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第13話 惨劇

八重山一尉の率いる特殊作戦群は、ヘリコプター4機でビフレスト社の海底施設へ急行していた。

峰人達は「エアルを呼びに行く」と言ったまま、未だに戻っていない。

何か非常事態が起こったのだろうか?

八重山は胸騒ぎを覚えた。


「一尉…あれ、何でしょうか?」


隣に座っていた石丸秀久一曹が、海面を指差して言った。

八重山はそれに目を凝らす。

ここからはかなり遠いが、海面から黒煙が上がっているように見える。

かなり大規模な火災であることは、遠くからでも十分に分かった。


『急告!前方にアンノウン2機捕捉!』


パイロットから通信が入る。

黒煙のさらに上には、確かに2つの物体が浮遊していた。

それは、間違いなくドラゴンであった。だが、今まで見たどの個体よりも大きい。

彼らがこの火災を引き起こしたのだろうか。


『アンノウン、移動を開始。名古屋方面に向かって飛行中!』


2体は、あっという間に西に向かって消えていった。

一体何が起こっているのだろうか。

全くわからない。


「パイロット、あの黒煙の方に飛べ!」


八重山がここで新たな指示を出した。

不明なものは、全て調べるのが今回の任務だ。













「峰人!峰人、しっかりして下さい!目を覚まして下さい!!」


遠くから、セーネの声が聞こえる。

何があったのか…よく思い出せない。

だが、とてつもなく恐ろしいものを見たということだけは鮮明に覚えている。

全てを破壊し尽くさんばかりのあの目…。


「峰人!こんなところで死ぬ気か!?」

「お願いです!ゾルダーを止めないと!!」


…ゾルダー。

そうだ。思い出した。




「ゲホッ!ゲハッゲハッ!」


峰人は大量の海水を吐き出して、ようやく意識を取り戻した。

あれからさほど時間は経っていないようだが、ゾルダーとノヴァの姿はどこにも見当たらない。


「峰人!あぁ良かった…もう死んでしまったかと…」


セーネが涙目になりながら言った。

よほど心配してくれていたようだ。


「よし、新しい竜騎士を探す手間が省けたな」

「そりゃ良かったな。心配してくれたようでと〜っても嬉しいよ」


峰人は全力の皮肉を込めて、グリフォスに言い放った。


海底施設が破壊された影響で、その残骸がそこら中に浮遊していた。

彼らは今、海に囲まれながら大きめの残骸の上にいる。

ゾルダー復活を阻止出来ず、オリジン・ストーンまで奪われてしまった。


「グリフォス…今どんな状況だ?」

「9回裏ツーアウト8点差って感じだ」

「そりゃ見事だな…って、野球知ってるのかよ」

「ジャックがカブスのファンでな」

「そんなどうでもいいことを話している場合じゃないでしょう!」


話が脱線しかかったところで、メフィアが止めに入った。


「とにかく、私たちは今大ピンチよ。ストーンだけは何としても奪い返さないと」


すると遠くから、ヘリのローター音がこちらに近づいてきた。

あの緑色の機体…間違いない、自衛隊だ。

峰人たちの真上まで来ると、4機のヘリはその場でホバリングを始めた。

しばらくして、1人の男がヘリからラペリング降下をしてくる。


「八重山さん!」


その男は八重山だった。

八重山は周囲の惨状を見渡しながら、峰人の方に向いた。


「一体ここで何があったんだ?」

「ええっと…ビフレスト社の人間にセイバーが捕まって、助けに行ったら施設が燃えてて、ゾルダーが復活してギデオン軍にストーンが奪われて…」

「おいおい落ち着け、訳が分からないぞ」

「…あぁ、俺から話そう」


見かねたグリフォスが、八重山と峰人の間に割って入る。

グリフォスは事のあらましを、丁寧に全て説明した。


「何だと?ビフレスト社がセイバーを襲ったと?」

「それだけじゃない。あいつらギデオン軍と手を組んでいたんだ!ノヴァのことも知っていた!」


セイバーの補足に、その場にいた全員が驚愕する。

人類支配を目論むギデオン軍に、人間が加担するなど…。


「…分かった。ビフレスト社に関しては、こちらが責任を持って調査する。とにかく今はゾルダーだ。奴は一体何をしようとしている?」


八重山の質問には、誰も答えられなかった。

こちらはギデオン軍の目的すら掴めていない。


『八重山一尉、緊急報告です!』


沈黙を破ったのは、石丸からの通信だった。


「どうした?」

『名古屋市上空に飛翔生物と、巨大な物体が出現しました!ただちに任務を中断し、現場に急行せよとのことです!』


八重山はとてつもなく悪い予感がした。

ギデオン軍の仕業であることは疑いようがない。

だが、巨大な物体とは一体…?

