天使な婚約者からの誘い
「どうぞ」
「、、、、おぉ」
すっかり外は夕焼け空になり、新品同然のテーブルに置かれた夕ご飯に思わず感動してしまう。
豚汁、肉じゃがと和風ハンバーグ、そして小鉢にはほうれん草の胡麻和えと来た。食欲をそそる匂いに席を座るの手が速くなる。
エプロンを慣れた手つきで外す姿から普段から料理をして来たんだと、察する。料理が苦手と言う噂は学校では聞いた事はなかったが、此処までの料理の腕を持っているとは、と美琴は少し無意識に優越感に浸ってしまう。
「美琴君の下に合うか分かりませんがどうぞ!」
「いや、全然美味しそうだし、、頂きます」
何を心配してるんだ?と、思いながら美琴は箸を手に取り、ハンバーグを一口サイズに切り取り口に運ぶ。
それだけなのにも関わらず、優姫は緊張した面持ちでその動作を見守っていた。
「うまっ」
味の是非は、すぐに口から出た。
ひき肉の中に豆腐が入り、それでいて肉肉しい感じを出せており大根と味ぽんだけの味付けだが、ハンバーグ自体にしっかりと味が付いている為、物足りなさを感じさせない。
肉じゃがのジャガイモを口に運べば、柔らかくすぐに口の中で噛めばホロホロと崩れる。
市販の顆粒出汁を使っているはずなのに本格的な味わいがし、噛めば出汁と野菜の甘味が口の中で広がる。味付けは少し薄いが、しっかりと味がし美味しさを感じさせる。
昔から色々な高級料理を食べさせられた美琴でも、美味しいと感じる料理を作る優姫が凄いと思ってしまう。
気付けば、ペロリと完食してしまっていた。
大食いではないはずなのに、ご飯をお代わりしてしまう程に、優姫の作る料理に大満足を示す。
「美味かった。料理も作れるとか、、、、何が出来ないんだ?」
「良かったです。本当は、鰹節と昆布から一から出汁を取りたかったんですけど」
「いや、そこまではしなくて良いから」
そこまでされるのは流石に、と思ってしまうが、そうして出来た料理も食べてみたいと、心の中で思ってしまった自分が居たので少し目線を逸らしてしまった。
ケーキも食べ、お風呂に入る時刻になったが、普段早めに入る美琴だが、気を利かせ先に優姫をお風呂に入らせた。
いくら好きな男でも、男の入った後の風呂には入れないだろうと言う美琴なりの気遣いでもあった。
2階の自室に入り、何をするかと言えば勉強だった。リビングに行けば、少なからずはお風呂上がりの優姫と会うだろう。
そんな姿を見たいと言う気持ちよりも先に見てしまうのはまだダメだ、と言う気持ちが勝った。
(、、、、今更だけどあの天使と同居、ってヤバいな)
桜木優姫が学園にもたらす影響力はいくら興味のない美琴でさえ分かっている事だった。
もし、一緒に暮らしてそして婚約関係だとバレれば何が起きるか、など明白だった。だが、そんな事は優姫からすれば好都合、であり外堀を埋めれるなんて思ってそうだ、と美琴は考えてしまう。
学園には家の事など一切言ってない。
その為、ただの一般生徒が学園の天使と同棲、などとひとたび学園中の噂になれば、と考えるだけで恐ろしい事になるだろう。
思わず身震いを起こしてしまう。
「、、、、でも、婚約関係は変わりようのない事実、だもんな」
それを口にした所で何も変わらない。
ただ、この婚約を誰かが止めれる訳でも止めて欲しい、、、、とも思っていない分、美琴は厄介な性格を持っている。
コンコンッ
勉強を始めて30分程が経過した頃、部屋の扉がノックされた。集中していたが、ノックされた事で切れ返事をする。
「はーい」
「美琴君、お風呂上がりましたよ」
ガチャと扉を開け、わざわざ伝えてくる優姫の姿を回転が出来る椅子に座ったまま振り返った美琴は動揺して膝を強く勉強机にぶつけてしまった。
何故動揺してしまったのか、お風呂上がりでまだ髪が若干濡れ、髪は下ろされ、熱った顔とジェラピケのパジャマを聞き、無防備に肌を晒している姿に動揺してしまったのだ。
首元が少し緩いパジャマのせいもあってか、見てはいけない物を見てる感覚になっていた。
本人は全くそれに気づいておらず、膝を強くぶつけてしまった美琴を心配し近づくが、その反動でパジャマを着てても分かるほどにとある部分が勢い良く動いて居たのを美琴は見てしまう。
(見たら死刑)
自分で言うと両手で顔を塞ぐ。
意外にも紳士な部分が発動したのだろうが、それでさせ優姫からすれば何をしているんだ?と言う行動だった。
「美琴君、どうかしましたか?」
「いや、、優姫、もう少し危機管理と言うものをだな」
「???、、、、、、、、美琴君はそんな事無理にしないですよね?」
「 」
何を言ってるの?とでも言う様に言い切る優姫に言葉を失ってしまい耳だけが赤くなる美琴。
信用されている、と言う嬉しさとそう言う所が無防備なんだ、と言う気持ちが一気に押し寄せる。指の間から見える表情は純粋無垢と言う言葉が似合う程。
美琴は分かりやすく動揺してしまう程に感情が出やすくなったのは、優姫と関わる様になったからだろう。
だがそれを両人とも気付いて居ない愚か、これが普通だ、と思ってしまっていると言う致命的な部分があった。
「と、とりあえず、もう少し気を付けよろな。俺、風呂入ってくるから」
椅子から立ち上がり、距離を取って下着の入っている棚の前に立つ。
お風呂に入れば少しは落ち着けるだろうと言う考えがあったからだ。このままでは優姫にペースを乱され続けられると、思ってしまった。
「分かりました。ぁ、そうだ、、その、明日少し買い物に行きたいのですけど」
「明日?何か足りないものがあった?」
「実は耐熱容器がなくて、用意するのを忘れてしまったみたいで」
「それなら俺も行く。耐熱容器意外と重いし、危ないから」
「、、、、分かりました。ではよろしくお願いします」
そう言って部屋から出る優姫の後ろ姿を見た。
若干、後ろ姿から見える耳が赤くなっているのに気付いたが美琴も部屋を出て扉を閉め、お風呂場に向かう。先に使われたとは思えない程のお風呂場は綺麗で、まだ熱気が立ち籠っていた。
髪を洗い、体を洗い湯船に浸かり「ふー」とお風呂を堪能しながら、先程の買い物の事を思い出す。
料理をあまりしない身としては必要から分からないが、美味しい料理を食べられる機会が減るかもしれないと考えれば、必要なのかもしれないと美琴は納得をする。
だが、落ち着いた事でとある事に気付いてしまう。
(、、、、あれ、これってデートじゃね?)
イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ、思わず声に出てしまった。
いくら2人っきりで出掛けるからと言って安易にデートと括るのはどうだ。優姫に失礼だろう、そう思いながら湯船のお湯を顔にパシャッとするが、先程の優姫の後ろ姿を思い出してしまった美琴。
(もしかしたらあっちは本気かもしれない)
と言う事に気付いてしまった。
その気は全くなかったが、デートの誘いの様なものをしてしまった訳だ。
事なかれ主義で生きて来た美琴にとって仕舞えば、断ると言う選択肢は以前ならあっただろう。だが、優姫の悲しい顔は見たくない、その気持ちが強く出てしまう。
だが、どうすれば良いのだ、と悩み過ぎた結果、少しのぼせてしまったと言うポンコツを発揮させてしまった。




