第14話 よしなし 風通し良し/成し得ぬ再会(後編)
「おっと…これは…まずいかも」
気付いた時には、
視界全体が真っ赤に染まっていて…。
次の瞬間、あの赤いシルバーモアとは
かなり距離が離れていた。
「あれりゃ?」
困惑していると…
「大丈夫でしたか?ギリギリでしたね…」
「マスターが助けてくれた…って感じかな?」
「ええ、まあ。れてさんは下がっておいた方が良いかと。通常のシルバーモアとは桁違いの攻撃力です」
そう言って、
さっきまで自分がいたところを見てみた。
!?
「普通のシルバーモアがどれだけ強いかは知らないけど、石って嘴で貫けるものなの?」
「…」
視線の先では、シルバーモアが、
嘴を洞窟の床に突き刺していた。
うーん、流石に命の危機を感じるなあ…。
痛みとか感じる間もなさそうで、
恐ろしいったらありゃしないね。
「れてさん、大丈夫っすか!?」
ロイド達が、シルバーモアに警戒しながら
こちらに後退してきた。
「あんなシルバーモア見たことないです…」
「すげえ強いのもあるんすけど、それ以上に気持ち悪いっす…。」
「攻撃に…腸を…」
「チョウ…?」
よく見れば、シルバーモアのお腹から、
腸がいくつもだらんと垂れていて、
それだけかと思えば、急にウネウネ動き出したり…。
今更だけど、僕の目の前に広がってたのってアレ?
うーん…気持ち悪いのはそうだけど、
それ以上になんとも言えない気持ちになるなあ…。
「加えて、歩き方も奇妙です。通常の個体は胴と脚を先に出し、頭がついてくるような形で歩きますが、あの頭の動きは胴に引っ張られているだけのような…」
「まあ確かに、普通じゃない歩き方をしているっていうのはわかるかも…」
「何はともあれ、厳重に警戒して対処しましょう。私とルーイさんが前に出ます。レヴェンさんは後方支援を、ロイドさんはれてさんを守っていてください。幸い、移動自体は鈍いので、落ち着いて行動していきましょう」
「「「はい!」」」
「本」は発動までに超長時間かかるし、
ゆっくりと眺めていようかな。
「では、参りましょうか…!」
念の為、直ぐに攻撃を回避できるように
接近しましょうか。
あの攻撃、当たりどころが悪ければ、
即死は免れない。
気を付けなければ…。
「!!…なるほど…」
嘴の攻撃がやはり恐ろしく速い。
加えて、垂れている腸を触手のようにして
捕えようともしてくる。
ただし、触手の動きは遅い上、
本来シルバーモアが扱う風系統魔術も、
その予備動作すらも確認できない…。
基本的には嘴の攻撃のみに注意するだけでよさそうですね。
勿論、油断は禁物ですが…。
「マスターさん…大丈夫ですか?」
おっと、どうやらルーイさんに
心配をかけてしまったようですね…。
「ええ、問題ありません。ルーイさん、あなたは後ろに下がっていただいても問題ありません。あの嘴の攻撃は盾で防げるか怪しいですし、盾で防ぐような攻撃を繰り出す様子も見られません。」
「は、はい…」
「では、念の為、れてさんの前で盾を構えて待機していてください」
「わ、わかりました」
「レヴェンさん、どのような魔術が行使できますか?」
「え、えっと…か、風系統と土系統の魔術が使えます…」
「では、アースバインドは?」
「か、可能です…。で、ですが、恐らく脚を数秒止められる程度だと思います…」
「十分です。私が合図を出したら、アースバインドを発動してください」
「わ、わかりました!」
先程も、再度攻撃をするまでに
少々時間がかかっていましたし、
その隙に脚も拘束してしまえば、
斬り伏せるには十分な時間が稼げます。
さて、もう一度奴の攻撃を誘発させましょうか。
いや〜マスターかっこいいねぇ…。
元ベテランの冒険者で、
THE・イケオジって感じ。
そういえば、何となく聞き逃していたけど、
この世界では魔術はそういう扱いなんだなあ。
「アースバインド」なんて、
かっこいい名前にしちゃって。