いずれにせよ、人類にとって歓迎できるものではないだろう。











同時刻 愛知県 名古屋市


平日の昼間の名古屋駅周辺は、スーツを着た大勢のサラリーマンで賑わっていた。

駅前ということで、無数のバスやタクシーが行き交っている。

昼休みを終え、午後の勤務が始まる時間帯。

勿論、買い出しに訪れた主婦や、観光客の姿も多く見受けられる。

とにかく、大勢の人々が、その場にはいた。

何も不思議なことはない。ごく普通の日常の光景だ。

サラリーマンや主婦達は家で待つ家族のことを考えながら、観光客は未知なる土地に胸を躍らせながら、その日を精一杯生きていた。


その中の1人が、何気なく空を見上げた。

何かが遠くから、ゆっくりとこちらに迫って来る。

初めは小さく、はっきりとは視認できなかった。

だが接近して来るにつれて、その形や大きさがよく見えるようになった。

その大きさは、目測でも数百mはある。

それは、石で出来たいくつもの太い楕円で構成されており、絶えず幾何学的な動きを繰り返している。

中心には、一本の太い支柱のようなものが存在していた。

それはすぐに名古屋市上空に到達し、市街地は影で覆われる。

突然夜が訪れたような現象に、ほぼ全ての人々が空を見上げた。


「何だあれ?」

「UFOか?」


明らかにこの世界の文明のものではない物体に、人々は畏怖を覚えた。

走って建物の中に避難する者もいたが、大半の人間は立ち止まって、静かに推移を見守っていた。


物体の上には、2体のドラゴンが乗っていた。

ゾルダーとノヴァだ。

ゾルダーはノヴァから、緑色に輝く美しい石を受け取った。


「さあオリジン・ストーンよ、この世界に光をもたらせ」


ゾルダーはストーンを、物体の中心の支柱の近くに持って行った。

ストーンはそのまま柱にゆっくりと吸い込まれ、物体全体が淡い光を放ち始める。


「人間よ…この世界の頂点に君臨するのは最早お前達ではない。我らドラゴンだ!!」


物体から、一筋の太い光が天に向かって放たれる。

光は空にぶつかり、やがて光の柱の周囲に異次元への穴が開き始める。

それは物体の上空を除いた全ての空に、ドーナツ状に広がっていった。



その場にいた人々が、一気に上空に吸い上げられる。

穴からは強力な重力が発生していた。

次に何百台という車が、一気に空へと持ち上げられた。

一般的な乗用車から、トラックやバスまで、大きさは関係なかった。

そして、遂に重力に耐えられなくなった建造物群が、バラバラになりながら上空へ浮き上がった。

中にいた人々は、抵抗も虚しく瓦礫とともに上空に吸い上げられる。


「何だこれは!?」

「早く逃げろ!!!」


あまりに突然の事態に、人々は大パニックに陥った。

人々の畏怖が、瞬時に恐怖へと変わる。

人々はその場から一目散に逃げ、車はアクセルを全開にして猛スピードで走った。

凶器と化した車が人間を撥ねとばすが、停車する車は一台もなかった。

持ち上げられたビルは殆ど穴に吸われたが、一部は左右に舞った後、重力の圏外に出てそのまま放物線を描いて落下を始めた。

その下には、避難する大勢の市民がいた。

異次元の穴が徐々に広がり、上空から瓦礫が降り注ぐ。

車両同士が衝突したり、瓦礫がビルに直撃したりするなどして、あちこちで火災も発生する。

日常はほんの数分のうちに破壊され、名古屋市はさながら地獄絵図と化した。











同時刻 東京都 首相官邸

伊川首相は最低限の人間を伴って、慌ただしく危機管理センターに移動していた。

廊下には伊川の他にも多くの職員が、鬼気迫った表情で走り回っている。

「名古屋市が大規模な攻撃を受けた」との報告が入ったのは、つい数分前のことだ。

飛翔生物による局地的な攻撃は考慮していたが、これほど計画的で大規模な襲撃は想定外であった。


伊川が危機管理センターに入ると、国家安全保障会議のメンバーが全員起立した。

既に伊川以外の面々は揃っている。

やはり皆緊張した面持ちだ。


「掛けてくれ。ただちに緊急会議を始める」


全員が着席したのを確認すると、伊川は早速質問を始めた。


「須藤官房長官、状況はどうなっている?」

「はい…率直に申し上げて、不明な点ばかりです。ネット上には、"上空に巨大な物体が出現し市街地に壊滅的な被害が出ている"という情報が多数存在しています。あらゆる超法規的措置を想定すべき事案と考えます」


須藤は慎重に言葉を選びながら発言した。

誤った選択は、国家の破滅を招きかねない。

伊川はふと、背後の巨大なモニターに目をやる。

映っていたテレビ放送は既に通常の番組を中断し、緊急特番に切り替わっていた。


『…今入っている情報をお伝えします!名古屋市は現在、大規模な攻撃を受けています!市内全域には、避難指示が出されています!大変危険な状況です!命を守るため、ただちに避難してください!市外の皆さんは、絶対にこの一帯に近づかないでください!』


