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第11話 慟哭

「八重山、本当に間違いないんだな?」

「ええ、ギデオン軍はゾルダーの復活を画策している可能性が高いです」


八重山と林統幕長は、歩きながら緊迫した調子で会話をしていた。

周囲の自衛官も、慌ただしく戦闘の準備をしている。

八重山が、ジャックから貰った資料を林に渡す。

米国政府とビフレスト社の関係が記載されたものだ。


「よし、官邸とビフレスト社には私が連絡しよう」

「ありがとうございます」


そう言うと八重山は、林と別れて別の方向へ歩いていった。




「え?ゾルダーが人間に回収されたんですか!?」


別の場所では、峰人がセーネたちに事情を説明していた。


「ああ、そうだ。だからギデオン軍はは、ビフレスト社を狙うと思う」


ギデオン軍はどこまで情報を知っているのだろうか。

今のところ、ビフレスト社が襲撃されたという情報はないのだから、おそらくゾルダーの居場所までは知らないのだろう。

もし、先にゾルダーを見つけられてしまったら…。

もう勝てないかもしれない。


「なんか…本当に洒落にならないことになっちまったな」


隼太が呟いた。

もっともだ。

ほんの2週間前までごく普通の中学生だったというのに。

だが、今は嘆いている時ではない。

ゾルダーが復活すれば、何百万、何千万の人間が犠牲になる可能性がある。


「エアルにも知らせましょう!」

「ああ、多分ストーンを見つけた頃だろうしな」


ゾルダーとオリジン・ストーンを守りきればこちらの勝ち。奪われれば負け。簡単なルールだ。


「取り敢えず八丈島まで行ってみましょう。メフィアの能力でセイバーを探せますから」

「名案だ。グリフォス、行くぞ!」

「よし来た!」


峰人とセーネはすぐさまそれぞれのドラゴンに飛び乗った。


「峰人!」


不意に隼太に呼び止められ、峰人は少し驚く。


「絶対に…死ぬなよ?」


その声は不安げだった。

彼のこんな声を聞いたのは初めてかもしれない。


「ああ、当たり前だ」


峰人は親指を高く上げ、隼太に向かって微笑んだ。

隼太の言う通りだ。

こんなところで死ぬわけにはいかない。

必ず生きて、家に帰ろう。








セイバーは、薄暗い空間で目を覚ました。

確かノヴァに負けて連れ去られて、それから…。

…どこかの海の上の建物に入った。

そしてそこには、大勢の人間がいた。

どういうことだ?ノヴァは人間と関わりを持っている?


