天使な婚約者はめんどくさがり屋
現在、美琴は目の前で両手で顔を多い正座をして背を向けている優姫を同じく正座をしながら見つめていた。
「あの、優姫さん?」
「見ないで下さい、私今自己嫌悪中なので」
「えぇ、、、、」
目が遠くなりそうだと思ってしまうがこの状態を放って置けるほど、薄情でもなければ少し面白さを美琴は感じてしまっている。
良い子と言われている彼女が目の前でこんな姿になっている事にだ。
だが、このままにする事は出来ない、頭をポリポリと掻きながら優姫を見ながら数分前の事を思い出す。
何故こんな事になったかと言うと、彼女の「めんどくさい」と言う言葉に動揺したせいで、物音を立ててしまい存在を気付かれてしまったのだ。
(ヤバっ)
パッと顔を向けた優姫は瞬時に先ほど言った言葉を聞かれたと言う事を理解して、沸騰した様に顔を赤くし今の状態になった。
とっくに暗くなっている外を見ながらこのまま長続きしても良い事はないと思いながら、美琴は話しかける。
「少しは話してくれないか?」
「うぅ、美琴君には聞かれたくなかったのに、、恥ずかしいです」
「恥ずかしいって、めんどくさいって言葉か?」
「だ、だって私のイメージと違うじゃないですか。良い子、なら言わない言葉ですから」
悲しそうな声で言う彼女の言葉を聞き、目を大きく見開く。
良い子のイメージであればまず言わなそうである言葉であるが、それを彼女が気にしていたと言う事に1番の驚きだった。
そして美琴はある仮説が頭の中で浮かんだ。
もし、桜木優姫と言う美少女は周りがそして自身が想像しているよりも良い子ではなく良い子を演じ、本当はめんどくさがり屋な性格だったら。
良い子で居ないと、と思わないといけない様な過去を生きていたら。
ただの仮説のはずなのに、目の前で悲しそうにしている少女を見て仕舞えば、想像力豊かな人間は考えれる事だろう。
周りの音が遠くに感じるほど、優姫に意識を集中する。
「良い子じゃないと、周りは私なんて認めてくれません」
「何でそう思うんだ」
「、、、、変な事、言うと思いますが良いですか?」
「俺が聞きたいから聞かせてくれ」
「、、、、、、、、私、祖父母の家で8歳から14歳まで育ったんです。両親は海外で仕事したりしてて」
「祖父母や使用人の方々には迷惑かけたくなくて小学校では問題を起こさない様にと、勉強や運動を頑張ったり先生からの頼まれごとや同級生の方々からのお願いを聞いて来たんです。ですが」
「ですが?」
「気付いたら周りから「良い子だね」って言われる様になったんです。「桜木さんは良い子」だって他学年にも広まってました。良い子のつもりは一切ありませんでした。周りに迷惑をかけたくなったから。本当の私はめんどくさい事は嫌いだし、頼まれごとも時間があったら引き受けるぐらいです」
「でも、迷惑をかけたくないからめんどくさくても引き受けてました。良い子だって言う噂が学年中に広まって断れる状況がなくなったんです」
淡々と言うが優姫の声のトーンは震えていた。
望んでもいない事が何故か広まり望んでも居ない自身の性格が周りから作られてしまっていた、そんな事を考えると美琴は鳥肌になるぐらい苦しい事だと分かった。
周りからの良い子だと言う目を簡単に壊す事は不可能だ。広まって仕舞えば「桜木優姫と言う少女は良い子」と言う先入観で人は優姫と言う少女を見てしまう。
そうすればどうだ、良い子と真逆の行動を取れば人は簡単に失望するだろう。
人とはそう言う生き物だからだ。想像していた人間が違う言動を取れば失望し離れて行く。それをまだ小学生の彼女は肌で感じていたのだろうと、分かった。
「良い子で居ないと私じゃない、桜木優姫ではないって言われてる気がするんです。周りが求めている桜木優姫と言う人間は良い子の桜木優姫で、普通でも悪い子の桜木優姫ではないんです。普通の私も悪い子の私も周りは私を私として認めないんです」
