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流転の國 vol.7 〜幻と記憶が交差する宙色の物語〜  作者: 川口冬至夜


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第十九話 本当は優しい人

「ミノリ様、本当に大丈夫ですか…?」

「ええ。昨日ルーリが水晶球と話したことを何としてでも聞かなきゃ…」

あの後、毒の痕が首筋にまで広がったミノリは、身体を全て隠せる服を着て玉座の間に現れた。しかし、手袋まではしていないので紫色の左手が皆の目に留まる。

「ミノリ様、それはもしや…昨日の後遺症でございますか?」

クラヴィスが心配そうにミノリの傍まで来る。

「ええ。左腕は全く動かないし、服の下はもっとひどいことになってるわ。…でも、命に別状はないみたいだから安心して」

「はい…」

クラヴィスも昨日の実戦訓練の場にいたので、ミノリが『猛毒』を受けたことを見ている。

(あのホムンクルスは…尋常じゃない)

実戦訓練の決着をつけるだけなら、ミノリに対してあんなにも毒を連射する必要はなかった。それに、解毒方法も知らずに『猛毒』魔術を使っていたと後でシロマに聞いた。

(確かに強いが、人の心を持っていない…。ルーリ様は彼女の恐ろしさを分かっているのだろうか…?)

クラヴィスはクロネという存在に恐怖を感じていた。

「皆、集まっているか?」

今日は一番遅く現れたルーリ。

「ご主人様、クロネは…」

小声でネクロが訊ねる。

「今からするのはあいつがいては出来ない話だ。第4会議室に置いてきたから心配するな」

第4会議室は別名、結界部屋とも呼ばれ、その中で生半可な魔術を発動したとしても壊れることはない。本来は侵入者など危険人物を隔離するのに使う部屋である。

「では、昨日私が水晶球と話した内容について報告する。まず、水晶球というのは……」


皆が玉座の間にいる間、クロネは第4会議室で暇を持て余していた。

「なぜ私は玉座の間に呼ばれなかったのでしょ〜?」

独り言も言う。

「ご主人様は何やら厳しいお顔をなさっていらっしゃいました〜。もしや昨日のお話でしょうか〜?…でも、実戦訓練に勝ったのは私ですし、もっと褒めて下さってもいいのに〜」

クロネは部屋の中を歩き回りながら独り言を続けた。

「そういえば、この第4会議室は結界部屋とも呼ばれているそうですね〜。ネクロお姉様から聞いたことを覚えてますよ〜」

そして、あることを思い付いてしまう。

「ここが結界部屋ならば、私が訓練を始めても問題ないのでは?どんな魔術にも耐えうる部屋だと聞いていますし〜」

黒魔術師のマジックアイテムである『鉄壁の細杖』はいつもクロネの手元にある。

「ただ待っているのも時間の無駄ですし、これから自習を始めましょ〜!」

クロネは楽しそうにそう言うと、色々な魔術を発動してみるのだった。


「クロネの魔力を感じる…!第4だ!」

クロネが『自習』を始めた瞬間、ルーリが叫ぶ。

「あいつ…何のつもりだ!?」

「恐らく、暇を持て余して一人で訓練をしているのでございましょう。…ご主人様、少々席を外すことをお許し下され」

ネクロはそう言って第4会議室に『転移』した。

「だんだん手に負えなくなるな…。クロネの魔力は日に日に強さを増している」

ルーリはそう言ってから、

「…ミノリ。昨日の実戦訓練の際にあいつを止められなかったこと、申し訳なく思っている。本当にすまなかった」

ミノリの傍まで来て頭を下げた。

「ルーリ様…」

思いがけない彼女の言葉に戸惑うミノリ。

「お前の身体は私が何としてでも元通りにする。『宙色の魔力』は失ったが、出来ることは何でもするつもりだ」

そう言ってルーリは紫色になったミノリの手を取る。とても冷たく生気が感じられない。

「水晶球が言ったように、今までの私の行いはとても許されることではない。…どこで私は間違えたのだ?『マヤリィ』という存在を思い出せば、私は変われるのか…?」

「いいえ、貴女は間違えたんじゃないわ」

ルーリの手を握ったまま、ミノリが言う。

「水晶球に『宙色の耳飾り』を押し付けられ、記憶を封印され、間違った方向へ誘導されただけなのよ」

「ミノリ…」

「ミノリはマヤリィ様のことを覚えている。流転の國の前女王を務めていたマヤリィ様のことを全て覚えている。…水晶球が記憶を返してくれないと言うのなら、ミノリが全て話すわ」


