天使な婚約者との同棲&誕生日当日
「美琴君、引越し業者帰りましたよ」
「そう、教えてくれてありがとう」
誕生日当日の昼、美琴は優姫ととあるメゾネットマンションの一室に2人っきりになっていた。
先日婚約を結んだばかりの婚約者、優姫を見下ろしながら周りに置かれた無数のダンボールの数にため息が出そうになる。
何故こんな事になったのだ、と頭を抱えたくなるが、今更何を言っても変わらない事実に口を閉じる。
婚約を結んだ事で、将来の事も考え両家両親から同棲を勧められてしまい、断ろうとしたが婚約相手である優姫が乗り気になってしまい断れず誕生日当日に引っ越しと言う事態になり今日を迎えてしまった。
なりよりも、美琴は学校では見た事もない優姫の自分への対応に動揺を隠せて居ない。
普段は穏やかだが、人とあまり関わりを持たず、特定の友人と言う友人が居るかさえ不明の相手が何故か殆ど関わりがなかった自身にだけ、異様な程に。
「美琴君、美琴君、喉乾いてませんか?美琴君が好きなジュース買って来ました」
「ぁ、ありがとう、、、、あのさ、前まで俺にそんな感じゃなかったよね?」
言った覚えのない好きなジュースを優姫から受け取りながら、美琴は思って居た事を遂に言ってしまった。
入学してから殆ど話した事もないのにも関わらず、婚約してから態度が一変した事には流石に違和感を感じる。何か悪戯なのか、それともドッキリなのではないか、と考えてしまう。
だが、優姫が言葉にしたのは真逆の答えだった。
「だって、話した事もない人から突然こんな感じされるのはビックリしますし、関わりを得た今なら、、、、と思いまして」
「、、、、、、、、ちょっと待って」
思わずばつ印を両腕で作り、少し優姫から距離を取り、ごちゃごちゃしている頭を整理する。
(つまりどう言う事だ?、、、、まさか、好き?とか)
自分で言っている言葉に美琴は否定したくなった。
だが、ちらっと後ろで不思議そうな顔をしながら見てくる天使の様な少女の顔を見れば、それしか考えられない、と思ってしまうのが男の性と言うものだろう。
意を決し、元の位置まで戻り先ほど立てた仮説が合っているかを検証してみようと思い口を開く。
「、、、、もしかしてだけど、俺の事が、」
「好きですよ。恋愛感情として、1人の男性として見てます」
「!、、、、マジぃ???」
真剣に優しい表情で言ってくる優姫に、すっと目を逸らし、頬を染める美琴。
美少女からの告白とも取れる言葉に流石の美琴さえ、動揺もすれば照れてしまう。嘘、冗談とは思えない声のトーンにどう返事をすれば良いか、頭の中を巡らせるが、どう言う返事をすれば正解なのか、分からなかった。
父からの、「恋人が出来るとは思えないからな」と言う言葉が、今まさに心臓に突き刺さる。
こう言う時どう返事をすれば良いかが分からないほど、恋愛に慣れて居なかったのだ。
静寂が流れ考え中の中、優姫が一歩前に踏み込み、美琴の服の袖を掴み破壊力を含んだ上目遣いをし、顔を覗き込みながら話しかけた。
「、、距離近いのとか、アプローチ、嫌、でしたか?」
「 」
薄っすら浮かぶ潤んだ瞳を見て言葉を失ってしまった。
泣かせてしまう、と思ってしまった。
だがハッともした。
勇気を出して言った、距離を近づけてアプローチをする、やりたい事を考えて行って居たのは、流石の美琴でも分かる。
(でも、言葉にしないと、嫌だと思ってるって思われるよな)
好きな人から、嫌、なんて思われるのは苦しいのは分かっていた。
そして美琴自身は優姫からのアプローチを嫌だと思った事は一度もない。此処で美琴が優姫に言うべき言葉はただ1つだった。
「嫌、じゃない」
「!本当、ですか?」
「あぁ、、ただ動揺しただと言うか、、、、好意自体は嬉しいし、でも、、俺なんか好きになるメリットって家とかし」
「メリット、なんて必要ないです!、、、、私は、美琴君だから好きになったんです。家柄とか関係ないです」
「ッ」
その言葉に美琴はまたハッとしてしまった。
家柄だけで好きになった、と思わせてしまった、そしてそれは美琴が1番嫌だった事を人に押し付けて居たと言う事に気付いた。
昔から家柄のせいで人からアプローチを受けて居た美琴、高校からは家の事を隠して居た。
だからこそ、優姫がそんな事関係なく、自分の事を好きになっ可能性があるのに、嫌な事を人に押し付けるなんて、過去に家柄と言うだけで好意を押し付けて居た人達の様になってしまったのだ。
(ぁー、俺馬鹿だ。捻くれ過ぎだろ)
反省する。
だからこそ、優姫が心から自身の事が好きと言う事を気付かされ、照れてしまう。
嬉しさを感じるが、そんな事よりも先に言う事がある。
「ごめん、嫌な事を言った。最低、だった。その、、桜木の言う事信じる」
「、、いえ、信じてくれるなら良いんですが、、、、その、」
「?、なんだ」
「名前」
「名前?」
「優姫、って呼んでくれませんかね?」
「!、、、、、、、、ゅ、優姫」
上擦った声で名前を呼ぶ。
それに恥ずかしさを感じて居たが、そんな事よりも名前を呼ぶ事に対し恥ずかしさを覚えてしまっていたのだ。
だが、名前を呼ばれた本人、優姫はニッコリとした笑顔を美琴に向け、満足気になっていた。
まだダンボールが置かれ、片付いても居ないマンションのリビングで異様な空気を纏う婚約関係の2人の考えは真逆だった。
(上手く行くだろうか、この同棲)
(美琴君との同棲もアプローチも上手くいかせよ!)
お互いの気持ちはお互いに気付けてない。
美琴は不安を、優姫は自信を含んだ表情を浮かべていた。
「ぁ、今日から私美琴君に沢山アプローチしますからね!」
「、、学校でも?」
「当たり前です!」
「勘弁して下さい、、、、学校は、俺殺される」
「???、、、、何で?」
天使である事を自覚してない優姫の顔に、もし婚約者でアプローチされているなんて学校に少しでもバレれば学園中の男達から後ろ首を刺されるは愚か、恨み嫉みを買ってしまうんじゃないか、と美琴は不安がっていた。
だが、優姫からのアプローチを断れるほど肝は据わってないし、アプローチ自体は嫌だと思った事は感じた事がないが、あのデレデレさを他の誰かに見られるのは少し嫌だと美琴は頭の中で過った。




