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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第二十話 暴走

「お姉様〜!私はいつまでここにいればよろしいのでしょうか〜?」

「それは…ご主人様に聞かないことには分かりませぬ。…そろそろ魔術訓練は休憩ですぞ」

玉座の間で『長距離念話』が発動されている頃、第4会議室ではネクロがクロネを宥めていた。どうやら、仲間外れにされていると思ったようだ。暇を持て余して始めた魔術訓練も、どんどん過激になっていく。

「嫌です〜!クロネは暇です〜!ご主人様の所へ行きたいです〜!」

クロネは駄々っ子のようにネクロを困らせた。

「辛抱なされ。待機せよというのはご主人様のご命令にございますぞ。クロネちゃんはそれも守ることが出来ないのですかな?」

「待機…クロネは待機が苦手です〜!」

「ご主人様のお役に立つ為にも、苦手なことは克服して下され。クロネちゃんにならば出来ます」

なんだかんだ言ってクロネちゃんと呼んでいるネクロ。完全に妹のお守りをする姉のポジションになっていることを本人は気付いていない。

「あ、今クロネは良いことを思い付きました〜。お姉様、ここで私と実戦訓練を致しましょ〜?」

「え、ここで…?」

「この部屋に強力な結界が張ってあることは気付いておりますよ〜。ここならば実戦訓練を行っても問題ないのではないですか〜?」

クロネはそう言うと『鉄壁の細杖』をネクロに向ける。

「一度、本気でお姉様と戦ってみたかったのです〜」

「ほ、本気は…いけませぬ!」

「なぜですか〜?」

「今の貴女が本気を出せば、たとえこの部屋の結界と言えど耐えられぬ恐れがございますぞ」

「そんなことありませんよ〜!クロネはまだまだ発展途上にございます〜」

クロネはそう言うと、

「では、参りましょ〜!お姉様〜!」

一方的に実戦訓練を開始した。

「…仕方ありませぬな」

ネクロは『悪神の化身』を取り出し、クロネを止めようとするのだった。


「第4の魔力が増えているな…」

ミノリがシャドーレの応答を待っている間、ルーリは嫌な予感がしてきた。

一方、ミノリは不思議そうな顔で、

「いつもならすぐ返事が来るのに…シャドーレ、忙しいのかな…」

魔術具を装着したまま待機する。

ルーリは魔力探知を続けていたが、急に顔色を変えて立ち上がった。

「…シロマ。『長距離念話』が繋がったらすぐに呼び戻してくれ。私は第4会議室に行ってくる」

「畏まりました」

シロマも第4会議室から発せられる物凄い魔力を感じていたので、理由は聞かなかった。


「っ…!『シールド』!!」

ルーリが会議室の手前まで『転移』した途端、大爆発が起こった。ルーリは反射的に『シールド』を張ったので無傷だが、中の様子はまだ分からない。

「ネクロ!クロネ!そこにいるのか!?」

「あっ、ご主人様〜!」

ルーリに気付いたクロネが嬉しそうに駆け寄ってくる。

「一体どうした?何があったんだ?」

「分かりません〜。ですが、お姉様の姿が見当たらないのです〜」

「お前は大丈夫なのか?」

「はい。大丈夫です〜」

見れば、少し汚れているだけで怪我はなさそうだ。

「…分かった。お前は私が許可を出すまでそこを動くな。これは命令だ」

「はっ。畏まりました、ご主人様〜」

威厳に満ちた声で命じられ、クロネは大人しくその場に跪いて頭を下げた。

「ネクロ!どこにいるんだ!?」

ルーリは慎重に瓦礫をどけながら、ネクロを探した。

「返事をしてくれ!……それにしてもひどい崩れ方をしているな」

強力な結界が張ってあったはずの第4会議室は瓦礫の山と化し、全く原型を留めていない。

(爆発寸前に感じたのはクロネの魔力だった…。ということは、クロネは自分でも知らないうちに部屋を爆発させるほどの魔力を放出したというのか…?)

何があったか分からないと言っていたクロネの言葉に違和感を覚えつつ、ルーリは懸命にネクロを探し続けた。

「ネクロ!そこか!?」

その時、一番大きな瓦礫の下に人の腕のようなものが見えた。

「待ってろ、ネクロ。すぐに助けてやる」

ルーリは瓦礫を動かし、その下にいるネクロを救助…するはずだった。

「腕…だけだと?」

そこにあったのは、ネクロの腕だけ。爆発の衝撃で吹き飛んでしまったらしい。

「ネクロ…」

ルーリはすぐにネクロの腕に『シールド』を張った。身体の部分が見つかれば、シロマが治してくれるだろう。

これがルーリでなかったら、捜索を続けるのは困難だったかもしれない。それほどまでに凄惨な現場だった。

「ネクロ!頼む、出てきてくれ…」

ルーリはその後も一人で瓦礫を運び出し、ネクロを探し続けた。

そして、

「ネクロ………」

長い時間をかけて見つけ出したのは、見るも無惨なネクロの遺体だった。

『隠遁』のローブは消滅してしまったらしく、身体には瓦礫の破片が刺さっている。かろうじて残った顔でネクロだと分かるが、かなり損傷の激しい遺体だ。近くには、脚も転がっていた。

