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第12話 復活

「その後、俺はセイバーに乗って村に戻った。誰がが生きてるんじゃないかって希望に賭けた。勿論、現実はそんなに甘くなかったけどな」


エアルは、凄惨な過去を淡々と話していた。

あまりの内容に、峰人はただ言葉を失った。

それだけの経験をすれば、仲間を欲しがらないのも理解できる。


「俺はこれまで、誰の力も借りずにギデオン軍を倒そうとしてきた。だが、一度強敵に遭遇すればこのザマだ。カーラがなんて言うか…」


エアルは自嘲気味に言った。

ノヴァに敗北したことが、よほど応えたようだ。


「何、次勝てばいいさ。お前の相棒を助けた後でな」


峰人はそう言って、エアルの方を見て笑った。

1人で勝てない敵でも、2人なら、3人なら勝てるかもしれない。


「そうか…そうだよな」


エアルの目に光が戻り始める。

ようやく自信を取り戻し始めたようだ。


「ギデオン軍は大勢いる。ならこっちも数で勝負するんだ」

「ああ」


エアルは力強く答え、小さく笑った。

それは、峰人が初めて見る彼の笑顔だった。















ビフレスト社の海底施設は、どこを見ても監獄のような寒々しい光景だった。

新谷喜次郎はその中を、カツカツと音を立てながら一定のペースで歩いている。

それに随伴する人間が、重そうな金属の箱を二人掛かりで運んでいた。

彼らの行く先には、ギデオン軍の最高幹部、ノヴァがいた。

ノヴァの体は大きく、新谷たちが吹き抜けの2階部分に立たなければ目線を合わせられなかった。


「それが約束の物か?人間…」

「その通りだ」


ノヴァの姿は、近くで見れば見るほど恐ろしいものであった。

ノヴァの目は虫けらを見ているような、冷たく威圧的な目だ。

普通の人間ならば震えて動けなくなる程であるが、新谷は特に動じることもなく、ペースを崩さずにノヴァに近寄った。


「中身を見せろ」


低く不気味な声で人間に告げる。

新谷が目配せをすると、随伴していた2人の男が箱にキーを差し込んだ。

箱のロックは厳重であり、キーの他にもコード入力や指紋認証があった。

全ての作業が終わると、ようやく箱が開かれる。

その中には、緑色に輝く、誰もが見とれるような美しい石があった。

それは成人男性の胴くらいの大きさがあり、中では何らかのエネルギーが絶えず流動している。


「間違いない。オリジン・ストーンだ」

「数十年前、お前たちの首領はこれを求めてこの世界にやってきた。一体どれほどの力があるんだ?」

「ありとあらゆる物の源と言われるほどの力だ。お前たちには到底理解できない」


ノヴァは吐き捨てるように言った。

それを聞き、新谷は僅かに笑みを浮かべる。


「人間、何故お前たちはドラゴンを欲しがる?」


今度はノヴァの方が質問をした。


「簡単なことだ。我々はドラゴンの力に魅せられた。圧倒的な生命力と破壊力にな」

「お前たちに破滅をもたらす力だとしてもか?」

「人間はそういう力を全て進歩の糧にしてきた。我々がこの星の頂点に君臨した理由だよ」

「傲慢な考えだな。まるでドラゴンだ」