「…お前の話によれば、私は…『マヤリィ様』に愛されていた…と言うのか!?」

「ええ。マヤリィ様は慈悲深く優しい御方よ。誰もが穏やかに健やかに過ごせる流転の國を目指されていたの。…ちゃんと記憶が戻ったら、実感として分かると思うわ」

「誰もが穏やかに健やかに過ごせる國……」

自分が支配する流転の國とはあまりにかけ離れていることにルーリはショックを受けた。

「貴女は確かに悪魔種だけど、マヤリィ様がいらした頃はもっと優しかった」

「もっと、って…。今の私には優しさの欠片もないと思うが?」

「ううん。ルーリはミノリの為に白魔術を発動してくれた。水晶球相手に怒ってくれた。女王になってからのルーリは怖いと思っていたけど、やっぱり本当は優しい人なのよ」

ミノリの言葉を聞いて困惑するルーリ。

「今はまだマヤリィ様のことは想像しか出来ないかもしれないけど、必ず水晶球から記憶を取り戻しましょう。そして、皆でマヤリィ様を見つけるのよ」

一番つらいのは自分だが、ミノリはそう言って皆を元気付けようとする。

「…昨日の話だと、水晶球でさえも…『マヤリィ様』の居場所は分からないようですね」

シロマも記憶が戻っていないが、懸命に『マヤリィ様』のことを思い出そうとしている。

「そうだ、桜色の都…!マヤリィ様は今も桜色の都にいらっしゃるんですよね!?」

クラヴィスは期待を込めて訊ねるが、

「シャドーレの話では、もう何日も前に失踪してしまわれたそうよ」

「ちょっと待て。シャドーレの話、とはどういうことだ?」

ミノリの話を聞いたルーリは怪訝な顔をする。

「まさか、シャドーレと内密に連絡を取っていたと言うのか…!?」

一気に怖い支配者の顔に戻るルーリ。

「お、落ち着いて下さいませ、ルーリ様。もしミノリ様が都と連絡を取れるなら、私達も『マヤリィ様』を探すことが出来るかもしれません…!」

「確かに、そうだな」

シロマの言葉を聞いて、あっさり落ち着くルーリ。

「しかし、いつから連絡を取っていたんだ?手紙?ではないとすれば…『長距離念話』か?」

「…そうよ。ジェイがマジックアイテムを作って、それをシャドーレの使い魔が運んできたの」

ミノリは白状する。

「では、ジェイ様はご無事なのですね?」

「ええ。マヤリィ様も目を覚まされたみたいだけど、それからすぐに行方不明になってしまったそうなの」

もう全てバレてしまったので、ミノリはシャドーレから聞いたことを皆に話した。

「…成程。だから水晶球の奴も『マヤリィ様』を探すのに手こずっているというわけか」

ルーリは心なしか楽しそうに言う。

「それなら尚更、私達が先に見つけたいものだな」

「はい。私もそう思います」

クラヴィスが同意する。もし桜色の都に行けたら、国王陛下にもお会い出来るかもしれないし…。

「ですが、ルーリ様。水晶球は私達が流転の國から出られないようにしたと話していたのですよね?」

シロマが訊ねる。

「ああ。私も探しに行くと言ったんだが、流転の國を出るなと言っていた。…が、素直に従うわけにはいかないな」

ルーリはそう言うとミノリに訊ねる。

「ミノリ。今もシャドーレと連絡は取れるか?桜色の都の現在の状況について聞きたい」

本気でマヤリィを探そうとしているのだろう。ルーリはもはや敵ではない。ミノリは安心して頷く。

「ミノリの部屋にマジックアイテムがあるわ。それを使えば『長距離念話』を発動出来る。…ルーリ、一緒に来てくれる?」

今のミノリは歩くのもつらそうだ。

「分かった。お前の部屋まで一緒に行こう」

ルーリはミノリを優しく抱き上げると、そのまま『転移』した。


「…ところで、クラヴィス。貴方、ミノリ様のことを知っていたのではありませんか?」

玉座の間に残されたシロマはクラヴィスにそう言った。

「いくらシャドーレ様の使い魔とはいえ、ネクロ様の魔力探知をすり抜けて流転の國に到達するのは至難の業だったはずです」

「そ、そうですね…」

いつの頃からか、クラヴィスが桜色の都の国王陛下の話をすることが多くなった気がした。

それと同じ頃、ミノリ様の書庫の滞在時間が明らかに長くなったのを感じた。

何かが起きていると思った。しかし、それが何なのかは今の今まで判明しなかった。

「実は、シャドーレ様の使い魔をミノリ様の元へ連れて行ったのは私です。ルーリ様に気付かれないうちにと思って、書庫に行ったのです」

クラヴィスも白状した。

「私は桜色の都の国王陛下のことが心配なのです。だから、都にいるシャドーレ様と連絡の取れるミノリ様に協力していれば、いつか再び陛下にお会い出来るかもしれないと思っていたのですが…。ごめんなさい、シロマ。貴女に話さずにいたことを許して下さい」

そんなクラヴィスを咎めることもなく、シロマは優しい声で言う。

「ルーリ様に報告すれば使い魔ごと消されてしまっていたかもしれませんものね。…私は貴方のしたことが間違っていたとは思いませんよ、クラヴィス」

「シロマ…!」

「ただ、一歩間違えれば報告を怠ったとしてルーリ様から罰せられていた可能性もあります。…クラヴィス、あまり無茶なことはしないで下さいね。貴方は私の大切な人なのですから」

「はい…!」

クラヴィスは本当に久しぶりにシロマの優しげな微笑みを見た気がした。

「約束します、シロマ。貴女に心配をかけるようなことはしません」

そう言ってシロマを抱き寄せるクラヴィス。

最上位白魔術師と魔力ゼロの凄腕スナイパー。

二人は恋人のような相棒のような戦友のような間柄である。

そこへ、

「戻ったぞ」

ルーリがミノリを連れて『転移』してきた。

すると、二人は反射的に距離を取る。…そんな必要ないのに。

「準備出来たわ、ルーリ」

「ああ」

ミノリがワイヤレスイヤホン型のマジックアイテムを装着したのを確認すると、

「これで桜色の都のシャドーレに『長距離念話』を送れるのだな。…ミノリ、こちらの事情を簡単に話した後、私に代わってもらえるか?」

身体がつらそうなミノリを支えながらルーリが言う。

「分かった。すぐに話せるようにするわ」

そして『長距離念話』は繋がった。

『マヤリィ様』について話し始めてから、ミノリはルーリに対して様も付けず敬語も使っていませんが、ルーリは特に気にしていない様子。

今までルーリの顔色を窺ってびくびくしていたシロマも、クラヴィスと普通に話しています。

皆の記憶は戻っていませんが、マヤリィがいた頃の流転の國を彷彿とさせる場面があちこちで見られるようになりました。

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