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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第四十二話 ミラーとフランシス

『永幻術』の副作用…。

それは、予想以上に深刻でした…。

「本当に身体はもう大丈夫なのか?」

「ええ。この間は本当にありがとう。お陰で助かったわ」

そう言って微笑むミラーを前に、フランシスはつい見とれてしまう。

『隠遁』のローブをお忘れですよ、マヤリィ様。

「今夜はいつも通り出来そうよ。よろしく頼むわね」

「ああ。こちらこそ…!」

マヤリィはこれからどうすべきかを考えるのに精一杯で、フランシスから告白されたことを忘れている。

一方、ジェイはマヤリィを見失った感覚に陥って、次第にルーリと一緒にいる気持ちになってきた。

《ルーリ、疲れてない?》

《私はマヤリィよ、ジェイ》

《あっ、ごめん…なさい…。姫、身体は大丈夫ですか?》

そんなことが度々起きるようになった。

「姫、最近思ったんですけど…身長伸びましたよね?」

ある日、ホテルの部屋で仕度中のマヤリィにジェイが声をかける。

「やっぱり…そう思う?」

「はい。姫の身長は160cmくらいでしたよね?」

「ええ。ちょっと並んでみましょう」

ジェイは身長172cm。

「えっ…僕とあまり変わらなくないですか?」

マヤリィはそれを聞いて『鑑定』を発動する。これを使えば身体のデータも取れる。

「……。170cm…」

普段は『隠遁』のローブを被っているので分からなかったが、予想以上に伸びていた。

「姫、それってもしかして…」

「ええ。どうやら『幻影』のモデルに近付いてきているようね…」

マヤリィは言う。

『幻影』魔術によって見せる顔が実在の人物の場合、魔術を継続することで身体まで似てきてしまうらしい。本来ならばそうなるまで『幻影』を持続させることはないので気付かなかったが、今は禁術のせいで魔術の継続を止めることが出来ない。

これはマヤリィも予想外の『永幻術』の副作用だ。

「フランシスは気付いているかしら…」

「『隠遁』のローブを身に付けている限り、体格は大丈夫だと思いますが…。もしかして、声も変わってきてます?」

「その可能性はあるわね」

今のところはよく分からないが、声まで変わってしまったらフランシスも違和感を覚えるだろう。

そうでなくても、最近ジェイはマヤリィをルーリと呼ぶことが多くなった。

見た目は紛れもなくルーリなのだから仕方がないといえば仕方がないのだが、その度に二人の間には微妙な空気が流れる。

「貴女を超える強さを持つ魔術師でなければ、その禁術を解くことは出来ないんですよね…?」

ジェイが改めて訊ねると、マヤリィは黙って頷いた。しかし、その顔は完全にルーリである。

「どうしたら良いんでしょう…?」

ジェイは頭を抱えるが、どうすることも出来ない。


そして、恐れていたことが次々に起きる。

「ルーリ!じゃなくて、姫…!僕の身長超えましたよね…?」

『鑑定』してみたら174cmだった。ルーリと同じ身長だ。

ステージ上の彼女を見たフランシスも違和感に気付いたらしく、

「ミラー、君ってそんなに背高かったかな?」

不思議そうに訊ねてくる。

「えっと……ほら、普段は特殊なローブを着ているでしょう?あれは『隠遁』のローブといって、色々と隠すことが出来る物なの。私、意外と背が高いのよ」

マヤリィは必死に誤魔化そうとするが、今度は喉の調子がおかしい。

(そんな……まさかね…)