ノヴァの言い方は、相変わらず嘲笑うようだった。

だが、その物言いにはある程度の肯定も含まれている。

ギデオン軍もまた、人類の支配のため戦争を起こしたのだから。


「人類にとって破滅的な未来が待ってるかもしれないぞ?」

「進歩に犠牲はつきものだ」


ノヴァは少しだけ忠告してやったが、新谷の表情は崩れなかった。


















空は相変わらず分厚い雲に覆われており、本来の姿は見えない。

冷たい風が吹き、海が少しずつ荒れ始める。


「峰人、お前家族は?」


不意にエアルが質問をした。


「母さんと妹がいる。父さんは8年前に事故で死んじまった」


エアルがそんなことに興味を持つのかと思いながらも、峰人は質問に答えた。


「そうか…すまない」

「気にすんな。お前よりは重い境遇じゃない」


峰人が冗談めかしく言うと、エアルも少しだけ微笑む。


「ところで、いつもそこに入れてる四角いのは何なんだ?」


エアルは、峰人のズボンのポケットを指差していた。

峰人がその中にあった物を取り出し、エアルの方に見せる。


「これはスマートフォンだ。テレパシーが無くても遠くの人と会話できるし、色々調べたり、ゲームも出来るんだ。グリフォスなんかよりずっと凄いだろ?」

「お前らの会話は全部聞こえてると思え!」


"振り落としてやろうか"とでも言いたげな声色で、グリフォスが吠えた。


「それ、ちょっと俺に見せてくれるか?」

「いいよ。ほい」


エアルはスマホをまじまじと見つめ、その後で画面を弄り始めた。

それはそれは興味津々な様子で、あちこち押してみたり、スライドしてみたりしている。

峰人はこれまでとのギャップに驚いたが、彼の元来の性格はこんな感じなのかもしれない。


「凄いな…魔道具か何かなのか?」

「いいや。科学の力さ。この世界のものは全部そうだ。まあ斯く言う俺もあんまり詳しくないんだけど…っておい!分解しようとすんな!」


ふと、エアルの言葉が引っかかる。


….魔道具?エアル達の世界にはそんなものが存在しているのだろうか?


峰人は、エアル達の世界について殆ど何も知らないことに気付いた。

人竜大戦により壊滅したことは知っているが、それ以前のことについては何も聞いていない。


「なぁエアル、お前らの世界ってこことは結構違ったのか?」

「文明レベルはあまり高くなかったな。この世界の方が遥かに進歩してる」


低く、どすの利いた声が返ってくる。


「それってやっぱ中世とか近世辺りか?」

「そうだな。魔法が存在したから、科学の発展が遅かったのもあるだろうが」

「どんな世界だったんだ?」

「平和な世界だ。争いが起これば、ドラゴンが仲介に入った。だから、戦争など数百年間無縁だった」

「そうだったのか…って、今エアルと話してんだよ!!」


当然のようにスルリと会話に入ってきたグリフォスに、峰人は思わず突っ込む。

まあ確かに、あの世界に詳しいのはグリフォスの方かもしれないが。


「なぁエア…」

「セイバー!?セイバーか!?」


峰人が話しかけようとしたが、エアルは耳に手を当てて何かを叫んでいた。

まさか、セイバーからテレパシーが飛ばされてきたのか?