セイバーの体は、鉄の枷で厳重に拘束されていた。

傷はとうに完治していたが、危険な状況に置かれていることには変わりなかった。

ノヴァが、そしてあの人間たちが、何を目的としているのか全く分からない。

すると、急に部屋の明かりがつけられた。


「新谷支部長、こちらです」


スーツを着た複数の人間が、セイバーの元に近づいてきた。

セイバーは、鋭い目つきで彼らを睨みつける。


「ほう…素晴らしい。生きたドラゴンが…遂に我々の元に」


新谷喜次郎は恍惚とした表情で、セイバーを舐めるように見つめていた。

だがセイバーの目には、それは不気味な光景でしかなかった。


「お前たちは一体何だ?」


セイバーが敵意むき出しで、目の前の人間に問う。

すると新谷は、僅かに口元を緩めた。


「我々はビフレスト社だ。君らドラゴンの力を高く評価していてね、是非とも生きた個体を手に入れたかったんだ」

「どういうことだ?」

「我が社は数十年前からドラゴンの研究を進めてきた。だがずっと行き詰っていてね…君のおかげでようやく前進できそうだ」


セイバーはゾッとした。

新谷の表情は、新しいオモチャを手に入れた子供のようだった。

この男は、ドラゴンを研究対象としか見ていないのだろう。


「ギデオン軍と手を組んだのか…?」

「彼らは単なるビジネスパートナーだ」

「馬鹿野郎!あいつらは人間を同じ生き物だなんて思ってないんだぞ!!」


セイバーは声を荒げた。

この男は事情を何も理解していない。


「やれ」


新谷がそう言うと、突然鉄枷から電流が流れた。


「ぐわぁっ!!?」


セイバーは思わず声を上げる。

電流は強力で、短時間でも息が上がってしまうほどだ。


「今後、暴れようとすればこうなる。覚えておくといい」


新谷はそれだけ言うと、他の人間とともに部屋を後にする。

部屋の外には、別のドラゴン…ノヴァの姿があった。


「約束通り生きたドラゴンを連れて来た。さあ、今度はお前たちの番だ」

「ああ、分かっているとも」


新谷は内心笑っていた。

ドラゴンどもはやはり自分の立場を理解出来ていないらしい。

所詮は劣った爬虫類ということか。









「おいメフィア、もう着いちまったぞ」


グリフォスとメフィアは、八丈島の上空にいた。

妙なことに、ここまでメフィアの能力に反応はなかった。

勿論、島の中にも反応はない。


「お前の能力本当にあてになるのか!?」

「なっ…失礼ね!これまで百発百中よ!」


2体のドラゴンの言い争いをよそに、峰人は島を上から見下ろしていた。

まさか、ストーンを持って別の場所へ行った、ということは無いだろう。

ふと見ると、島の一部から薄い黒煙が上がっているのが見えた。


「おいグリフォス、あれ!」


峰人が指差すと、グリフォスは黒煙の方に向かって飛んだ。


近くで見ると、木々が折れたり、焼け焦げたりしているのが分かった。

ここで何かがあったことは間違いない。

峰人とセーネはドラゴンから降りると、周辺の調査を開始した。

近くで見るとかなり酷い状況で、黒煙のせいで立っているだけでも目が痛くなる。

鼻をつくような匂いも、一帯に立ち込めていた。


「…ドラゴン同士の戦闘があったことは、間違いないでしょうね」

「だとするとやっぱりセイバーが?」


そう考えるのが自然だったが、肝心のセイバーの姿はここにはない。

まさか殺されたのか。


「ちょっ、峰人!あれ!」


セーネがそう言って指差した先を見てみると、そこに1人の少年が、呆然と座り込んでいた。

金髪に特徴的な服…間違いない。


「おいエアル!一体どうしたんだ!?」


峰人が駆け寄ると、エアルはこちらを振り返った。

よく見るとエアルの服は、血で赤く染まっており、右腕の袖が破れている。

その横には、原型をとどめていないエアルの右腕が転がっていた。

だが、幸いにももう腕の再生は済んでいる。


「おい!何があったんだ!?」

「セイバーが…連れていかれた」


峰人の質問に、エアルは震える声で答えた。


「な…連れていかれた!?どういうことだ?」

「ギデオン軍のノヴァだ…あいつが現れた。ストーンももう奪われた後だった」


