第十八話 宙色の事実
「ルーリよ、そなたが『宙色の耳飾り』を得た経緯については覚えているな?」
「ああ。前女王が流転の國から見限られ、その結果、当時No.2と呼ばれていた私の元に耳飾りが現れた。その瞬間、私や配下達の記憶が書き換えられたらしいな」
ここは水晶球の間。
ルーリは淡い光を放ちながら言葉を発する水晶球と話をしていた。
「ほう。記憶が操作された自覚はあるのか」
「私は実際に前女王をこの目で見た。しかし、何も思い出せなかった。…それはあまりに不自然じゃないか?『宙色の魔力』を取り上げられたとはいえ、元は流転の國を治めていた人物だ。なぜ、彼女に関する記憶がなくなったのか、後で散々考えたが分からなかった」
前女王に関する記憶が全くないのはなぜか、ルーリは人知れず不思議に思っていたのだ。
「今となっては話を聞くべきだったと思っている。…ジェイやシャドーレにもな」
ルーリは言う。水晶球が目の前にいることもあり、自分が流転の國の女王になってから今に至るまでの謎が次々と表面化する。
「教えてくれ。なぜ、私には前女王に関する記憶がないのだ?私だけではない。他の配下達も同じだ。皆の記憶を操作する必要がどこにあった?」
「それは、一刻も早くそなたに女王の座を与える為だ、ルーリ」
「なぜ、急ぐ必要があった?」
「全ては流転の國の為。『宙色の魔力』を持つ者はこの國にとって必要不可欠なのだ」
水晶球は話し続ける。
「しかし、どうやらそなたは『宙色の耳飾り』を持つに相応しくない者だったようだ」
「それは…耳飾りを投げ捨てたからか?」
「それもあるが、そなたは女王になってから悪行を限りを尽くしている。マヤリィならば決してそんなことはしなかった」
「マヤリィ…?」
名前を聞いても、ルーリは思い出せない。
「そなたはネクロマンサーの実験を容認し、流転の國に存在する数多くの人間を殺した」
ネクロの実験体となった人間種のメイドや使用人のことだ。
「そればかりでなく、強力な魔術適性を持ち、そなたに絶対の忠誠を誓った人造人間を造り出した。…クロネのような者が増えれば、世界がどうなってしまうか考えたことはあるか?」
「…増やそうとまでは思っていないのだがな」
「そなたがどういうつもりでそのようなことをしたかは分からない。しかし、私は耳飾りを通してそなたの所業を見て、危険視していた」
水晶球は告げる。
「このままそなたに『宙色の耳飾り』を持たせておいて良いものかどうか、見極める必要があったのだ」
「…で、私は相応しくない者だと判定されたわけだな?」
水晶球が口にした、今までに自分がやってきた数々の所業。それは『宙色の耳飾り』の持ち主として相応しくない者の行動だったのだとルーリは理解する。
「しかし、私は人間ではなく悪魔。それも、天性の殺戮者と言われる死神のような女だ。たとえかつてのNo.2だとしても、こんな奴に『宙色の耳飾り』を託したお前が元凶のような気もするが、それに対して責任は感じていないのか?」
「…反省はしている」
「意外と素直な奴だな」
ルーリは感心するが、まだ一番大切なことを聞いていない。
「先ほど私は『宙色の魔力』を用いてミノリに回復魔法を施したが、途中から効果が感じられなくなった。…それは、既に私から魔力を取り上げていたからなのか?私にミノリを見殺しにしろと言うのか?」
「確かにあの時、そなたから魔力を取り上げた。しかし、ミノリの命は助かる。少々不自由になるかもしれないが、魔術は問題なく使えるだろう」
「何だと!?」
「そう噛み付くな。とにかく私から言えることはこれだけだ。今のお前は『宙色の魔力』を持っていないし、二度と使うことは出来ない」
水晶球は冷たい声でそう告げる。
そんな水晶球を睨むルーリ。
「…先ほどお前は耳飾りの最初の持ち主である『マヤリィ』を探していると言ったな?そして、その者がどこにいるのか分からないとも言っていた」
「そ、それは…」
「どうやら本気で見つけられないらしいな。…もうこの世にはいないのではないか?」
「そんなはずはない!」
水晶球は初めて声を荒げる。
「マヤリィが死ねばその魂は流転の國に戻ってくるはずだ!…しかし、ミノリの言う通り桜色の都まで探しても、マヤリィの居場所は掴めない。これがどういうことなのかは私にも分からないのだ…」
「ふーん…。お前も大変だな」
「私に同情している場合か!このまま最高権力者の座が空白になれば、いずれ流転の國は崩れ、そなた達もろとも灰燼に帰す」
「あ、そう」
狼狽える水晶球とは逆にルーリは淡白だった。
「それならそれでいいんじゃないか?この流転の國自体、元々この世界にあったものではないんだろう?」
「そなた…本当に女王に向いていないな」
「それって褒め言葉だよな?」
「くっ……私をここまで馬鹿にするなど、悪魔の分際で烏滸がましい」
水晶球はそう言って目も眩むような光を放つが、
「雷系統魔術を扱う私にそんなものが通用すると思うか?」
逆に、水晶球に向かって雷を落とすルーリ。
「…とりあえず、お前が前女王の行方を知らないということと、今の私は『宙色の魔力』を使えないことは分かった。…で、これからどうすればいい?」
「仕方ない。『宙色の耳飾り』は剥奪するが、マヤリィが見つかるまで、引き続きそなたが最高権力者として配下達を導け」
ルーリが躊躇なく自分に向けて『迅雷』を落としたことに呆れつつ、無傷で水晶球は命じた。
「…分かったよ。それで?私達も『マヤリィ』を探した方がいいのか?」
「いや、そなた達が桜色の都に行く必要はない」
「じゃあ、せめて記憶を戻してくれ」
「…考えておく」
「お前、性格悪いな」
「そなたに言われたかないわ!」
その言葉を最後に淡い光は消え、物言わぬ水晶球に戻った。なかなか面倒な奴だな、とルーリは思った。
「結局、記憶は戻らず、ミノリの身体も完治せず、か…。この役立たず」
ルーリは黙り込んだ水晶球に拳骨を食らわせると、ミノリとシロマが待つ部屋へと戻るのだった。
水晶球に対しても上から目線な物言いをするルーリ。
それに対してどんどんムキになる水晶球。
しまいには目眩しと雷落とし。
お前ら、結構仲良しだな。
今回ルーリが水晶球に確かめたこと
・前女王に関する記憶は操作され封印された状態にある→すぐには戻してくれないらしい
・再びマヤリィに耳飾りを授けようとしている→しかしマヤリィは見つからない。ルーリ達が都に行くことも出来ない
・『宙色の耳飾り』は剥奪するが、マヤリィを発見するまで引き続き流転の國の最高権力者はルーリが務める
・『猛毒』によって大ダメージを負ったミノリの身体は完全には治らないとのこと
→それを知ったルーリはガチギレ。やはりミノリのことも大切に思っているらしい
この後、水晶球から聞き出した話の全てを皆に伝えようと思うルーリです。
ルーリの拳骨を食らった水晶球が割れてないか心配…。