「セイバー!?無事なのか!?」

『いや無事ではないが…生きてはいるな。今まで連絡できなく悪かった。連中に勘付かれたくかったんだ』

「連中って?」

『"ビフレスト社"とか名乗ってた。僕もその辺は全然わからないけど』

「ビフレスト社だって…?」


その単語に、峰人とグリフォスはすぐさま反応した。


「おいエアル!?今ビフレスト社って言ったか!?」

「お前、知ってるのか?」


エアルが驚いた様子で質問を返す。


「極秘でドラゴンの研究をしてたらしい…おい、ひょっとしてそこは海底か!?」

「ちょっと待て」


エアルは、峰人の質問をそのままセイバーに伝えた。

直後に、セイバーから返答が来た。答えはイエスだった。


「ジャックの奴が言ってた、ビフレスト社の海底施設か?」

「ほぼ間違いないだろうな」

「よし、あと一歩だな。メフィア!分かったな!?」

「え!?そっちの会話なんて全然聞いてなかったよ!!?」


グリフォスは物凄く面倒臭がりながらも、会話の経緯をメフィア達に説明した。
















「契約は果たした。伊豆大島で回収したドラゴンを見せてもらおうか」


そう言いながらノヴァはオリジン・ストーンを手に取り、大切そうに握りしめた。

だが、新谷は笑みを浮かべたまま微動だにしない。


「ん?どうした?今更約束を反故にする気か?」


ノヴァが不審に思っていると、新谷は突然声をあげて笑い始めた。

ノヴァは不思議そうにその姿を見つめていた。


「ははははは…やはりドラゴンなど、所詮は知能の足りない劣等種族ということか」


その言葉と同時に、数百人の武装した人間達がノヴァを取り囲んだ。

彼らは一斉にノヴァに銃を向ける。


「裏切りか…」

「いいや違う。我々は最初からお前などと手を組んだつもりはない。利用しただけだ。よく働いてくれたな…もう用済みだ」


ノヴァが攻撃に備え姿勢を構える。

だが、多勢に無勢なのは明らかだ。


「安心しろ、お前を殺しはしない。あの黄色いドラゴンと共に我々の実験台にしてやる。永遠にな」


新谷は勝ち誇ったように言い放った。

ノヴァがそんな彼を鋭く睨む。


「撃て」


その合図で、ノヴァに何千何万という銃弾が豪雨のように浴びせられた。

ノヴァは体を丸め、その攻撃耐えているようだった。

だがそこに、トドメのロケットランチャーが発射される。

数十発のロケット弾が直撃し、ノヴァの体は爆炎に包まれて視認できなくなった。


一旦避難していた新谷達が、再び元いた場所へ来る。

黒煙が霧のように周囲に立ち込めており、様子は分からない。

だが、虫の息であることは確実だろう。

岩国基地を壊滅させた個体らしいが、人間とまともにやり合えばこの程度だ。


「どうだドラゴンよ!別の世界ではお前達は神として崇められたことだろう!だが、我々にとっては単なる下等な動物の一種でしかないのだ!」


新谷は勝利を確信していた。



ーーーだがそれは間違いだった。

黒煙の中から、不気味に光る巨大な影が現れる。

新谷達の表情が、一瞬にして青ざめた。

巨大な影から突如、稲妻のような閃光が放たれる。

するとほんの数秒のうちに、ノヴァを取り囲んでいた兵士達は吹き飛ばされ、灰にされた。

さらに、稲妻の直撃を受けた箇所が激しい炎を上げ、鉄が溶けてマグマのように流れ出している。

至る所が赤く燃え上がり、人々が悲鳴をあげて逃げ惑う。

まさしく地獄絵図であった。


「あっ…あぁっ…」


新谷は恐怖のあまり言葉を失った。

これがドラゴンの力なのか…。


「確かに我々は元の世界で神と呼ばれていた。だがそれは、我々の姿形を恐れたからではない。圧倒的な力があったからだ」


愚かな人間にそう告げると、ノヴァは手の中のストーンを確認する。

先ほど身構えたのは、ストーンを守るためだ。


「…人間、もう一度聞くぞ?伊豆大島で回収したドラゴンはどこだ?」

「さ…最下層だ」


新谷は震える声で答えた。

恐怖で立ち上がることすら出来ない。


「人間よ、力の伴わぬ傲慢さは、己自身を破滅させるぞ」


ノヴァは冷たくそう告げると、足元に稲妻を放った。













「おいグリフォス!あれは何だ!?」


ここは何もない海上のはずだった。

だが、驚くことに海面から大きな黒煙が上がっており、火の手も確認できる。


「あそこからドラゴンの反応を感じる。きっとセイバーよ」


メフィアの言うことが正しければ、あそこがビフレスト社の海底施設ということになる。

だがあの惨状は一体…?


