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yellow statice -変わらぬ心-  作者: 三枝京湖
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クローディア編

テーブルの上に置かれた一通の手紙を見て、クローディアは盛大なため息をついた。

幸せが逃げるなどとも言われているが、もう無くなってしまっても良いかもしれないとすら思っている。

そう、自分の本当の幸せは望んで手が届くような物では無いからだ。


クローディアをここまで落ち込ませる要因になった手紙は、両親からの催促状だった。


クローディアは来年で18歳、この国で18歳と言えば立派な成人だ。

大体の貴族令嬢は18で社交界デビューする。

その時には、結婚しているか、婚約者を持っているのが普通。


しかし、クローディアはこの歳で婚約者すら無かった。

縁談がまったく無かった訳ではない。

彼女にはどうしても忘れられない人が居たのだ。


それは5年前に遡る。


まだ12歳だったクローディアは、実家の領地で穏やかに暮らしていた。

クローディアの家は男爵家だが、父親が経営手腕に長けており多くの商売を成功させていた。


その日も、家族から商談相手の伯爵様が来るとは聞いていた。

だが、その伯爵を見てクローディアは固まってしまったのだ。


若いながら、精悍な顔に威厳をまとわせたその雰囲気は、見る者を圧倒するものがあった。

クローディアは驚愕の表情を隠す事も出来ずただ、動けなくなっていた。

しかし一瞬だけ目のあった伯爵は、ぎこちない表情ではあったものの、確かにクローディアに微笑んだのだ。


その時の衝撃をクローディアは今も忘れられずに居る。

胸を指すような痛みも、早鐘を打つ鼓動も忘れたことは無い。


その後も何度か伯爵は男爵家の領地を訪れた。

そのたび心躍らせたクローディアだが、同時に落胆も感じていた。

男爵令嬢の自分では、伯爵である彼の目に留まるはずも無い。

ましてや、こんな子供の自分では……

当時の彼は22歳、クローディアとは10も歳が離れていた。


良い人が居ないのならば、領地に戻って見合いするようにと書かれた手紙を、二つに折りたたみ。

まるで見たくないとばかりに、机の引き出しに終い込んだ。



翌日、クローディアは学園の庭にある東屋で3人の女生徒とお茶をしていた。

白薔薇の蕾の会。

子爵令嬢で情報通のマリリアが、花言葉からつけた名前だ。


「お見合いか……、私も度々打診は来てるけど、どうも乗り気になれないんだよね」


お茶を飲みながら憂鬱そうに遠くを眺めてる。

マリリアはメンバーだけの時はとても砕けた口調になる。


「貴族に生まれた以上、仕方が無いことですけどね」


正論を述べるのは公爵令嬢のオフィーリアだ。


「まぁ、マリーの場合、相手の情報を知りすぎて乗り気になれないのではなくて?」


呆れたように言うのは伯爵令嬢のエーデル。

身分も立場も違う4人だが、学園に入るなり気が合い、今日まで気安い関係が続いている。


「これ以上は、親に心配もかけられないし、潮時なのかな……って」


微笑みながらも、クローディアは悲痛な面持ちを隠せては居なかった。


「ねえ、試しに当たって砕けてみる気はないの?」


首を傾げて尋ねるエーデルに、クローディアは想いを告げる自分を想像してみた。

しかしそれは、無残に玉砕する姿しか浮かばなかった。


「無理よ、こんな子供じゃ相手にもされないわ……」


青白い顔をして俯くクローディアには、3人が残念な者を見るような目を向けている事はわからなかった。

そんな中、一人マリリアが怪しげな笑みを浮かべた。


「だったらさ、いっそ伯爵様に婚約者見繕ってもらえば?」


予想もしない提案に皆、目を見開き固まった


「五年の付き合いで仲もそこそこ良いんでしょう?信頼出来る伯爵様の推薦が欲しいって、話なら聞いてくれるんじゃない?」


クローディアは何を言われているのか一瞬わからなかった。

想い人の伯爵に、わざわざ婚約者を見繕ってもらってどうするというのか。


「一歩が踏み出せないんでしょう?だったら伯爵様に推薦してもらえば、諦めも着くかもしれないじゃない」


困惑顔のクローディアに、マリリアは笑みを深めて囁いた。


考えもしなかった事を言われたが、それもそうかも知れないとも思った。

伯爵の推薦なら良い人に他ならないだろう、それに何となく心の整理がつくような気がした。


「ありがとう、マリー。私、伯爵様の所に行って来るわ」


そう言うと、膳は急げと庭園を飛び出していった。


残された3人は不敵な笑みを浮かべる。


「まぁ、選ぶわけ無いだろうけどね」


「あれだけわかりやすく溺愛してて、他の男推薦したら今度こそ引っぱたいてやりますわ」


「だいたい、長期休暇中は領地に居るくせに、学園始まると王都に居るって、其処がすでにおかしいでしょう……」


本人達は知らずとも、周りはすでに気づいていた。

そして、さっさとまとまれと思っても居た。


「まさかのクローディアが一番乗りか……」


内心嬉しそうな笑みを浮かべて、マリリアが呟く


「私達もうかうかしてられませんわね」


「本当に……」


互いに微笑み合いながら、少し温くなった紅茶を飲み干した。

白薔薇の蕾は男女ペアで一作完結予定です。

後三名……一生懸命書きますが、いつになるかすでに不安です。

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