貴方と二人で静かに暮らしていくっていう夢は終わってしまうわ。それでも、私は禁術を解く道を選びたい。私は本物の私の姿でジェイを見たいし、ジェイを抱きしめたいのよ」
そう言ってジェイを見つめるのはブルーグレーの瞳。とても美しいが、ジェイの最愛の女性ではない。
「姫……」
ジェイは一瞬目を逸らしてから、もう一度彼女の瞳を見る。
「…僕だって、叶うならばすぐにでも貴女の禁術を解きたい。本物のマヤリィ様に会いたいです…」
『永幻術』によって『幻影』が二度と使えなくなってしまった為、今の姿からさらに顔を変えてみせることは不可能だ。
「姫、僕も選びます。禁術を解き、本物の貴女を取り戻したい。その為ならどんなことでもします。姫がこのまま精神だけの存在になってしまうなんて…絶対に嫌です」
「ジェイ……」
今はまだマヤリィの声。だが『永幻術』は容赦なく『幻影』魔術を強化していく。
「姫、禁術を解く方法を探しましょう」
ジェイが力強くそう言うと、マヤリィは頷いた。
「ええ。…では、私が考えた計画をこれから伝えるわね」
そして、二人の作戦会議は始まった。




