出発
「うまっ……
しかしこの宿の飯はうまかったなぁ〜
ってかお前全然食べてないじゃん」
遠くを見つめている男に、賑やかな男が話し掛けるが、返答は無い。
この静かな男、名前を“ファバル”と言う。
幼なじみの“ティオ”と、宛のない旅をしていた。
鼻筋の通った、整った顔立ちに、少し赤みを帯びた長髪の風貌をしている。
黒いロングコートは、もう幾年も身に纏っているであろう、彼の体に馴染んでいた。
傍らには立派な剣もある。
「おい、聞いてんのか?
ファバル!
あ、あの〜
それもらってもいい?」
「……勝手に食え…」
このティオと言う男、ファバルとは性格が正反対で、とても気の合いそうにない。
しかし、ティオを根っから嫌っているわけでもなさそうないファバルは、同年代とは見えず、少し大人びていた。
この宿に三日前から滞在している二人は、これから出発する予定である。
海沿いに建てられたこの宿では、宿泊する客に海の幸を持て成す。
周囲では評判の宿であった。
ここの景色、料理が気に入ったティオは、旅立ちを拒んでいた。
「なぁ〜
ファバル〜
もう一泊していこうぜ〜」
すでに平らげた料理は宿の者が片付け、綺麗になったテーブルに身をもたれながら話し掛ける。
「お前な、ガキじゃあるまいし…
それに、自分の財布見てみろ?
それでももう一泊するか?」
「確かにそうだけど〜
お前は?お金残ってないの?」
「呆れたヤツだ……」
そう言うと、席を立ち背を向けるファバルを見て、ティオも渋々重い腰を上げた。
「ティオ、次の街はなんて名前だ?」
宿の外にあるベンチに腰掛けた。
「確か…
“トーマ”?
“トーム”?
忘れた…」
頭を掻きながら舌を出す。
「……。
もういい。地図かせ。」
そういうと、地図を広げたファバルが立ち上がった。
「北に進んで行くんだから…
こっちだな…
名前は“トーモ”…
分かったか?ティオ。」
俯きながらコクリと頷いた。
「よし……出発。」
どれくらい歩いただろうか。
晴れ渡った昼時に出た景色は、綺麗な夕日に照らされていた。
「ファバル……
あとどのくらいで着くんだ?
腹へったよ…
この草食えるかな…」
道端の雑草を見てティオが呟く。
「街に着いたところで、このままだと飯も食べられないぞ?」
ファバルがティオに言うと、ティオは肩をガクッと落とす。
「とりあえず、金がないとなぁ…」
呟いたティオは、突然立ち止まった。
「あれ…
街じゃないか?」
前方を指差して言う。
「おぉ〜!!」
そう叫ぶティオは、
真っ先に走り出した。
「お、おい!
ちょっと待て…」
ファバルが落い着いた頃には、ティオの姿が見当たらない。
「ん……
どこ行ったんだ…?」
気付けば、街の様子がおかしい…
“神闘軍”
と書かれた軍旗が、辺り一面に揺られていた。
「まさか…
この街…
ティオが危ない…!!」
腰に下げた剣に手をやると、歩を進めて行った。




