第二十一話 二人の作戦会議
「クロネは第4会議室を壊せるほどの力を持っているんでしょう?どうやって大人しくさせると言うの?」
ミノリは言う。
「ネクロを死に追いやっただけじゃない。ミノリもクロネには勝てなかったわ。…ルーリなら、何とか出来る?」
「…いや。なかなか難しいな」
ルーリは腕を組み、険しい表情で首を振る。
「奴は見境なく黒魔術を発動する。だから、まずはマジックアイテムを取り上げて…。後は何が出来る…?」
ルーリにも分からない。
「これは私の責任だが、あいつに黒魔術の適性を与えたのが間違いだったな。…どうにかして魔術を使えないように出来れば、ただのホムンクルスになるんだが」
「…あっ」
『適性』と聞いたミノリはひとつの禁術の名を思い出す。
…そう、以前シャドーレが言っていた『能力強奪』魔術のことだ。
あの時は雷系統魔術の適性を持っているメイドに対して使うと聞いたから止めるつもりだったが、今こそ『能力強奪』を使うべき時かもしれない。クロネから黒魔術の適性を取り上げ、普通のホムンクルスにするのだ。
「…ルーリ。『能力強奪』魔術って使える?」
「『能力強奪』って…禁術だよな?」
ルーリはすぐにミノリの意図していることが分かった。
「確かに、それが成功すればクロネから魔術適性を取り上げることが出来るかもしれない。だが『能力強奪』はかなり危険な魔術だぞ?かける側にとっても、かけられる側にとってもな」
「ええ。危険なのは百も承知よ。だから、ミノリがやる。…実は色々あってシャドーレにこの禁術について調べるよう頼まれてたの。もう既に魔術書も見つけてあるわ」
そう言ってアイテムボックスから魔術書を取り出したミノリの右手をルーリは止めた。
「待て、ミノリ。私は許可してないぞ」
全身を毒に侵蝕され、左腕は全く動かない。そんなミノリに禁術を発動させることなんて出来ない。
「大丈夫よ。もしミノリが死んだとしても、クロネから適性を取り上げられれば成功と言えるでしょう?いつか帰還されるマヤリィ様の御為にも、流転の國を守らないといけないわ。…お願い。許して、ルーリ」
ミノリは死を覚悟で禁術を発動しようとしている。
しかし、ルーリは首を横に振った。
「駄目だ」
「っ…なんで!?」
「お前を失いたくない」
「そんなこと言ったって…!ミノリは放っておいたって死ぬかもしれないのよ!?それなら、せめて皆の役に立ちたいわ!」
その時、ルーリはミノリを抱きしめた。
「ルーリ…?」
「言っただろう。何としてでもお前の身体を元通りにしてみせると。…その前に死んでしまったら、どうにもならないじゃないか」
「ルーリ…」
見れば、碧く美しい瞳に涙の粒が光っている。
その粒は瞬く間にこぼれ落ちた。
「全てはクロネを造った私の責任だ。私はあいつの創造主として、その暴走を止めなければならない。これ以上、誰にも傷付いて欲しくないんだ。…頼む、ミノリ。お前は安全な場所にいてくれ」
マヤリィ様がいた頃のルーリだ…。
ミノリは思った。
いつも軽口を叩いてしょっちゅう揶揄ってくるが、実際は誰よりも仲間想いで、困っている時には必ず助けてくれる、流転の國で一番のお姉さん。それが本当のルーリだ。マヤリィから愛を受け取る以前も、彼女は優しかった。
ミノリはようやく思い出す。
自分も全てを覚えていたわけではなかったのだと気付く。
「ルーリ、ごめんなさい…」
「えっ…?」
「ううん、なんでもない」
ミノリはそう言うと、
「全部、貴女の言う通りにするわ。ミノリはシロマ達と一緒にいる。…これが例の禁術が載っている魔術書よ」
右手で魔術書を差し出す。
「…ありがとう、ミノリ」
ルーリは魔術書を受け取ると、すぐに読み始める。『宙色の魔力』さえあれば容易く発動出来たはずの禁術も、今となっては最高難度の魔術である。しかし、彼女の膨大な魔力量と流転の國No.2と言われた実力は伊達ではない。
「…ミノリ。もし私が死んだらシロマとクラヴィスを連れてすぐに流転の國を出るんだ」
突然ルーリが言う。
「そして桜色の都に助けを求め、保護してもらえ。最高権力者のいない流転の國は崩れ落ちる運命にあると水晶球が言っていた」
「そんな…!ルーリを置いて行くなんて出来ないわ!!」
魔術書を読むルーリを見守っていたミノリは泣きそうな顔で叫ぶ。
しかし、ルーリは優しい表情で、
「大丈夫だ。私はそう簡単にやられはしない。あくまで、万が一の場合の話だ」
そう言いながらミノリに『宝玉』を手渡した。
『宝玉』は一度しか使えないマジックアイテムだが、そこに刻まれた魔術は誰にでも使える。
「これは『長距離転移』の宝玉だ。これを持って、クラヴィスの部屋で待っていてくれ」
「万が一の場合はミノリ達だけで逃げろと言うの?」
「まぁ、意地悪な水晶球が発動させてくれないかもしれないがな。…保険だよ」
ルーリはそう言うと、ミノリの足元に魔法陣を展開した。
「これって『強制転移』…?」
「ああ。すぐに終わらせるから待ってろよ、ミノリ」
「ルーリ!!」
気付けばクラヴィスの部屋の前だった。
「ルーリ……」
ミノリは泣いた。ルーリに抱きしめられた時の温もりが残っている気がした。
「ルーリ、ごめんね。貴女は悪魔なんかじゃない。強く優しく美しい…女神のような人よ」
ルーリなら、絶対に皆を救ってくれる。
ミノリはそれを信じ、クラヴィスの部屋のドアを叩くのだった。
クロネを止める方法を考える二人。
そんな時、ミノリはシャドーレが言っていた『能力強奪』魔術のことを思い出します。
クロネから黒魔術の適性を取り上げれば、ただのホムンクルスになるはず…。
それを聞いたルーリは魔術書を受け取り、万が一の為の『宝玉』をミノリに持たせ、クロネを造った責任を取るべく禁術に挑むのでした。