キャスターが切迫した調子で原稿を読み上げている。

見ている側にも恐怖が伝わってくるほどだ。


「前田防衛大臣、敵についての情報はあるか?」

「正確な情報はありませんが…報告から、ギデオン軍である可能性が極めて高いです」

「自衛隊の出動準備は?」

「既に完了しています」


前田は、あくまで憮然とした表情であった。

どんな時でも冷静さを欠かず、最善の判断を行う。

それが彼のプロフェッショナリズムだった。


「よし。航空自衛隊は、破壊措置命令に備えスクランブル発進。私からの命令が下り次第、速やか目標を破壊せよ。陸上自衛隊は避難誘導に当たれ」

「分かりました総理」


井川の指示で、周囲にいた人間達が慌ただしく動き出した。









竜騎士3人と特殊作戦群の面々は、一路名古屋市を目指していた。

空の黒雲は一層濃くなり、殺戮と悪夢の始まりを思わせる不気味な様相を呈している。

名古屋の状況は、自衛隊の上層部も把握出来ていないようだった。

今わかっているのは、ギデオン軍が特殊な兵器を用いて市街地を一瞬で破壊したということだけだ。

八重山が、司令部と無線で交信をする。


「しかし…一個小隊ではどうしようもありませんよ。我々は大規模戦闘を行えるだけの装備も、人員もありません。いくら特殊作戦群と言えど、自殺行為です」

『そんなことは解っている。戦えと言ってるんじゃない。避難誘導を行う中部方面隊の支援が任務だ』


八重山は少しホッとした。

ゾルダーの脅威は、グリフォスやジャックから聞いている。

自衛官数名では死にに行くようなものだ。

命を賭す覚悟をしているとしても、部下に死ねと命じることなどできない。


「司令部…敵はゾルダーです」


ゾルダーについては、既に自衛隊の幹部や政府にまで情報は届いている。

70年前とはいえ、米軍ですら殺せなかった相手だ。

現代においても恐ろしい脅威であることは変わりない。


『…了解。全力で対処する。終わり』


その言葉で、通信は切られた。


ギデオン軍の目的は果たされた、と見て間違いないだろう。

峰人は歯を食いしばりながら、顔を手のひらで覆って指でトントンと頭を何度も叩いていた。

完全に奴らにしてやられた。

結局何1つ止められなかった。

ゾルダーは復活し、オリジン・ストーンは奪われ、既に大都市への攻撃が開始されている。


「なあグリフォス、お前はゾルダーに勝てるのか?」


峰人は暗いトーンで尋ねた。


「さあな。運が良ければ少数の犠牲で済む、とだけ言っておこうか」

「ははは…そこは嘘でも"心配するな。奴は必ず俺が地獄に送る"とか言ってくれよ」


峰人が乾いた笑いを上げる。

まだ竜騎士になっていくらも経っていないというのに、気づけば人類存亡を賭けた戦いの真っ最中だ。

もう笑うしかない。

とても信じられないし、身震いするほど恐ろしい状況だ。

しかし、かと言ってここで逃げ出すわけにもいかない。

峰人は覚悟を決め、目を閉じて深呼吸をする。


「いいかい?作戦を説明するよ!」


今度はメフィアが話し始めた。