マヤリィは咳払いすると、

「ごめんなさい、フランシス。体調は悪くないのだけれど…なんだか声が変みたい」

「喉を痛めたんじゃないか?…白魔術師を呼んでくるよ」

「待って。痛いわけではないの。ただ、少し違和感がある…」

それを聞いて、フランシスは心配そうに言う。

「確かにいつものミラーはもっと高い声だけど…。本当に体調は大丈夫なのか?」

「ええ。声がおかしいだけで他は全然大丈夫よ。一体どうしたのかしら。不思議ね」

マヤリィが状況を誤魔化そうとして話せば話すほど、声は低くなっていく。自分が発しているから少し違って聞こえるが、ルーリの声に似ている。

「ミラー、今日は休みにしよう。俺もたまには時間を気にせずに出かけたいし、臨時休業にするよ」

店ごと休みにしなければ、きっとミラーは無理をしてでもステージに立つ。

フランシスはそれが分かっているから、臨時休業にすることを決めた。

「…そうだ。前にも言ったけど、一緒に買い物に行かないか?本職が旅人なのは分かってるけど、俺はドレス姿のミラーが見たい」

「でも…私に似合うかしら……」

そう言いつつ、今は素直に受け入れられそうな気がする。だって、この身体はマヤリィではなくルーリなのだから。

「絶対似合うよ。ミラーは美人だし、スタイルもいい。…ほら、行ってみよう。昼間は人通りも多いし、楽しい街だよ」

フランシスにそう言われ、マヤリィはやっと頷いた。

「よかった。じゃあ、早速出かけよう」

嬉しそうな顔でマヤリィの手を取るフランシス。

マヤリィはその手を拒まなかった。


「フランシス、久しぶりねぇ。新しい彼女さん?」

「いや、残念ながらまだ良い返事をもらえなくてね…」

年配の女性店員とフランシスの話を聞いて、ようやく彼から告白されたことを思い出すマヤリィ。

(完全に忘れていたわ…)

まぁ、あの日はひどい頭痛で寝込んでたしね。

「本当にスタイルが良いわねぇ。見かけない顔だけど、どこから来たの?」

その問いに、マヤリィではなくフランシスが答える。

「元々は旅人なんだが、この街にいる間は俺の店を手伝ってくれてるんだ。『プリンセスミラー』って聞いたことないか?」

「それって、最近ここいらで有名な美人イリュージョニストのこと?貴女が…そうなの?」

いつの間にか有名になってるミラーさん。

「どんな人なのかと思ってたけど本当に綺麗な人ねぇ。スタイルも良いし、何でも似合いそうだわ」

店員はそう言うとフランシスに耳打ちする。

「…で?予算はおいくらなの?」

「決めてない。いくらでもいい。彼女に似合う高級ドレスが欲しいんだ」

フランシスがそう言うと、店員は嬉しそうに頷いて店の奥へと消えた。

マヤリィは物珍しそうに店の中を見回していたが、店員が奥へ行ったのを見て、

「貴方はこのお店の常連さんなの?」

フランシスに訊ねる。…さっきよりも声が低くなっている気がする。

「ああ。昔からの馴染みっていうか、近所だからたまに来るんだ。…ところで、本当に喉は大丈夫なのか?」

「ええ。声が違うだけで全然痛くないわ」

「そうか…。でも、調子が悪くなったらすぐに言ってくれよ?」

「分かったわ。ありがとう、フランシス」

マヤリィがそう言って微笑むと、フランシスは思わず頬を染めた。ここに来るまでの間もローブ抜きだったというのに、改めて彼女の顔を見ると、あまりの美しさに見とれてしまう。

その時、店員が楽しそうな顔で現れた。

「お待たせしたわねぇ。…プリンセスミラー、こっちに来て。順番に着てみましょう」

そう言ってマヤリィを試着室まで案内する。

そして…

「これはどう?」

「綺麗だ…」

「こっちはどう?」

「素晴らしい…」

「こんな感じでどう?」

「美しすぎる…」

フランシスの感想は曖昧すぎて決め手に欠ける。

その間、ずっとマヤリィは黙っていたが、

(さすがはルーリ。何を着ても似合うわね…!)

彼等の会話を真面目に聞いていたわけではなかった。

「毎度ありがとうございます!また来てねぇ〜!」

結局、フランシスが選んだのは、繊細な刺繍が施された桜色のロングドレス。あの店で一番の高級品だ。ドレスに合うようにとすすめられた同じ色調のハイヒールも買った。

「受け取ってくれ、ミラー。俺からの気持ちだ。もし着る場所がなければ、ステージ衣装にしてくれればいいから」

「フランシス…」

マヤリィは一瞬躊躇したが、素直にプレゼントを受け取った。

「ありがとう、フランシス。嬉しいわ…」

その声は魅力的なハスキーボイス。完全にルーリの声に変わっていた。


「ミラー、そろそろ休憩しようか?あちこち歩き回って疲れただろう?」

あれから色々な店を渡り歩き、フランシスはミラーの為にイヤリングやネックレス、さらには紫外線対策にと日傘まで買ってくれた。

「可愛いわ。フリルが付いているのに大人っぽくて…」

「気に入ってくれたか?大人可愛いを目指してみたんだが、成功したかな?」

フランシスも大人可愛いとか言うんだ…。

ジェイとは全く違うタイプの男性とのショッピング。身長174cmの私よりも背が高くて、気遣いが出来て、凄く頼もしい。マヤリィは最初こそ戸惑っていたが、だんだん楽しくなってきた。

