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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第三十三話 霧の中の悲劇

私はこの命に代えても桜色の都を守る。

さあ、全力で参りますわよ!!

(まずは関所に向かい、今の状況を詳しく聞くべきですわね…!)

『暗黒のティーザー』を携え、シャドーレは国境線へと急いだ。

短い髪に軍服姿の女兵士は臨戦態勢で森を進んでゆく。

(桜色の都を…必ず守ってみせますわ…!)

今の彼女は流転の國という存在を完全に忘れていた。桜色の都にとっての『東の森』は流転の國にとっての『西の森』。さらにゴーレムが配置されていた国境線を越えれば、そこは流転の國の領域である。

下手に連絡を取って関係を悪化させてはいけないと危惧したヒカル王に対し、最初から流転の國のことなど考えていないシャドーレ。

魔術具を使えば『長距離念話』が発動出来ることも忘れて、一心不乱に仲間との合流を目指した。

(霧が濃くなって参りましたわね…)

次第に視界が悪くなってゆく。

『クロス』の隊員も見当たらず、ゴーレムにも遭遇しない。

時折、方向を確認しながらシャドーレは休むことなく動き続けた。

(っ…人の気配…!?)

「誰ですの!?」

突然、人の気配を感じてシャドーレは叫ぶ。

そこへ現れたのは…。

「貴女は…シャドーレ様…!!」

深い霧の中で、彼は安堵の声を上げた。

「私です!ウィリアムでございます!」

『クロス』の現副隊長の声を聞き、シャドーレもひとまず安心する。

「ウィリアム…!合流出来てよかったですわ。他の隊員はどこに…?」

「班に分かれて行動していたのですが、霧が濃くなってきてはぐれてしまいました。…しかし、シャドーレ様が来て下さったとなれば、もう何も怖いものはありません!」

そう言って喜ぶウィリアムにシャドーレは聞く。

「陛下から話は伺いましたが、凶暴化したというゴーレムはどの程度の強さですの?」

「それが…自分もまだ直接見たわけではないので分からないのですが、マンス殿の報告によれば以前と比べて格段に強くなっているとか。制御不能になった上に攻撃され、黒魔術で応戦したものの全く歯が立たず、命からがら関所に逃げ込んで『シールド』を強化したとのことです」

マンス本人の実力は『クロス』に入隊出来ないレベルだが、国境線を守る為に配置された数十体のゴーレムの指揮官に抜擢され、ずっと彼等とともに警備にあたってきた。一応は国から認められている黒魔術の力に加えて『隠遁』のローブをはじめとした様々なマジックアイテムを持たされているので、そう簡単に倒されることはない(…かなり前、流転の國のルーリ&ネクロの最恐二人組を相手にした時はあっさり戦闘不能にされたが)。

「現在、関所には白魔術師が一人いて、そこが安全地帯とされています。…仲間とはぐれてしまった今、私はそこを目指しているのですが、この霧では辿り着けないかもしれませんね」

ウィリアムは言う。

「戦闘が長引くようならば野営地に結界を張って凌ぐよう命じられていますが、これでは戦う前に休憩が必要になりそうです」

視界不良の中、森を進むのは疲れる。

「ウィリアム、ひとつ確認しておきたいのですが、陛下が出されたのはゴーレム討伐の命令にございますわね?」

「はい。調査が主体になるかもしれませんが、一応は討伐命令です」

「…となれば、ゴーレムを破壊する必要があるというわけですわね?」

「は、はい…」

「ならば、中途半端な攻撃で済ませるわけには参りませんわ。危険な国境線にゴーレムを配置した理由は、彼等の耐久性と再生能力を見込んでのことでした。ですから、もしゴーレムと戦うことになったら、徹底的に破壊することですわね。そうでなければ、何度でも復活してしまいます」

