↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/15

第2話 元魔王の食費は、救出費用の倍だった

続けて読みに来てくださり、ありがとうございます。第2話です。

 俺の死体を探す女と、ローズへ首輪をはめた女。

 同じ名前だとわかったあとも、腹の音は止まらなかった。

 リゼが宿の食堂へ入り、三人分の煮込みを頼んだ。


「食事代は立て替える。働いて返して。利息はつけないわ」

「いくらだ」

「三人で銅貨六枚」


 ローズが席につく手を止めた。


「我を二度買える額ではないか」

「そういう食事なのか」

「食事を疑う前に、我の値段を疑え!」


 俺は手帳へ六枚と書いた。

 ローズの売買証とは別の頁にした。そこまで見届けてから、彼女は椅子へ腰を下ろした。


 リゼは依頼書を広げ、受付番号を指した。


「王都の仲介所が窓口。ドルン商会が、この町での取次先よ。本人の居場所は公開されてないけど、連絡の経路は残る」

「ドルンは、さっきの商人か」

「ええ。会計を見ていたから、帳簿の置き場所ならわかる」


 今朝、金庫の整理をしたという。

 その際に見つけた写しを、俺の顔を見て持ち出したらしい。


「先月の更新は、本人が決めたのか」

「それを調べるには原本が要る。自動更新の契約もあるから」


 リゼは言い終えると、窓から商会のほうを見た。

 そこへ戻るのは、気が進まないようだった。


「鞄(かばん)だけ持って辞めてきたの。あの男なら、今月の給金は払わないと言うでしょうね」

「取りに行くか」

「その腕で請求されると、私まで捕まりそう。まず話をする」


 ローズが鼻で笑った。


「話の通じる者なら、裏口へ斧(おの)を用意せぬ」

「そうね。だから食べてからにしましょう」


 話が終わるのを待っていたように、皿が三つ来た。

 ローズはすぐに匙を取ったが、食べる前に俺の皿を見た。次に、リゼの皿を見る。


「何か、違うか」

「……我も、同じものなのだな」


 手帳には、一緒に食べる相手へ同じものを用意するとあった。

 俺がそう伝えると、ローズは煮込みを数え始めた。


「汝の肉が二切れ多い」


 一切れ移すと、彼女は満足した。

 リゼが自分の皿を少し遠ざける。


「私の分まで数えなくていいから」

「厳正な分配を妨げるでない」

「あなたがいちばん真剣ね」


 返事がない。食べるほうが大事らしい。

 ローズは一口目を食べた。

 そのまま二口目へ進み、三口目で急に匙を止める。俺とリゼを見たあと、今度は少しゆっくり食べた。


「熱いなら、冷ませばいい」

「味を確かめておるのだ。急ぐ理由などない」


 俺がパンへ手を伸ばすと、ローズの匙がまた速くなった。

 皿の縁に、まだ温かい水滴が並んでいた。


 ◆


 食堂の扉が開き、六人が入ってきた。

 誰も席につかない。窓の外にも、同じ赤い紐を腕へ巻いた男がいた。裏へ回る足音まである。


「ドルンの私兵よ」


 リゼが帳面を膝(ひざ)へ下ろした。

 先頭の男は紙を卓へ叩きつけ、彼女へ手を伸ばす。


「店の帳簿を持ち出したな。そこの女も返せ」

「私の帳面よ。女の子の代金も払ってる」

「契約は無効だ」


 ローズが匙を置いた。


「買わせ、取り戻し、また売るか。汝ら、二度目の客にも同じ斧を使うつもりであったな」

「奴隷は黙ってろ」


 男の手が、ローズの皿へ伸びた。

 俺はその手首をつかんだ。皿はまだ動いていなかった。


「食べ終わってない」

「放せ、てめえ――」

「外で話す。店の物を壊すと、高くなる」


 主人へ客を奥へ移してもらい、俺は男を連れて通りへ出た。

