天使な婚約者の照れ顔
此処まで、力が弱いとは思わなかった、と思ったのはダンボールを各部屋に持って行き、片付けをしていた時のこと。
1時間ほどが経ち、部屋の片付けは終わり食器などを片付けて居た時の事、背後から「フンッ」と力んでる声が聞こえて来た。
美琴が振り返った先には、少し大きめの段ボールを持ち上げようとしている優姫の姿があった。
ダンボールに入っているのは新品の食器のセットで、重さとして6キロほど。
小柄な優姫に対しては持ち上げるのは困難とも呼べた。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫で、、、、じゃないです」
話しかけるが諦めず持ち上げようとするが、数ミリさえも浮かばず、とうとう諦めた。
天使は諦めの悪いと言う新たな一面を見せられた美琴は少し笑ってしまいながら、ダンボールを軽々と運べば、優姫はそれを目を輝かせる。
普段鍛えている訳ではないが軽々と運べるのは男性としてある程度筋肉があったからだろう。こんなにも目を輝かせて見られるのは美琴自身慣れてないのか照れ臭そうに、食器棚の前にダンボールを置く。
「さく、、、ゅ、優姫、困った時は俺に頼れ。一緒に暮らすし、、、、婚約者だろ」
「!、はい、分かりました。ぁ、そうだ。あの、5時にちょっと出ても良いですか?取りに行くものがありまして」
「?、良いけど、1人で大丈夫か?」
「大丈夫です!夕ご飯はお楽しみにして下さい!」
「ぉ、おう」
優姫の自信満々な表情にたじろいでしまうのは、美琴の知っている【桜の天使】とは真逆の印象だったからだ。
穏やかで落ち着いており、表情はあまり変わらず人に興味がない。
そんな風だと思って居た。だが目の前にいる彼女はデレデレで距離が近く表情が分かりやすく変わる。
それを自分だけにしている、そう美琴は思って仕舞えば、恥ずかしさに耐えられず優姫を見つめて居た目を逸らしてしまう。
目の前でせっせと片付けをしている儚い天使を前にすれば誰だって、助けたくなるだろう。
だが、美琴は困ってないのに助けられる、よりも見守る方が優姫を安心させられるだろうと思い、踵を返しダンボールを洗面台に運ぶのであった。
2時間半ほどが経ち、片付けが終わり電化製品などが動くかを試して居た時、出かけると言って居た優姫が帰宅した。
玄関の扉が開く音がして、美琴は無意識にそちらに足を向けたら、買い物袋とケーキ屋さんの袋を手に持ってた姿に驚愕をしてしまう。
大荷物とも思える荷物の量を嬉しそうに玄関に立つ優姫と意味が分からずただただ不思議に思う美琴の対比は面白い。
「ただいまです、美琴君」
「ぉ、おかえり。その、何処行ってたの?」
「スーパーと、ケーキ屋さんです。予約して居たケーキを取りに」
「ケーキ?なんで?」
「だって、今日美琴君の誕生日ですよね?」
「!」
誕生日、それを聞い目を見開く。忘れて居たと言う訳ではないが、まさか優姫に知られて居たと言う事実に驚きを隠せなかったのだ。
ケーキを予約したと言う事は随分前から?いや、関わりを持つ前にそんな事をする様な性格でもないと言う事はわかっている。と言う事は急遽、ケーキ屋に予約をしたと言う事か?
流石財閥令嬢、だな。そんな考えが頭の中で渦巻く美琴を他所に大荷物を持ったまま玄関から靴を脱ぎ、上がろうとするが、ツルツルとフローリングに足を取られ、滑ってしまう優姫。
(危ない!)
