天使な婚約者の年上従兄弟
チュンチュン、鳥の囀りの声を聞き、美琴は目を覚ます。
パチっと目を開け、隣に視線を向けると優姫の姿はもうなかった。
早起きの優姫だから里帰りでも早起きをしているのだろうとすぐに分かる。充電器に刺してあるスマホに手を伸ばし画面を見れば9時5分と冬休みを過ごす高校生にしては早起きの部類だろう。
布団横に優姫の着ていたパジャマが綺麗に畳まれており、寝起きでも凄いなと分かる。
布団から体を起こし、パジャマから服に着替えて優姫の部屋から出て廊下を歩く。
改めて実家は勿論祖父母宅とは違う意味での豪華さを感じる日本家屋にまだ慣れはしないが、実家のシャンデリアだらけよりかは日本人としては落ち着くだろう。
「広間に行けば良いだろうか」
広い邸宅の為、廊下を歩いて曲がった先を間違えれば、迷いそうなほどだ。
昨日、優姫と歩いた廊下を思い出しながら右角を曲がると優姫の後ろ姿が視界に入ったがそれよりも先に20代半ばぐらいの外国の血が入っているのが分かる見た目をした男性が視界に入りそして話している姿に近づこうとした足が曲がり角の部分で止まる。
見た目からして優姫の血縁者、そして昨日優姫が言っていた従兄だろうと即座に判断はした。
「優姫、ちょっと大きくなったんじゃないか?」
「中学卒業から2cm伸びましたからね。八重お兄様も以前よりカッコよくなりましたね」
「ふっ、、そうか?と言うか爺様の突然の思い付きに付き合わされて大変だな」
「もう慣れっ子ですよ」
楽しそうに話している姿を見て、ズキっと心臓が痛くなった。
話しているだけなのに、それなのに何故こんな感情になるのか分からない。だが、以前副会長である純恋からの指摘、「嫉妬」を思い出し、嫉妬している可能性を自然と考えついた。
だが、美琴は以前も優姫の親戚になる相手、優姫の姉、姫乃の婚約者である桔梗に嫉妬した経験から、恥ずかしいと言う気持ちが即座に来る。
親戚相手に嫉妬をするなんてどうかしているし、何故嫉妬なんてするんだ。
あぁ、嫉妬しているこの気持ちさえ分からない。
「そういや、婚約者と来たんだろ?」
「はい、まだ寝ていると思います。美琴君の事ですから、そろそろ起きるとは思いますが」
「、、、、そう、美琴ね、、、、仲良いのか?喧嘩とかしてない?」
「してないですよ、喧嘩なんて全然。美琴君はとっても優しいので」
美琴は気付いた。
いや、気付かされた。
八重と言う優姫の従兄が優姫に少なからずの恋愛感情を向けていると言う事に。
自分の感情には鈍感だが人の感情には鋭いのは良いのか悪いのかは分からないが、ここで発揮するとは思わなかった。
八重が優姫に恋愛感情を向けているという明確な確証を言えと言うのであれば、優姫を見る目、そして明らかに第三者の名前と仲が良いと言う事を聞いた時の目が鋭くそして嫉妬を含んだ瞳をしていたから、と、何とも目だけで感じ取ると言う荒技だ。
違う事だって普通にある。
でも、何故かそう思ってしまうのは、学校での男子生徒が優姫に向ける視線よりも強い強い感情を含んだ目だったからだろうか。
少しだけ居心地が悪いと思ってしまうが此処を通らなければ広間には着かないは愚か他の方法を知らない桜木家旧本邸初心者に選択肢が襲いかかる。
色々考えたのち、角を曲がる。ギィと木製の床が重厚感を響かせて鳴る。
「!美琴君、おはよう御座います」
「はよ、、、、えっと」
「あぁ、優姫の従兄の佐倉八重と言います、今年で24です。初めまして」
「優姫の婚約者の井原美琴です。初めまして」
音に気付き視線を角の方に向けた優姫は美琴の姿を見て嬉しい顔をし話しかける。美琴もそれに返答しながらも、今来た風を装うに八重に視線を向ける。
お互いに挨拶をしたが初対面という事や自分が人見知りもあり、それ以上は話が続かなそうな雰囲気を感じる。
無意識に婚約者と言う部分を強く強調して言ってしまった事に言い終わって気づく。
何だか、そうした方が良いと思ってしまった。
「さっ、朝ご飯出来てますから、広間に行きましょう」
「そうだね、優姫」
「そうだな、、行くか」
「今日は私が作ったジャガイモの煮っ転がしがありますよ」
「それは楽しみだな、優姫のは一段と美味いから」
「もっと上手くなってるんだろうね。楽しみだよ」
優姫に言われるがまま、廊下を歩く。ピシッと決めたスーツに髪型に爽やかな表情、八重と言う男はだいぶおモテになるのだろう。
そんな相手との距離感は個人的にはだいぶ開きたい部類の人間として育ってきた。
まだ壁がある中でそれに気付いてない優姫を横目に、ニコニコと笑う八重の顔は少しいや、だいぶ何かを抱えている。
一難去ってはまた一難と言うのだろうか。
つくづく桜木家に運があるのかないのかが分からない。
ただ言える事があるのであれば優姫と出会えた事は人生に彩りを与えてくれた、と言う事だろうか。
なんて柄にもない事を考えているうちはまだまだ子供だな、と美琴は頭の中で長い独り言を呟く。