「第1の目的は、オリジン・ストーンを奪取、または破壊することよ。大規模破壊はおそらくストーンの力を使ってのもの。ストーンが無くなれば破壊も止まるはず。

でもギデオン軍もそれを想定しているわ。だから全力で私たちを止めようとする。相手はゾルダー、最強のドラゴンよ。犠牲を出さずに勝つことはできない。例え誰かが犠牲になっても…ストーン破壊だけに集中すること」


メフィアの言葉に、全員の気が引き締まる。


負ければ死。勝てたとしても無事で済むかわからない。


緊張で空気すら重く感じる。

しばらくは、誰も言葉を発しなかった。


だが、その沈黙をセーネが破った。


「確かにメフィアの言う通り、覚悟は必要です。しかし、初めから犠牲を出すつもりで戦うなど愚かです。ギデオン軍は私たちの死を望んでいます。私はこれ以上、奴らの思い通りにはさせたくありません!」


セーネはこの上ないくらいに語気を強めた。

そこからは彼女の強い怒りと、並々ならぬ決意が伺える。


「僕も…もっとみんなのことを知りたい。こんなに仲間ができたのは初めてだから」


セイバーがそれに同調した。

峰人もそれを聞き、拳を握り締める。

せっかく竜騎士になって命拾いしたのだ。

こんなところで殺されてたまるか。


メフィアは呆れたように目を閉じ、こうべを垂れた。

数々の戦いをくぐり抜けた彼女にとっては、セーネの言葉は青臭いものにしか映らないだろう。


「時には死への覚悟ではなく、生への意志が大きな力となる。覚えておけメフィア」

「何を偉そうに…でも、そうみたいね」


悪態をつきながらも、メフィアはグリフォスの言葉にしっかりと耳を傾けていた。


「おいお前ら、見えてきたぞ」


エアルが言うと、全員が前へ向き直った。

前方に見えたのは、あちこちから黒煙を上げる大都市だった。

間違いない。あれが名古屋だ。

街の中央には、不気味な巨大物体が浮遊しており、そこから放たれた光が天を貫いている。

その周辺では、車やビルの残骸が上に下にと踊り狂っていた。

想像を絶する惨状であることは近くで見なくても分かる。

だが、グリフォスは全く動じず、静かにその光景を見つめながら言う。


「かつて俺たちは、世界の滅亡を止めることが出来ず、人類の絶滅を招いた。だが運命は再び、俺たちに世界救済のチャンスを与えた。

奴らにリベンジする時が来たのだ。それを決して不意にはしない。今回滅ぶのは俺たちでも、人類でもない。奴ら自身だ。

奴らは勝利を確信している。だがそれが覆された時、どんな表情をするのだろうな」


グリフォスの悪戯を思いついた子供のような言い方に、峰人は少し笑みを浮かべる。


セーネとエアルが、戦いに備えて竜剣を発現させた。

メフィアとセイバーも、少しずつ速度を上げ始める。

戦いの時は、すぐそこだ。


グリフォスは吠えるような声で言葉を続ける。



「ドラゴンに恐れなど不要!運命を切り開くのは戦いのみだ!!戦士たちよ、"竜の輝き"の元へ集え!!!」

「「全ては偉大なる勝利のために!!!!!」」


グリフォスに呼応するように、2体のドラゴンが声を轟かせた。


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