「ネクロ…すまない…」

ルーリは出来たら誰にも見せたくなかったが、シロマを呼ばないわけにもいかない。

《こちらルーリ。シロマ、第4に来てくれ。…覚悟して、来てくれ》

《こちらシロマ。畏まりました。すぐに参ります》

シロマは只事ではないと感じつつ、素早く『転移』した。

「…っ!!これは…ネクロ様…!?」

シロマの眼前には、変わり果てたネクロの姿があった。しかし、シロマは目を背けない。自分のやるべきことは分かっている。

「ダイヤモンドロックよ、我が願いを受け取り、この御方の身体を元の通りに治し給え!」

シロマの持つマジックアイテム『ダイヤモンドロック』の光に包まれるネクロ。

次第に、破片は取り除かれ、深い傷は塞がり、腕と脚も元通りになった。

しかし、心臓は止まったままだ。

それでもシロマは諦めない。

「息を引き取られたばかりならば、まだ出来ることがある…!禁術『超再生魔法』!!」

それは、自身の寿命を削り、死んだばかりの者に分け与える禁術だが、施す魔術師自身に相当な負担がかかる。

「シロマ…!!」

もう止めてくれ、とルーリは言えなかった。

彼女は自分の命を削ってでも、仲間を流転の國に呼び戻そうとしている。

「ネクロ様、戻ってきて下さい…!!」

シロマは力を振り絞って『超再生魔法』を発動しつづける。

…しかし、ネクロは目覚めない。

突如、音を立ててダイヤモンドロックが倒れると同時に、シロマもその場に倒れる。

「シロマ!!」

「申し訳ございません、ルーリ様。今の私にはここまでしか……」

そう言って気を失うシロマ。

「シロマ、すまない……」

ルーリの適性は雷系統。倒れたシロマを抱きかかえ、ネクロの遺体を前にして、自分の無力さを思い知らされた。

そこへ、

「いつまで経っても戻ってこないから来てみたけど、まさかこんなことになってるなんて…」

ミノリとクラヴィスが現れる。

「ミノリ…。シロマの『超再生魔法』が効かなかった…」

ルーリはそう言って俯く。

『超再生魔法』。

ミノリはその禁術の名を知っている。最上位の白魔術師にしか使えない蘇生魔術。発動する者の寿命を削り取る危険な魔術。

たった今、シロマが魔力の限りを尽くしてそれを発動したことに気付くミノリ。

「それでも……無理なの……?」

クラヴィスは何も言えず、不自由なミノリの身体を支えている。

「……分かった。ミノリに考えがあるわ」

ミノリはアイテムボックスから魔術書を取り出すと、ネクロの前に立つ。

「『永久凍結』発動せよ。この者の時間を止め、全てを氷に包み給え」

氷系統魔術である『永久凍結』が発動すると、ネクロは強固な氷に包まれた。文字通り、ネクロの身体の時間は止まった。

「今は無理でも、マヤリィ様ならばさらに上位の蘇生魔術を使役出来るかもしれない。その可能性を信じて、ネクロにはしばらくこの状態でいてもらうわ」

シロマの回復魔法によって怪我が治り手足が繋がったネクロ。後は心臓が動きさえすれば良いのだが。

「すまない、ミノリ。お前も身体がつらいだろうに…」

「大丈夫よ。…それより、シロマは?」

「まだ気を失っている。…最上位の禁術を使わせてしまったからな……」

ルーリはそう言うと、

「クラヴィス。お前の部屋で、シロマが目覚めるまで傍にいてやってくれないか?…頼む」

悲痛な面持ちで頭を下げる。

「畏まりました、ルーリ様。…シロマの意識が戻り次第、連絡させて頂きます」

クラヴィスはシロマを抱き上げると、一礼して『転移』した。


「ルーリ、これからどうするの…?」

ミノリの魔力はまだ十分に残っている。

身体が思うように動かないことを除けば、魔術を発動することは可能だ。

ルーリはしばらく黙っていたが、

「やはり、これをやらかした元凶をどうにかしなければな」

「それって…もしかしてクロネ!?」

「ああ。どうやらあいつは強くなりすぎたようだ…」

クロネをこれからどうすべきか。

自分が造り出してしまった化け物の対処に頭を悩ませるルーリだった。

第4会議室で突然起きた大爆発。

それは、待機を命じられ暇を持て余したクロネによるもので、ネクロの命を奪うほど威力がありました。

マヤリィが戻る可能性に賭けてネクロの時間を止めたミノリ。

自らが造り出したホムンクルスの暴走を止める方法を考えるルーリ。


『水晶球』が危険視していたクロネの存在。

今まさに流転の國は危機に陥っています。

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