天使な婚約者へのホワイトデー
ホワイトデー、これは一種の男達が女性に試されているイベントの1つだろう。
バレンタインデーのお返し次第ではカップルであれば今後の関係が破綻、付き合う前であれば関係に亀裂が入る可能性すらある特大イベントだと記憶している。
それに一切、関わる事がないと思って生きて来たが、まさか訪れるとは思わなかった。
(それも、優姫が相手だからな)
関わりのない相手や興味のない相手から貰うチョコよりもある程度の好感度が高く関係がちゃんと作られて大切に思ってる優姫から貰うチョコへのお返しと言うのはだいぶ難しい。
クリスマスとは違ってお菓子にはお菓子をお返しする方が良いのだろうか、なんてこの約1ヶ月考えて来た。その間、優姫のチョコレートを一生分食べた気がする程食べたが。
美琴はそんな事を家でも学校でも、考える事が多かった。こんな長い時間考える事はなかったなんて考えながらとうとうホワイトデーの前日になった。
帰りに何かを買いに行くかと思いながら鞄に教科書を入れている美琴に元気良く話しかける竜胆と優しく話しかける蓮華。
「なぁ、ホワイトデーのお返し決まった?」
「僕と竜胆は一応決まったけどね」
「、、、、まぁ、一応は決まってるし今日買いに行くつもりだけど」
「マジ?、、、、良いよなぁ、生徒会へのお返しが出来るのって土草先輩と蘭と美琴ぐらいしか居ないよなぁ」
羨ましい〜、なんて言いながらリュックを背負って机に項垂れる竜胆の頭に軽くチョップをする。
羨ましがられる気持ちは分かるが、それはそれで大変なのが分かってないんだよな、コイツは。
バレンタインデーの日から、上級生に沢山視線を向けられる事が多くなった。優姫と距離が近いって事や改めて生徒会役員として認識された事があるんだろう。
3年生達は卒業されて、2年生達からの視線だけには減ったがそれでも疲労はする。
だがあの日とった行動を後悔するつもりはないが。そう思いながらリュックのチャックを閉める。
「竜胆と蓮華は何あげるんだ?」
「俺はマカロンあげるつもり!あとリップ!」
「僕はクッキーをあげるつもりだよ。作れは出来ないから市販のだけど」
「良いんじゃない?、気持ちが大切って言うしな」
リュックを背負いながら美琴は1ヶ月の間に調べたホワイトデーのお返しの意味を頭の中で思い浮かべる。
菓子製品を作れる技術を持たない男子からすれば市販のお菓子を買うだけでもそれなりの意味を持つ事を美琴は勿論理解している。
「美琴は何をあげるの?」
「、、、、秘密」
「俺らは教えたのに!」
文句を言われる気持ちは分かるが、意味を調べているだろう2人にと言うか竜胆に言えば揶揄う可能性すらあるのに、言えるわけがない。
一応、優姫と生徒会役員に渡すお返しは違うのを選んではいる。
もし同じだと優姫が気付けば拗ねる可能性がある。見てみたい気持ちもあるがその後が大変そうなので、違うものを選んでいる。
美琴はそう思いながら竜胆と蓮華と教室を出る。
「よし、買い終わった」
学校を出て1時間が経ち、駅地下のデパートでホワイトデーのお返しを買い終わった。
紙袋に入りラッピングをしてもらった5つの箱を見ながら、いつも以上にお金を使って高級とは縁はあるが自ら買う事はなかった身としては大冒険だったかもしれない。
(店員からの分かってる、みたいな顔されたのは普通に恥ずかったわ)
ホワイトデーだからか男性客が多かったのが目に付いてそれで安心はしたが、ラッピングを頼む時の店員の嬉しそうな顔を思い出すと美琴は普通に恥ずかしくなる。
駅を出ようとエレベーターを乗る。家に帰って、紙袋をバレないように部屋に持って行こう、なんて考えながらエレベーターが着く。
バスの乗り込み時間をスマホで確認しようと、円形の柱に背を付けてポケットに手を突っ込んでスマホを取り出した瞬間、電話の着信音が鳴りビクッと一瞬体が跳ねる。
画面を見ると、優姫の名前が表示されていて、先に帰っていたのを思い出して何か買い出しを頼むのか?と思いながら、着信ボタンを押して耳にスマホを向ける。
「もしもし」
『もしもし、美琴君、優姫です。いきなり電話してすみません』
「いや、全然大丈夫だが、、、、今何処に居る?家じゃないよな?」
電話先で聞こえる優姫の声以外に、家では聞こえない音や人々が行き交う様な音が聞こえてくる。
テレビとは違うし、優姫の口調からして頼み事とは少し違う気がする。
美琴の言葉を聞いて、小さく「流石です」と呟く優姫の声が耳に届く。
『はい、その通りです。今病院に居まして、実はその、怪我をしてしまいまして』
「!、大丈夫か!?」
思わず大きな声が出てしまった。
周りに居た人達がチラッとこちらに視線をつけて来て少し恥ずかしくなったが、それよりも怪我をしたと言うワードが頭の中で支配して心配が勝ってしまう。
『大丈夫です。酷い怪我ではなくて、捻挫なのですが医師から1人で帰るのは危ないからと、言われまして』
「分かった。すぐに行く、何処の病院だ?」
『井原病院です、、美琴君の家の』
「あぁ、あそこか。あんまり行かないが、、タクシーですぐ向かう」
井原病院と聞き、大叔父が院長をしている病院だと思い出す。次兄の龍介が小児科で働いているのを思い出し、知られていると思うと何を言われるか分からないが少し胃が痛い。
だがそれよりも見知った場所だったのでタクシーを手配しようと電話をしながら、タクシーを呼ぼうとスマホを操作する。
『タクシーなんて、そんなわざわざお金もかかりますし』
「バスで帰ったら怪我に触るだろ。優姫の為ならお金ぐらい全然使えるしバレンタインデーにお金を沢山使った人は何も言わない」
『、、、、美琴君、そう言われると何も言えません』
「何も言わないの、こう言う時は俺に従う」
『はい、、、、』
断ろうとする優姫にバレンタインデーの事を言えば、何も言えないのは身を引いて承諾されて少し安心する。
だが、言いくるめられたのが相当悔しいのかムスッとしているのが電話先でも分かって笑いが溢れかける。
美琴はそのまま電話を切り、タクシーを呼ぼうとするが優姫が落ち着けれる様にと、実家の運転手で今の時間暇な運転手の連絡先に電話をかける。
こう言う時に実家の力を使うと決めているが、ある意味で潔い性格を美琴はしている。
捻挫だとしても怪我をした事が心配しながら冬の寒い風と春先の陽だまりを感じながら、美琴は駅を出る。
青空から夕焼け空へと変わりゆく空を見ながら、早く来ないかと心待ちをする。