両手が塞がり転びそうな姿を見て美琴は咄嗟に、優姫を支える様に抱き締め、右足を踏ん張りながら腕の中で胸に顔を埋めてキョトンとしている優姫を見てホッとする。
フニッと、柔らかいものがお腹付近に当たった気がするが、今そこには集中しない、目を向けない、したら何かが死ぬ、そう美琴は本能で悟った。
だが、側から見れば美少女を抱き締めてる男、と映る、と気付いた美琴は慌てて、優姫の肩を掴んで離そうとして顔を顔を見ようと覗き込む。
「 」
美琴は言葉を失った。
白く綺麗な肌が今にも沸騰しそうな程、顔真っ赤でプルプルと震えている優姫の姿を見たからだ。恥じらいながら顔を背けるが、背けきれていない。
自身には距離が近いは愚かアプローチ満載だったのにも関わらずいざ美琴からの接触があれば此処まで慌てふためくとは、と思ってしまう。
動揺しながら一歩後ろに下がり、顔を赤らめたままリビングに向かうが、フラフラと歩いたせいで壁に激突し「あぅ」と小さな声が漏れその場にしゃがみ込んで居た。
その一連の様子を見た美琴はキュンとなった。
(なんか、、可愛いって言われるの分かる気がする。ドジっ子だし)
美琴にとって優姫は確かに美少女だと思っているが、それ以上でもそれ以下でも、何も思ってなかった。可憐で可愛らしい、それは間違いのないものだとは思っていた。
しかしながら、今こうして自分にだけ恥じらいを見せ動揺を隠せず慌てふためき、無防備な姿を見せる優姫の姿が、美琴の目には妙に可愛らしく映った。
「うぅ、、、、」
「あぁもう、荷物持つから、、、、と言うか、こう言うのは頼れって言っただろ」
「、、、、、、、、美琴君がイケメン過ぎて困る」
「そう言われてもなぁ、、どんだけ俺の事が好きなのさ」
しゃがみ込んでる優姫の顔を覗き込む様にしゃがみ込んでそう言った美琴。
だがそれが悪かったのであろう、先程よりも真っ赤で耳まで赤らめ、顔を両手で隠す。それを見れば嬉しさ、よりも先に気になる、が強くなってしまう。
此処まで自分の1つ1つの行動に動揺し、顔を赤らめられると、何処を好きになったのか、が気になる所。
そんな事を聞けるほど器用な性格でも、聞ける様な性格でもない美琴は、未だに顔真っ赤な優姫を見つめるのであった。
(此処まで顔真っ赤にされたら、、、、普通の男は我慢出来ないぞ〜)
普通、普通の男なら自分に好意を向けられる顔を真っ赤にしている美少女、天使が居れば我慢なんて出来ないだろう。
もし、襲われたらどうするんだ、と自身はしない気満々に思う美琴。
落ち着いたのか、顔の赤さが薄まって来た姿を見て、何を言えば良いかと悩んで居たが、床に置かれたケーキの箱が視界に入り、そちらに話題を移すことに決めた。
「なぁ、ケーキってどうしたんだ?ホールケーキ買ったとか?」
「ぁ、それは親戚が経営してるケーキ屋さんに急遽お願いして、それで作って貰ったんです。美琴君、チョコレートが好きだとは知ってたので」
「わざわざそこまでしなくたって」
「す、、、好きな人の誕生日を、理由なくお祝い出来る、様になったから」
優姫は恥ずかしそうに体をモジモシさせながら顔を俯かせ返答した。
無関係の時ならこんな事をすればただの変な人としか、人の目には映らない。だが、婚約関係になれば、婚約者に誕生日のお祝いをするとならば何も怪しくならない、と思ってしまうのだろう。
それを一瞬で察した美琴は、嬉しさよりも恥ずかしさが勝ったのか、耳が熱くなるのが分かった。
此処までされれば、この好意を素直に受け入れるよりも、何かを返さなければならないんじゃないかと言う気持ちに苛まれてくる。
「、、、、俺だけこんな至れり尽くせりで良いんだろうか」
「私がしたいからしてるんです。それに、、美琴君が居るだけで私は幸せなんです」
「そう言われてもな、、じゃあ、俺も遠慮はしないからな」
「?、、、、はい!」
好意は嬉しい、それをどう答えれば良いのか、そもそも恋愛感情として抱いてない相手にどう接すれば良いのか、そう考えるが、アプローチをされる事は嫌ではない、だが申し訳なさがある時がある。
両思いになる確率が低いのに、好意を向ける、それがどれだけ大変な事か、美琴はそんな事を考えてしまう。
だが、それを優姫に行っても多分「それでも、好きなんです」と、言うだろうと、勝手に考え、勝手に照れる。
この婚約は結婚まで行くだろう、だからそれまでには関係がもう少し動くと良いな、そう美琴は思いながら買い物袋をキッチンまで運ぶ。