まあけど、この世界の科学技術は
そんなに発展していないだろうし、
正しく「魔素」も魔術も
その仕組みは理解されてないか…。
やっぱり、この世界での常識をもう1回
ちゃんと確認するべきかも。
そんなことを考えていると…
「レヴェンさん!」
「!…は、はい!」
「おぉ…いよいよクライマックスかな?」
「自分もちょっと参加したかったっす…」
「今から行っとく?」
「も、もう遅いっすよ…」
ロイドと言葉を交わし、視線を戻すと、
マスターが剣を振った直後だった。
次の瞬間、件のシルバーモアはバラバラになっていた。
「いやはや、マスターお疲れ様!勿論3人も!」
「いえいえ。それにまだ完全に討伐できたとは言えません…。腸がまだ、動いています」
「うわ!気持ち悪っ!」
そう叫ぶロイドを横目に見ながら、
マスターはまだミミズのように動く腸を次々と斬っていた。
うーん…シュール。
「まあこのくらいで良いでしょう…。できる限り切り伏せましたので、もう動くことはないと思います」
「うーん、これで安心して寝れるね〜」
「は、はい…。ようやく…」
そうレヴェンが言うと、
緊張が緩んだ3人は膝をついた。
まああんなに変な奴だったし、しょうがないか…。
それより、お腹空いたなあ。
「あっそうだ、皆は夜ご飯どうする?あそこにまだ食べられそうなシルバーモアあるけど」
「「「「遠慮しておきます…」」」」
結局、昨日の夜はあまり美味しくない保存食を
少し食べただけだし、
洞床がゴツゴツして全然眠れなかったし、
風通しが良すぎてめっちゃ寒かったけど、
まあ楽しかったからヨシ!
「さて、今日も今日とて雪山登りダァ!」
「あ、朝から元気ですね…」
「うーん、疲れは全然取れてないけど、こうでもしないと多分途中で倒れちゃうからさ〜。それに、楽しめる時に楽しんどかないと損だよ!」
「な、なるほど…」
「うーん…」
「んー…」
早起きだったレヴェンと会話していると、
ロイドとルーイも目を覚ました。
「マスターは一番に起きて、周囲の偵察に行ってるから、マスターが帰ってきたら出発だよ〜」
2人は眠そうに頷き、準備を始めた。
さて、今日こそシノと会えたらいいな〜。
何でか、居ない気はするけどね。
「やっぱりか〜。シノは居ない気がするなあ…」
「これは…」
「「「…」」」
昨日のように数時間かけて雪山を登り、
遂にシノの小屋であっただろう場所に着いたが、
そこには建物の残骸と、
魔獣の大量の死骸が放置されていた。
多分矢が刺さったままだったり、
何かに刺された後があったり…
まあシノがやったんだろうなあって感じだね。
「酷い有様だねぇ、ホント。というかこれだけの数を一人で葬ったなら、Aランクってのも納得かも。Aランクがどれだけ強いかわからないけどさ」
「Aランク…それ以上では…?」
「他のAランクにも会ってみないとそこんとこもわからないなあ…。って、これ…。」
「どうしましたか?」
「シノの毛かもね。ここら辺の生き物って皆体毛が白いんでしょ?きっとシノに違いない、もふもふな感じもするし」
「な、なるほど…」
「よくわからないすけど、そこらへんのれてさんの感覚は良さそうなんで、大丈夫なんじゃないすか?」
「ロ、ロイドも適当だなあ…。けど、まあ…れてさんが一番シノと仲が良いでしょうし…」
そう言うレヴェンに、
ルーイも相槌を打つ。
「よくわかんないけど、シノはこっちに行った気がする!まあ気配とかじゃなくて、魔獣の死骸がずらっとこっちに連なってるからだけど…」
「おや、こちらの方向は…」
「「「避難先の街!?」」」
「あ〜そっか、そういえば避難するって言ってたもんね」
「魔獣もあちらに向かっている可能性もあります!急ぎましょう!」
そんなこんなで、シノとは出会えず、
まだまだ続く魔獣の痕跡を追い、
避難先の街に向かうことになったのだった…。
ここまでご愛読ありがとうございました!
また来週、お楽しみに!