「はい…」

シャドーレの厳しい表情を見て、ウィリアムは今とても危険な場所にいるのだと実感した。

天界との戦を経験しておらず、西のモンスター討伐にも参加していなかった彼は、黒魔術師としての力は強くても実戦経験がないのだ。

「貴方の言う通り、早めに野営地を設ける必要がありそうですわね。…っ!?」

突然、音もなく気配もなく一体のゴーレムが現れ、ウィリアムに向けて拳を振り下ろした。彼は咄嗟に避けたが、今の一撃を食らっていたらただでは済まなかっただろう。

「ウィリアム、伏せなさい!」

シャドーレは自身のマジックアイテムをゴーレムめがけて投げると同時に黒魔術を発動した。

「ここで叩き潰しますわ!」

『暗黒のティーザー』は真っ黒な長い槍である。シャドーレはその槍をゴーレムに突き刺すとともに魔術を食らわせたのだ。

その後、シャドーレは容易くゴーレムを再生不能にまで追い込んだ。ウィリアムは見ているより他なかった。

(さすがシャドーレ様…)

「さあ、関所を目指しますわよ」

「はっ!」


一方、ダーク隊長が率いる班では、頻繁に現れるゴーレムと戦っていた。どうやらゴーレムが現れる場所にはばらつきがあるようだ。

「とりあえず、関所を目指すぞ。こう霧が濃くてはどこから奴等が現れるか分からないからな。一度、安全地帯に退避する。はぐれるなよ!」

「はっ!」

ダークの言葉を聞いた隊員達はここにいると言わんばかりに大声で返事をする。

しかし、一人一人の姿を覆い隠すようにして霧はさらに深くなってゆく。状況はかなり悪い。

「…皆、疲れていないか?視界は悪くなる一方だし、先に野営地を設けた方が良いかもしれないな」

これは長期戦になると見て、ダークは隊員達を休ませようと考えた。

その時、

「隊長、来ました!!」

ゴーレムの一撃をマジックアイテムで防いだ隊員が叫ぶ。

「行くぞ!」

「はっ!!」

ダークは素早く参戦する。

そして、数人がかりでゴーレムを壊し、再生出来ないようにとどめを指す。

「よし、これでもう大丈夫だ」

ダークはひとまず安心する。

が、次の瞬間、霧の中からゴーレムの腕が現れた。

「ダーク隊長!!」

背後を取られたダークは避ける間もなくゴーレムの一撃を食らった。頭を殴られ、その場に倒れる。

「行け!仕留めるんだ!!」

隊員達はダークを攻撃したゴーレムの身体を濃霧の中から引きずり出し、一斉に黒魔術を発動した。

まもなく、ゴーレムは粉々になる。

「隊長!!」

二人はそのまま警戒を続け、一人は倒れたダークに駆け寄る。

「隊長!!大丈夫ですか!?」

「ああ…」

ダークは返事をするが、頭から血を流しており、立ち上がることが出来ない。

「『シールド』!!」

隊員はすぐさま『シールド』を発動し、ダークを守った。

「一刻も早く血を止めなければ…!」

隊員は応急処置をしようとする。

しかし、

「うわっ!!」

「ぐあぁ」

『シールド』を守るように立っていた二人が数体のゴーレムに囲まれてしまった。

そのうちの一人は避けきれずにダメージを受けた。

「くっ!」

ダークの手当てをしようとしていた隊員も応戦しようとするが、完全に包囲されてしまった。

ダークは動けず、もう一人も負傷。残る二人はどこから攻めて良いか分からず、魔術具を構えたまま立ちすくんでいると、

「『シールド』を張りなさい!!」

どこからか聞こえてくる声に従って、一斉に『シールド』を張る。

それを見たゴーレムは一瞬動きを止めた。その時。

「『暗黒槍』!!」

どこからか黒魔術を纏った槍が飛んできてゴーレムに命中。そのまま砕け散った。

「連続発動!追尾せよ!!」

その声に合わせ、漆黒の槍は次々とゴーレムを撃破してゆく。そして、あっという間に皆を取り囲んでいた全てを粉々にしてしまった。

数体のゴーレムを一気に葬り去った長い槍は真っ直ぐに持ち主の元に戻ってゆく。

「あ、貴女様は…!」

漆黒の長い槍を受け止めた長身痩躯の女兵士はその声に振り向くと、

「待たせましたね。すぐに結界を張りますわよ」

笑顔も見せず、一緒に来たウィリアム副隊長に指示を出し、仲間を守る為の拠点を構えるのだった。

シャドーレの登場により間一髪で助かった隊員達。

しかし、ゴーレムの強烈な一撃を受けたダーク隊長の容体は重く……。

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