峰人とセーネは驚いた。

奪われたオリジン・ストーンに、直後に現れたギデオン軍…。

もしかすると、全て奴らの罠だったのかもしれない。

するとエアルは立ち上がり、峰人とセーネに深く頭を下げた。

突然の行動に峰人とセーネは思わず目を見開く。


「こんなこと頼める立場じゃないが…お願いだ、協力してくれ…。あいつは大切な相棒だ。だが俺1人の力じゃどうにもならない。だから…」


エアルはこれまでからは想像もできないくらい取り乱していた。

よほどセイバーのことが大切なのだろう。


「ああ、勿論だ」


峰人は笑顔でそれに答えた。

エアルは驚いた様子で、峰人の顔を見上げた。

峰人はエアルに手を差し出し、握手を求める。


「仲間は多いに越したことはありませんからね!」


セーネもそれに続く。

エアルはしばらく何も言えなかったが、峰人の手を取りながらようやく言葉を絞り出した。


「ありがとう…!!」










グリフォスとメフィアは、セイバーが連れ去られた方角へ飛んでいた。

エアルが死んでいないのなら、セイバーはまだ生きているということだ。


「しかしノヴァか…面倒なのが出てきたな」

「知ってるのか?」

「殺し合ううちにすっかり顔見知りだよ」


人竜大戦において、グリフォスは何度もノヴァと戦っていた。

強い者が生き残る戦場では、自然と遭遇回数も多くなる。

特に単独行動の多いグリフォスは、いつしか味方よりも敵の方が知り合いが多くなっていた。


「くそっ…ノヴァを殺すどころか、傷一つつけられなかった…!必ず奴らを滅ぼすと誓ったのに…」


峰人の後ろに座るエアルは、屈辱と、やり場のない怒りのこもった声で呟いた。


「ノヴァは強い。人竜大戦でも、奴を殺すことはできなかった」


グリフォスがフォローするが、エアルは相変わらず暗い表情だった。


「なぁ…お前、過去に何があったんだ?」


峰人が、重々しげに話題を切り出した。

あまり積極的に聞きたくないことだが。

エアルは答えず、ただ目を閉じた。


「あ…ごめん。話したくないなら…」

「いいや、大丈夫だ。助けて貰うんだ、ちゃんと話しておかないとな」


エアルは、脳に焼き付いて離れない過去の記憶に想いを馳せた。












6年前 別の世界


家という家が激しい炎を上げ、辺りには無数の死体が転がっていた。

この世界は人竜大戦により壊滅し、人類の殆どは滅び去った。

だがそんな中でも、懸命に生き続けようとしていたのが、この村の住人だった。

だが、それも終わりを告げようとしている。


村の大人たちは武器を取り、戦おうとしたが、ギデオン軍の力は絶望そのものだった。

立ち向かった者はあっという間に炎に焼かれ、逃げようとした者はすぐに捕まり、時間をかけてゆっくりと殺された。

そんな中、10歳にも満たない小さな少年が、彼より少し下くらいの年齢の少女を背に抱えて、必死に地獄から逃れようとしていた。

幸いにも小さな体は、ドラゴンの目から逃れるのには最適だった。


「カーラ、大丈夫だからな。俺が必ず助ける」


その少年…エアルは、おおよそ年齢には不釣り合いな口調で、後ろに背負った妹のカーラを励ました。


「お兄ちゃん…怖いよ…」


カーラの声は酷く震えている。

カーラは、腹部から大量に出血していた。

村がドラゴンに襲われた時、エアルは一目散に家に戻った。

だが、着いた時にはもう、家は倒壊して炎を吹き上げていた。

エアルが炎の中で必死に必死に家族を探すと、焼けた母に抱きかかえられたカーラを見つけた。

だが、カーラの腹部は家の残骸に貫かれていた。

それでもエアルは諦めず、残骸を引き抜いて助かると信じて妹を背負ったのだった。

そのエアルもまた、身体中に重度の火傷を負っていた。

だが、不思議と痛みはあまり感じない。

父の姿は見えなかった。

でも、無事ではないだろう。

カーラを抱えたまま、エアルは力を振り絞ってその場から走り去った。




どれだけ歩いただろうか。

村から出た時は真上にあった太陽が、もう殆ど沈みかけている。

エアルはカーラを下ろし、近くの木にもたれかかった。

カーラの顔色は徐々に悪くなっていた。

