天使で婚約者?はあざとい
だが、美琴は1つの疑問が頭の中で浮かんでいた。
普段極端に表情の変わらない、何を考えているか分からないただ穏やかな表情を浮かべている【桜の天使】が何故、殆ど関わりのなかった人間に対し、ニコニコと感情が豊かな笑みを向けているのかが本当に疑問だった。
「それにしても、何故私が天使と呼ばれているのでしょうか」
「いや、それは可愛いからだろ、顔が」
「え?」
また、美琴は自分の失言に気付いたのだろう、気まずそうに視線を逸らす。
いくら恋愛感情なく朴念仁と友人から呼ばれても、可愛いと思える感情は携えていた。が、婚約関係になるとは言え殆ど初対面の相手からの「可愛い」など警戒ものだろ、と思うのが普通だったはずだが。
(、、、、あれ?顔赤くね?)
チラッと彼女の顔色を確認しようと一瞬視線を戻したら、横顔だけでも分かる程頬を赤らめて下を見つめている姿が美琴の視界に映った。
本日何度目かの新しい表情の驚きよりも先に顔が赤いと言う驚きが先に来た程に、想定していない反応をされたと言うのが強い。
「あの、桜木?」
「わ、私可愛いのですか?」
「え?、いや、可愛いだろ。つか、言われ慣れてるだろ、桜木なら」
「家族からは言われた事はありますが、家族以外から言われた事などありません。初めてですよ、美琴君が」
「ッ」
初めて、その言葉を聞いて表情が引き攣り、若干頬が赤くなるのが分かった。
ある意味天使の初めてを奪った、とも言えるがそれを言葉に出来るほど強くもなければ、これを自慢に思って良い事なのか、と言う疑問さえあった。
だが、目の前で恥ずかしそうな表情をする優姫の姿を見れば言葉の通り「愛でたい」と思ってしまうらしく、多少の男の性と言うのが働いているらしいが、理性も同時に働く。
「友人とかは?女友達とかあるだろ」
「、、、、友人、ですか。分かりません、昔から家柄の事や容姿の事で仲良くしてくる人は居ましたが、それを友人と呼べるかは、、」
「、、、、それは、そうかもな。でもまぁ、」
優姫の言葉から伝わる過去の辛さに、少なからず覚えがある美琴も同意をしながらも話を変える様にする。
家柄の事、そして両親の遺伝である程度整った容姿と身長、ある程度出来る勉学と運動、そのせいで苦労したもの同士、通じ合うものがあるらしい。
「俺の親友なんて、俺と会った時なんて言ったと思う?」
「なんて言ったと、、、、「カッコいい」?とかですか?」
「ッ、相手は俺と同じ男だから言わないわ、、「癖とか付かなそうな髪だな」だぞ」
「、、、、ぁ、確かに」
「納得すんなよ」
天使からの「カッコいい」と言う言葉に、何でそれが出るんだと言う気持ちと、まさかそれを俺に思ってるのか?と言う2つの疑問と動揺で言葉に詰まりそうになったが流石、器用貧乏すぐに体制を整える器用さを発揮した。
答えを出せばジッと美琴の髪の毛を見つけ、髪質に納得する仕草をするのを見て、即座にツッコんだ。
だけどそのおかげで空気感が柔らかくなった様にも思える。
「つか、、、、これから婚約者って事で良いんだよな?」
「はい、そう言う事になりますね。両家の絆と言う意味でも、婚姻は免れないと思います」
「だろうな。まっ、好きでもないやつと結婚なんて、桜木も嫌だろうけど」
「、、、、好きですよ」
「え?」
「私は美琴君の事が好きです」
「ッ」
その言葉を聞き、目が点になるどころか白目になりかけた美琴。
好き、そのたった一言が耳に届き、その意味を理解するのに時間がかかり過ぎた。
目の前の学園の天使が言った事に拒否反応を示した。そんな訳がないと言う。
それを否定するかの様な優しい笑顔と美琴の手を握る2つの手、どれもが「あざとい」と危険信号を鳴らしていた。
再び意識が戻った時には、家と言う名の豪邸の玄関の前に立ち尽くしていた。
そして、一言、その場にぽそりと言葉だけを残し、家へと入っていく。
「天使、あざと過ぎだろ」
夜風がその言葉をかき消すかの様に、ビューと吹く。
この日会った事が全て幻とも思える様な綺麗な夜空が玄関扉を閉める直前に美琴の目に映す。