 表に二十四人、裏へ回った者もいる。弩(いしゆみ)を宿へ向けている男が四人いた。


「三十人よ。右の路地にもいる」


 リゼの声が窓から届いた。

 男が笑う。


「聞いたか。黙って従えば――」


 言い終える前に、手首を少し上げた。

 男はつま先立ちになり、命令を続けられなくなった。


「弩を、店から逸らせ」


 別の男が、撃てと怒鳴った。

 俺は一人目を壁際へ座らせ、飛んできた矢を鞘(さや)で落とす。槍の間を抜け、次の矢を取る列へ入った。

 弦を断つ。肩を押し、二人を座らせる。

 三人目が弩を逆さに振り上げたので、その柄を取り、四人目の膝へ当てた。


 盾の列が、後ろから来た。

 俺は借りた弩を地面へ置き、一枚目の盾へ手をかけた。持ち主の腕を引かない角度へ回すと、隣の盾と重なった。

 そのまま押し戻す。

 四人が、足を絡ませて倒れた。


「何だよ、こいつ!」


 窓の上で、ローズが口を開いた。


「右の荷車の下だ。見えておるぞ、姑息な!」


 低い位置から出た剣を踏み、荷車を横へどかした。

 隠れていた男が、空になった頭上を見上げる。俺は剣を取り、荷車とは別の場所へ置いた。

 その男が、後ろの三人へ叫んだ。


「無理だ、逃げろ!」


 逃げる先に、まだ客がいた。

 俺は先に路地へ出て、三人を止めた。武器を置いて座るよう伝えると、今度は皆、言われたとおりにした。


 ◆


 食堂へ戻ると、俺の皿には肉が減っていた。

 ローズは、自分のパンをとても慎重に割っていた。


「二切れあった」

「残された供物の冷却を防いだ」

「食べると、冷めないのか」


 リゼが水を飲み、むせた。

 ローズは俺の皿へ、自分のパンを半分置いた。


「借りにはせぬ。今、返したぞ」


 俺はパンを受け取った。……いや、肉とパンでは重さも値段も違うんだが。

 ローズはもう、こちらの皿を見ない。どうやら決着したことになっている。まあ、食べられるなら、今はそれでいいか。


 宿の主人は、衛兵とギルドへ使いを出していた。

 リゼが男たちの紙を確かめ、徴税の用紙だと言う。俺たちを拘束する許可など、どこにも書かれていない。

 先頭の男は、黙っていた。


「ドルンは、どこにいる」

「……店を閉めるところだ。鑑定士が逃げたなら、荷も早めるって」


 リゼの手が止まった。

 膝の帳面を開き、運搬の日付を確かめる。


「裏倉庫。今夜、十一人を運ぶ予定だった」


 名前と、売られる値段が並んでいた。

 リゼは一つの欄へ触れた。別の村から来たはずの書類なのに、どの役人の名も同じ筆跡だという。


「気づいていたのか」

「ええ。確かめれば、今の仕事を失うと思った」


 彼女は帳面を閉じず、椅子から立った。

 ローズも煮込みを食べる手を止め、匙を置く。


「その十一人も、まだ店の客を待っておるのだな」

「ええ」

「では、給金を取りに行くついでに、檻(おり)の鍵も持ち出せ。汝の手に余るなら、こちらへ渡せばよい」


 リゼは鞄へ工具を入れた。

 主人へ倉庫の場所を伝え、衛兵を回してくれるよう頼む。

 俺たちが店を出ると、ローズが先に歩いた。


「道は、そっちじゃないわ」

「わかっておる。裏へ回る者が残っていないか、見ただけだ」


 なんだ、やっぱり道は知らなかったのか。

 だが、本人はもう振り返らない。俺も何も言わず、リゼの指したほうへ曲がった。


 倉庫の窓から、赤い光が漏れていた。

 少年の叫びが、途中で切れる。


 俺は二人を追い越し、閉まりかけた扉をつかんだ。

お読みいただき、ありがとうございます。デルタたちのやり取りも楽しんでもらえたらうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。