「周りは良い子=桜木優姫として求めているから、私はそれを答えないと、私は私じゃなくなります。良い子じゃないと存在意義がないんです」
言い終わると同時に「グスッ」と小さくだがしっかりと泣き声が美琴の耳に届いた。目を見開き何を言えば良いかを頭の中で巡らせる。
人は誰しも「良い子」を求めてしまう所がある。少しでも反する行動を取る子供は「悪い子」ただ良い子でも悪い子でもない子供は「普通の子」、人はそう人を分類する。
「良い子」で居なければ「自分」ではない、そう思って生きるのは辛い。自分が何者かさえ「良い子」で縛られている。
目の前で隠れる様に泣く優姫を見て仕舞えば、気の利いた事は言えないが言いたい事は言おうと美琴は決心した。
「、、、、俺は、俺と2人っきりの時の優姫が本当の優姫だと思ってる」
「、、、、え?」
慰められるとは思わなかったのか、それとも言った言葉が予想外だったのか、体ごと美琴の方へと動かして聞き返すす。
その反応に少し後の言葉を言うのに躊躇したし言える様な関係性ではないと思ったが、今1番彼女に対し言えるの家族ではなく彼女が好意を向けている自分だと理解している美琴はそのまま言葉を続ける。
「良い子の優姫でも悪い子の優姫でも普通の優姫でも全然良い、俺の前で一喜一憂して色んな表情をする桜木優姫が優姫なんだ」
「美琴、君」
「それに、誰かが求める理想の人間じゃなくてさ、桜木優姫の人間性を決めるのは他人じゃなくて優姫自身で良い子じゃないって言うなら良い子でなくても良いんじゃないか」
「でも」
「それで周りが離れて行くならそれは本当に優姫を見てないって事だ。お前がどんな人間であろうと桜木優姫と言う人間はお前だけなんだ。優姫が出す答えが正解なんだ、誰かが言う言葉は正解でも何でもない不正解でもないただの言葉なんだよ。正解は誰かに出して貰うものじゃなくて自分で出すものだ」
「!」
自分の人生は自分で決める。そしてそれは誰かの言葉だけで人生を決めて仕舞えば、そんなのは自分の人生じゃなくて「誰かが作った偽物の人生」になるのだ。
でも「良い子」であろうとしてる事は悪い事ではないけど、周りの為に自分の気持ちを殺す事は美琴は許せない事だった。
目の前で「良い子」であろうとして苦しんでる姿を見て仕舞えば、「良い子」と言う言葉が根本的に破綻する。
望んでない自分になるって事は桜木優姫と言う人間を殺すって事だ。
周りが押し付けた理想の【桜木優姫】じゃなくて自分が自分だと言える【桜木優姫】が1番良い。
「、、、、めんどくさがり屋でも、我儘でも、私ですか?」
「当たり前だろ。どんな優姫でも誰が何と言おうとお前が幸せだと思えるお前が【桜木優姫】なんだ。俺がそれを認める」
「ッ」
言い切った瞬間、ポロポロと言う効果音が聞こえそうな程、大きな雨粒ほどの涙を流す優姫の姿を見て目を見開き、ついさっき泣いてた姿よりも驚きが強かった。
動揺し切った美琴は、オロオロしながらも静かに泣かれるのはキュッと心が締め付けられる感覚になって、気付いたら優姫を包み込む様に抱き締めていた。
腕と胸の中で居る彼女は小さくて力をこめたら簡単に折れそうなほど儚かった。
だが、段々と彼女の体が熱くなるのが分かり、泣き声が止まったのにも気付いて、美琴は顔を覗き込むと顔を真っ赤にしてグルグルと目が回っていた。
プシューと言う音が聞こえるぐらいには沸騰しているのが傍目からでも良く分かる。
「ゅ、優姫、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないです、、殺す気ですか」
「そう言うつもりはなかったんだが、、嫌だったか?」
「いえ、好きですぅぅぅぅぅ」
消えそうな声でグリグリと胸部分に頭を擦り付ける姿にキュンと来て耳が熱くなるのが分かる美琴は照れやすくなったな、と思いながら落ち着くのを待つ。
(なんか、、我儘な部分が出てきたな)
ちゃんと言葉が通じたって事が分かり嬉しくも小恥ずかしさも感じながら、時間だけが刻一刻と夜へと向かっていた。




