75 オロギラス 三匹目5
マントを着て身体を隠すとテントから出た。
私以外の三人は既に出発の準備が出来ており馬に荷物を積み込んでいる。最後にテントを片付け私は目隠しをされた。
「毎回こんな風に移動していたのか」
アーネストが不満気な声をあげる。でも馬車なら安心だが馬では油断すれば道中に蛇を見てしまう危険があるから仕方がない。
いつものように馬に乗ると急に後ろに誰かが乗り込んできた。
「ア、アーネストなの?」
「目隠しで騎乗させるわけにはいかない。危険だ」
「平気よ、いつもやってたもの」
「駄目だ、長距離ならともかく近いのだから馬の負担も少ない、このまま行くぞ」
アーネストは強引に出発すると水蛇の棲家へ向かったようだ。
崖下へ直接は行けないため、一旦崖の上に行く。
「リアーナはここで待っているんだ、ゴドウィン、頼んだぞ」
アーネストがエミリオだけを連れて崖下へ行こうとする。
「駄目よ、私も一緒に行かなきゃ。水蛇がいるなら戦いが始まるでしょ?もしそこで倒すなら現場にいないと呪いが解けないの」
「呪いか……チッ、魔石を取るだけでは駄目なのだったな」
私を危険な目に合わせたくないと考えてくれたようだがそうもいかない。
「仕方ない、全員で行くか」
そう言うと急に氷の魔術を使った感じがしたので目隠しを取ると、氷で崖下へ向けてスロープを作ったのが見えた。
「先に行くぞ」
自分が作ったスロープへ乗るとシューッと立ったまま滑り降りていく。
「おぉ!なんか面白そうですね」
ゴドウィンまで楽しそうにそこへ乗るとシューッと勢いよく滑り降りていく。
「姫様、どうぞ」
エミリオが次を譲ってくれたが座るように強く言われ、仕方なくしゃがむと後ろから押された。
「うわぁ〜!」
思ってたよりも勢い良く滑り落ちていき声を上げてしまう。
「わぁ〜止まらない!!」
先に降りた二人が驚いた顔で振り返り滑ってきた私をアーネストが抱き止めてくれた。
「ハハッ、大丈夫かリアーナ」
そのまま子供のように抱き上げられそっと地面に足を降ろされた。
「あ、ありがとう」
「昔からバランス感覚は良くなかったからな」
騎士として優秀な二人に比べたら誰だってそうだよ。
「私は普通よ、訓練すればちゃんと出来る」
恥ずかしさも相まってアーネストから逃れようと掴まれていた腕を振りほどこうとしてグラッとふらついた。
「リアーナ!」
また抱き止められたが足に力が入らず座り込んでしまう。
「だ、大丈夫よ。これくらい」
アーネストに捕まったまま何とか立ち上がり笑顔を作ってみせた。
「急ぎましょう」
ゴドウィンが真剣な顔で言うと、後ろから立ったまま滑り降りてきたエミリオに目で何か伝え歩き出した。
アーネストにも命の危険があることは伝えていたが私が弱っているところを目の当たりにして動揺しているようだった。
「リアーナ、本当に君は……」
「大丈夫、大丈夫よ。さぁ行きましょう」
出来るだけ明るく振る舞い平気なふりをして進みだしたが、目を覚ましてからずっと頭の奥がズキズキと痛む。テントを出る前にポーションを飲んだが痛みをひかせる為でなく、痛みによる体力が落ちていくのを回復させるためだ。もう長時間動き回るのは無理かもしれない。しかも今回は一度大猿に変身したが失敗してしまい更に体力を消耗してしまっている。
崖下の湖畔沿いの水際を縦に並んで歩いていくと直ぐにエミリオが言っていた洞窟らしきものが見えてきた。
「ここね、なるほど」
湖から這い上がったようにベッタリと血痕が洞窟の中へ続いている。中は数メートル先から水中へ沈み奥へは進めない。
「居そうですか?」
ゴドウィンが洞窟を覗き込み腰の剣に手を添えながら聞いてくる。
「いるねぇ」
ザワザワとした気持ちの悪い気配が先程からしていたが洞窟を覗くとそれは一層強まった。
「どうするの?潜れないよ」
水蛇がいるところまでそう距離は無いだろうが水中がどういう状態かわからないのに突っ込むわけにはいかない。
アーネストの顔を見るとニヤリとして皆を下がらせた。
「こちらから行けないのなら向こうから出てこさせればいい」
そう言うとじわりと魔力を使い洞窟内の水を凍らせ始めた。
「待って、ただ殺せば良いわけじゃないわ。魔石を取らなきゃ……」
このまま閉じ込め凍らせてしまうのかと焦って彼を止めようとして、逆にエミリオに止められた。
「大丈夫です、姫様。アーネスト様は閉じ込めるのではなく、危機感を与えこちらへ出て来なければいけない状況をつくりあげているだけです」
エミリオが指差した場所を見ると、アーネストは水を全部凍らすのではなく三分の一程を凍らせ、どうやらそれを奥まで浸透させていっているようだ。
水蛇にすれば急に出口の水が氷始め、閉じ込められかもと恐怖するかもしれない。
少しすると地面にズシリと重い物体が引きずられるような振動が響いた気がした。
「皆下がれ!来るぞ!」
アーネストの声と共にゴドウィンが私の腕を掴んで洞窟の外へ連れ出した。後の二人も続いて出てくるとすかさず水蛇が物凄い勢いで洞窟から飛び出してきた。
「逃がすか!!」
アーネストは叫ぶと水蛇が逃げ込んだ湖の一部をあっという間に凍らせたのを見たが直ぐに意識が無くなった。
「じゃあ私が取りますよ!」
ご機嫌なゴドウィンの叫ぶ声がして目を覚ました。デコボコとした湖畔の岩場に倒れていたせいか体が痛い。
起き上がって声がした方を見ると、ゴドウィンが凍った湖から血まみれの首だけ出している水蛇の死体から魔石をほじくり出しているところだった。
「今回は出番無しでしたね、姫様」
取り出した魔石をポイッと投げた先にエミリオがいて、受け取るとキレイに血を拭き取り小さな籠に入れた。
「三つ目ですね、もう少しですよ、姫様」
二つ目を取ったときは意識が朦朧としていたため実感無かったが着実にオロギラスの魔石が手に入っている事が嬉しかった。
エミリオが見せてくれている籠をツンツンと突いているとゴドウィンが牙を二本抱えて近寄ってきた。
「前回のは見てもらえませんでしたからね。デカイでしょう?」
思い出してみれば風蛇の時はバタバタしてたから大変だったな。
「今回はアーネスト様がいたからかなり楽でした。やっぱりオロギラスを相手にするにはもう一人ぐらいは必要でしたね」
エミリオがそう言った瞬間、彼の存在を忘れていた事を思い出した。
身体をビクつかせ立ち上がると逃げ出そうとする。
こんな姿、見られたくない!!
「お待ち下さい、姫様!大丈夫です、アーネスト様はホラあの通り」
エミリオが指差した方向を見るとポツンと離れた所にアーネストがこちらに背を向け岩に腰掛けていた。
「姫様が目を覚ましそうになったときご自分から離れて行かれました。姫様が嫌がるだろうと仰って」
そうなんだ……私の為に。
彼の背中を見つめながらジ〜ンとしているとゴドウィン声がすぐ後ろで聞こえた。
「こっちもその方が都合がいいんでね」
ガツンと頭を殴られそのままバタリと倒れた。
コレのせいで頭痛がおさまらないんじゃないでしょうね……




