天使な婚約者の怖いもの
ホテルを出て暫く経ち、公園の中で食後の軽い散歩をしながら、たわいもない会話をする。
快晴と空の下、冷たい風が吹きながら息を吐けば白い息が出る程、寒さを物語っていた。
ポケットに手を突っ込めば、入れておいたカイロがちょうど良い感じに温まっているのが分かり、美琴はホッとする。
「寒いですね、、、、、、、、って私寒いって今月で沢山言った気がします」
「いや、俺も寒いし気持ちは分かる。でもこうも寒いと、、、、自販機で何か買ってくる。此処で待ってろ」
「分かりました。気を付けて下さい」
「はいはい」
優姫に見送られながら、数メートル先にある自動販売機に向かいながらビューッと強い向かい風に思わず目を細め、何とか自動販売機の前に辿り着いた。
自分用のホットコーヒーと、彼女用のホットココアを購入し、両手で持つとホカホカと両手が一気に熱くなると表情筋が緩みながら美琴は彼女の元に戻ろうと振り返る。
(、、、、?外国人?)
振り返った先に見えた光景は、180cm以上はありそうな筋骨隆々とはいかないが筋肉が程よく付いたアメリカ系の観光客と見受けられる外国人2名が優姫に話しかけていた姿が1番最初に目に入った。
彼女の姿は少し外国の血を感じる見た目をしているからか、話しかけやすかったのだろうと察して近寄る。
側か見れば美少女に絡んでる外国人に見える程距離が近かった。
「優k」
「ッ、その、えっと」
「Where is the nearest station?(近くの駅はどこですか?)」
成績優秀の彼女からは見られない動揺っぷりと、答えられるはずなのに答えない姿、少し離れた先からでも分かる程に怖がった表情を見て言葉を失った。
普段であれば日常的に使ってるのでは?と思わされるきれいな発音で英語を話せるはずなのに、たじろいでるのには疑問が浮かぶ。
身内に外国の血が入っているなら余計に今の姿は真逆だ。
勿論、美琴は英語は話せるし聞き取れる。
人と話す事が怖いと言う事は日常生活でも分かっている。彼女の手先が少し震えているのも分かった。
何が彼女を怖がらせる要因になっているのか分からないが、外国人達はそんな事を気にしてない様子で優姫に詰め寄っているのを見て、美琴は気になる事を一旦置いて、駆け寄る。
「Exit the park, turn right, go straight, turn left at the 7-Eleven, and you will see the station(公園を出て右に曲がり、まっすぐ進んでセブンイレブンで左に曲がって歩くと、駅が見えます)」
「!、美琴、君」
「Is it true?(本当ですか?)」
「YES」
「Thanks a lot!(ありがとうございます)」
外国人2人は美琴が丁寧に教えた事にハグをし明るい声色で感謝を伝えて、その場から立ち去った。
まるで嵐の様な人達だな、と側から見ていた人達は思っただろう。
外国人達が立ち去って、美琴が現れた事にホッとした表情になった優姫だったが、安堵のあまりだろう、涙をポロポロと流し始めた。
美少女が公園で泣く、そうなれば公園に居た人達は美琴の方を一斉に向くのは当たり前の事だろう。
だが当の本人である美琴は内心も外面も大焦りをしている。
「!、!!?!?、優姫!?」
「ご、ごめんなさい。美琴君が現れたのが安心しちゃいまして、、、、」
「いや、、ちょっと移動して良いか?人目が流石に気になる」
「は、はい」
チラチラとトゲの様な疑う様な視線を向けられているのだろう、流石に気にしてまうのだろう、公園にいそいそと出て、彼女に缶のホットココアを手渡し落ち着くまで待ちながら隣で帰路につきながら歩く。
カーカーとカラスの鳴き声が遠くからするが、未だに慣れない彼女の泣き顔を思い出し中の美琴は心臓がバックバクになっていた。
少しすれば泣き声が聞こえなくなって落ち着いたんだと分かった。
橋の真ん中で立ち止まり、優姫に先ほどの事を問いかけた。
「、、、、俺が聞く事じゃないが、何で焦ってたんだ?」
「、、、、、、、、、、、、変だと、思います」
「変でも良い。お前に泣かれるのは、結構心に来る」
「!、、、、分かりました。実は、私幼少の頃外国で攫われかけた事があるんです」
「!、それって」
「はい、誘拐未遂ですね」
彼女が小さな声でだが正確なトーンで言った言葉に雷が落ちた様な衝撃が美琴を襲った。
想像もしてない事を言われたのもあるが、泣いていた理由、怖がっていた理由、安心した理由の答えが優姫の言った事で点と点で繋がり答えとなった。
再び歩き出しながらも、彼女の言葉をゆっくりと待つ。
「記憶は殆ど覚えてないんですけど、、トラウマになっているのか、身長の高い外国の男性の方に話しかけられると、攫われかけた時の事がフラッシュバックしてしまって、怖くなって、、、、」
「会話もままならないと?」
「はい」
小さい体が更に小さく見える程顔を俯かせて、悲しそうな声をしているのは誰だって分かる。好き嫌いを知ろうと出掛ける事になった日だったはずなのに、まさかの怖い事まで知れるとは美琴は思いもしなかった。
だが、言いたくなかったであろう事を好意を向けているからこそ、信頼しているからこそ教えてくれたって事を少なからず実感している。
親友達からはデリカシーがないと度々言われる事がある美琴だったが気の利いた事を言えれる程器用でもなければ不器用寄りの人間だ。
だからこそ、悲しんでる彼女を見た時は思った気持ちを伝えるのが1番だと、分かってきた。
「俺も怖いのあるし、フラッシュバックしてすぐにいつも通りの対応とか出来ない気持ちは分かるし、そんな悲しい顔はしなくても良いけどな」
「!美琴君も怖いものがあるんですか?」
「意外か?、、、、俺にだってあるんだよ。、、雷が怖い」
「雷ですか?」
「そう、昔かくれんぼしてる時に雷が近くに落ちてそれ以来怖いんだよ」
「そうだったんですか」
昔、雷が落ちて大泣きをした時の事、涙と鼻水を垂らしながら母親に縋り付いていた事を思い出しながら、怖いと言うのは嫌いとかじゃなくて精神的に受け付けなのではなく防御反応が出るもの、と何処かの本で見た事があるとか、ないとか。
美琴はまだ暗い顔をしてる優姫を元気付けたいと思い、こう言う時の最適解を既に導き出していた。
隣にある彼女の空いている小さな手を握り締め目と目を合わせて言葉を紡ぐ。
「だから、、、、怖いものがあるって事は変でもないし、俺はお前を受け止めるから、」
「!」
「、、、、嫌か?」
「、、、、いえ、嫌じゃないです!嬉しいです!!」
問いかけにふるふると頭を横に振って否定し、先ほどまでの悲しい顔から一変して嬉しそうな顔をする彼女を見ればホッと一安心する。
が、彼女と出会ってこれで何回目かも分からないが泣かせてしまった事にそれなりの罪悪感を抱いている。
原因が自分ではないとはいえ、それなりの好感度は勿論人として尊敬に値する人の泣き顔は良心が痛む他、言葉に表す事の出来ない感情が心を乱す。
美琴はその感情が何なのか分からないまま、手を繋いだまま彼女と家へと帰って行く。
この気持ちに答え、名前があるのなら早めに知りたい、と思いながら。
手に持っていたホットコーヒーはすっかり冷めていた。