今では会話をするのも辛そうだ。

出血が止まらない。

治療をしなければどうにもならないが、ここではそんなこと不可能だ。

エアルの火傷も、少しずつ痛みが増していた。


「お兄ちゃん…私たち死んじゃうのかな…」

「お前…馬鹿なこと言うな!」


エアルは力強く否定したが、内心では焦りを感じていた。

この世界にはもう、助けてくれる人間はいない。


「私…まだ死にたくないよ…」


カーラの目から涙が流れ落ちる。

エアルとカーラは、とても仲の良い兄妹だった。

いつも共に遊び、いつしか彼らの姿は村の希望となっていた。

カーラは明るい子だった。だが今は見る影もない。

迫り来る死に、ただ力なく怯えるだけだ。

エアルは立ち上がろうとする。

何か目的があるわけではないが、怯えるカーラを前に、じっとしてはいられなかった。

だが、足に力は入らない。

大火傷と、溜まった疲労が災いしてしまった。

エアルももう、限界であった。

意識も次第に朦朧としてくる。


だがその時、空から轟音が響いた。

その音には聞き覚えがあった。

村が襲われる直前に耳にしたのと同じだ。

間違いない。これはドラゴンのものだ。

直後に10mはある巨大な黄色のドラゴンが、目の前に降り立った。


「うわぁあ!!」


エアルは驚愕し、体を無理やり起こしてカーラのそばに寄る。


「待った!僕は敵じゃない!ギデオン軍と戦う戦士セイバーだ」


セイバーと名乗るドラゴンは、敵意は示さずにただエアルを見つめていた。


「い…一体何の用だ!?」


エアルはなお怯えたまま、カーラを庇う姿勢でセイバーを見ていた。


「このままだとお前は死ぬ。でも一つだけ、助かる方法がある」

「助かる方法…?」

「僕と契約を交わすんだ。竜騎士になれば、その傷はすぐに治る」

「本当か!?」

「ただし、契約出来るのは1人だけだ」


自分の命が妹の命…。

9歳の少年にはあまりに残酷な選択だった。

だが、エアルの目に迷いはなかった。


「じゃあ、カーラを頼む」

「その娘でいいんだな?」

「ああ」


エアルは力強く答えた。

だが、直後にカーラがエアルの服を掴む。


「カーラ、もう大丈夫だ。お前は助かる」

「ううん…お兄ちゃんが助かって」

「はあ!?何言ってんだ!俺が生き残ってどうする!」

「お父さんから聞いたの…竜騎士になれば、とてもとても強くなれるって。だがらお兄ちゃんが…みんなの仇を…」

「お前を助ける方が大事だ!死にたくないって言ってただろ!」

「うん…でもそれより…誰かが死んじゃうのを見る方がずっと苦しいの…」


カーラの目から、涙が溢れ出す。


「お兄ちゃん…ごめんね…寂しいよね…でも忘れないで…私はずっと一緒にいるから…」


カーラの目は涙に濡れていたが、瞳の奥にあったのは恐怖ではなく、決意や覚悟だった。


「そんな…いやだ…」

「お兄ちゃん…大好き」


カーラが涙を拭き、優しく微笑んだ。


そうだ。もうこの世界には父さんも、母さんも、誰もいない。

もしここでカーラを助けても、生涯消えることのない孤独に苦しむことになる。

それよりも、父さんや母さんのいる世界で安息に包まれて暮らす方が、ずっと良いかもしれない。


「…お前でいいんだな?少年」

「……あぁ…」


エアルは、絞り出すように答えた。

その目からは、じわじわと涙が溢れてくる。


火傷は瞬く間に治癒し、体の奥から力がみなぎってくる。

契約が完了したのだろう。

エアルは、ゆっくりとその場に立ち上がる。


「カーラ、約束だ。ギデオン軍は…みんなの仇は、俺が必ず…」


そう言いかけたが、カーラの姿を見て愕然とした。


ーーーー命が消えている。


それは、一目見ただけですぐにわかった。

カーラは優しく微笑んだまま、静かに眠っていた。


エアルの目から、堰を切ったように涙が溢れ出す。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


涙と同時に、悲痛な叫びが、世界の全てを恨むような叫びが、体の奥から溢れ出た。


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