「ねぇ、コーヒーでもどうかしら?」

すぐ近くにカフェの看板を見つけたマヤリィが言う。

「いいね。君はコーヒー飲めるんだ?」

フランシスも看板に気付いたらしい。

「ええ、コーヒーは好きよ」

「…そうか。ミラーはコーヒーが好きなのか…!」

フランシスはなかなか分かりやすい男である。

ミラーの言葉を聞くと、嬉しそうな顔でカフェに入る。

「いらっしゃいませ!」

若い店員が出てきて二人をカウンター席に案内する。

そして、二人してアイスコーヒーを頼んだ。

「ミラーがコーヒー好きだとは知らなかったよ。今更だが、俺は君のことを何も知らない気がしてきた」

「そういえば、貴方とゆっくり話したことってなかったわね」

マヤリィは声に違和感を感じつつ、それが次第に自分の物になっていく気がした。

「ミラー。他に何か欲しい物はないか?その美しいブロンドに似合う髪飾りとか、君に贈りたい物は沢山あるんだ」

フランシスはそう話すが、マヤリィは髪飾りには興味がない。

代わりに、真面目な顔で彼に訊ねる。

「…ねぇ、フランシス?私、欲しい物は思い付かないのだけれど、行ってみたい場所があるの。そこまでの道筋を教えてもらえるかしら」

それを聞いたフランシスは嬉しそうな顔で頷く。

「そうか…!ミラーの本職は旅人だもんな。そんな君が行きたいというくらいだから、きっと素敵な場所なんだろう。…どこに行きたいんだ?」

「桜色の都の北部にあるっていうエアネ湖よ」

「エアネ湖…?ああ、王様が使うっていう離宮がある場所だね?」

フランシスは言う。

「この街からは少し距離があるけど…家に地図があるから、帰ったら見てみよう。必要なら持って行ってくれても構わないし」

と言ってから、フランシスはミラーの相棒のことを思い出す。

「そういえば、ジェイムズはどうしてる?ここのところ休んでるから気になってたんだが、君の旅仲間なんだろう?」

やっと思い出してもらえたジェイ。

「ええ、そうだったのだけれど…」

マヤリィは少し言い淀んでから、

「最近、喧嘩ばかりなの。昨日なんて、貴方を置いてこの街から出ます!なんて言うのよ?」

ため息がちに話す。

「それは知らなかった…。姿を見かけないと思ったら、そういうことだったんだね」

フランシスは寂しそうにそう言うと、マヤリィに訊ねる。

「ミラー。君の気持ちはどうなんだい?もしエアネ湖に行くとしても、ジェイムズは連れて行かないつもりなのか?」

「…まだ分からないけれど、彼とはここで離れるべきなのかもしれないわね。これ以上一緒にいたら嫌いになってしまいそうだから…」

話を聞く限り、ミラーとジェイムズの関係は修復不可能になりかけている、とフランシスは思った。

「こんな時に言うのもなんだが、前に君に言ったこと、覚えてるかい?」

「えっと…私を介抱してくれた時のこと…?」

「ああ。覚えててくれたんだね」

あの時、フランシスはミラーに告白した。しかし、返事はまだもらっていない。

「フランシス…」

マヤリィはルーリの顔で彼を見つめる。

「貴方の気持ちは嬉しいけれど…本当に、私でいいの…?いつどこに行ってしまうか分からない女なのよ?」

「それは、旅人なら当然のことだろう?…もし君がこの街を出ると言うのなら、俺も一緒に行きたい」

フランシスは優しい目でマヤリィを見る。

「さっき話していたエアネ湖、俺も見てみたいな」

(フランシス、ごめんなさい……)

マヤリィの本当の目的はエアネ湖ではなく、離宮のツキヨに会うことだ。

でも、今それを彼に言うことは出来ない。

マヤリィは本心を隠して、優しく微笑みかける。

「ありがとう。私も…貴方と一緒に行きたいわ。…改めて、これからよろしくね」

「ミラー…!大好きだよ…!」

思わず彼女を抱き寄せるフランシス。

慣れた手つきだが、マヤリィには敵わなかった。

「んっ……」

あっという間に唇を奪われ、彼女の大胆さに驚く。

「ミラー…」

「何かしら?」

「夜が…愉しみだな…」

「ええ。私もそう思うわ」

優しげな微笑みから一転、妖艶な雰囲気を醸し出す彼女に、ますますフランシスは惹かれていく。…勿論、全てはルーリだ。


その後、フランシスは彼女に贈る大量のプレゼントを、そしてミラーは帰り道に彼が買ってくれた花束を抱えて、夕暮れの街を歩いて帰るのだった。

シャドーレに負けず劣らず浮気性なマヤリィ様。

完全にルーリの姿になった彼女は、フランシスには告げることの出来ない思惑を胸に秘めてエアネ離宮へと向かいます。

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