「セイバー!聞こえるか!?」


エアルが再びテレパシーを飛ばす。


『聞こえてるぞエアル!』

「どうなってる?火災が起きてるぞ!?」

『分からないけど…そこら中で爆発音が聞こえる!』

「待ってろ!すぐに行くからな!」


どうやら、セイバーが逃げ出して暴れたわけではないようだ。

だとすれば考えられるのは…。


「ドラゴンがもう一体、海底に向けて移動してる!物凄い速さよ!」

「セイバー以外のドラゴンですか!?ではまさかギデオン軍が…」

「その可能性は高いね」


グリフォスとメフィアが、地獄と化した海底施設に向けて突撃した。














施設の最下層には、70mはあろうかというドラゴンが、不気味に鎮座していた。

冷えたマグマによって全身が固められており、意識は無いようだ。

だがそれでも、とてつもない威圧感を放ち、目覚めの時を待っていた。

ここの研究員達はすでに避難し、今は警備兵達がドラゴン奪取を阻止せんと銃撃を続けている。


「ゾルダー様…お迎えにあがりました。お目覚めの時です」


人間の攻撃を物ともせずに、ノヴァはそう呟く。

そして、手に握られたオリジン・ストーンを、ゾルダーに向けて掲げる。

するとストーンから、緑色のエネルギー波がゾルダーに向け発射された。

数秒後、ゾルダーを包んでいたマグマの塊がバキバキと割れ始め、光と共にあっという間に砕け散った。


「くっ…退避!退避!」


人間達が危機を感じ、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

だが、時すでに遅かった。


グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


恐ろしい咆哮と共に、封印されし悪魔がその真の姿を現わす。

悪魔は、周囲の逃げ惑う人間達に視線を向けた。

その巨大な口から、紫色の炎を発生させる。

それが濁流のように発射され、施設の分厚い壁を一瞬にして打ち砕く。

そこから大量の海水が流れ込み、哀れな人間達が恐怖の叫びを上げながら次々にそれに飲まれていく。


「ゾルダー様」


ノヴァが、ゾルダーに向けこうべを垂れた。


「遅かったな…ノヴァ」

「申し訳ございません。しかし作戦準備は整いました」

「ふん…いいだろう」


ゾルダーは視線を上に向けると、そのまま疾風の如き勢いで飛び立った。













「待った!この中だよ!」


メフィアが、分厚い扉の前で立ち止まった。

彼らは、既に海底施設に侵入していた。

中から見ると事態の深刻さがよく分かった。

あらゆる物が破壊されており、炎と黒煙が全てを包んでいる。

壁の至る所にヒビが入っており、今にも海水が侵入してきそうだ。


「どけ!俺がぶっ壊す!」


グリフォスが火球を放つと、一瞬で扉に風穴が空いた。

エアルが、躊躇なくそこに飛び込む。


「セイバー!」

「エアル!?」


エアルは竜剣で、あっという間にセイバーの拘束具を破壊した。

遅れて峰人達がそこに入ってくる。


「セイバー…無事で良かった」

「助けに来てくれたのか…ありがとう」


エアルとセイバーが、額を合わせながら再会を喜び合っている。


「そんな場合じゃないですよ!早く逃げないと!」


その時、施設全体が大きく揺れ始めた。地震によるものとは明らかに違う。


「ドラゴンがもう一体出現したわ!これはまさか…」


メフィアがそう呟いたのと同時に、地面全体が下から吹き飛ばされた。

そして、グリフォスの数倍はある巨体が、その姿を現わす。


「…ゾルダー!?」


ゾルダーとノヴァが、瞬く間にそこを通り過ぎる。

その衝撃により、圧力に耐えられなくなった施設の壁が崩壊を始め、海水が津波か土石流の様に流れ込んでくる。


「やばい!みんな逃げろ!」


そう叫んだ峰人も、一瞬にして海水の餌食となってしまった。














ゾルダーは、数十年ぶりに見る大海原に、冷徹な視線を落としていた。

先程まで自分達がいた施設が、煙を上げて跡形もなく崩壊している。

そして水平線の向こうには、人間達の住む大きな町が見えた。


「ついに時は来た…人類全てが我らギデオン軍の配下となった時、世界は光に照らされるだろう」


ゾルダーは遥か遠くの人間の町を見据えて、不気味に笑った。


「さあ、新たな戦いの始まりだ」








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