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天使な婚約者は良い子である





 同棲して2週間が経った放課後、目にも疑う光景を見ながら思ってしまう。

 此処まで誰にでも優しいとは誰も思わない。

 放課後になったのにも関わらず優姫(ゆき)は教師からの頼み事を既に6つもこなしている。


 1つ目は担任からノートを集めて欲しいと言うお願い、これは分かる。

 2つ目はプリントを運んで欲しいと言うお願い、これも分かる。

 3つ目は授業で使った機材を片付けて欲しいと言うお願い、これはまだ分かる。

 4つ目は生徒会で使う資料を運んで欲しいと言うお願い、これは全然分かる。

 5つ目は何故か花の水やりをして欲しいと言うお願い、これは全く持って分からない。

 そして最後、6つ目がテストの問題用紙の入った全学年の段ボール6箱が置かれた部屋から職員室まで運んで欲しい、と言うお願いだ。

 全く持って意味が分からないお願いを桜木優姫(さくらぎゆき)と言う人間は二つ返事で了承し今現在、6つ目のお願いを遂行している。


(良い子、って言われる所以はこう言う事か)


 たまたま早く帰宅せず、放課後まで残っていたのが功を奏したのかは分からないが、生徒会の仕事もないはずなのにまだ学校に残ってやらなくても良いはずの仕事をしている彼女を見たら帰る気力は起きなかった。


「、、、、ハァァ、しょうがねーな」


 3つ目の段ボールを運んでいる姿が視界に入ってその顔が辛そうで明らかに重そうな物を持っているのが分かるからこそ、美琴(みこと)はため息をしながらも、職員室まで数メートルの距離に居る彼女の元に駆け寄った。


「何やってんだ」


「!、井原(いばら)さん」


「桜木、、いや、今は名前でいいか。優姫、職員室まで距離あんだから、それ持つ」


「え、でも」


「良いから、重そうにして持ってんのは目も当てられないし」


 あからさまな仲良さげな雰囲気は出さず他人行儀にだが冷たくせずに接し、テキパキと淡々と優姫が持つ段ボールを手に持つ。ズシッと重さが来てこれを1人で2つを運んだと考えたら尊敬者だなと思いながら歩き出す。


 美琴の行動にポカンとしていたがすぐに状況と意図を理解して嬉しそうな表情しながら隣に立ち職員室へと向かう優姫。


「あの、まさか美琴君が居るとは思いませんでした」


「たまたま、この時間まで居たからな。つか、こう言うのは断れよ」


「頼まれると、つい、了承してしまって」


「そう言う所直した方が良いぞ」


 頼まれたら、つい、なんて格好のカモ、騙して下さい、って言うようなもんだろ、と美琴は思いながら職員室に入り段ボールを置いた。

 教師は数える程度で朝担任が「職員会議」と言う言葉を思い出し、少ないのを理解した。


「残りも俺がするから」


「え、でも、全部重いですし」


「それだと倍の時間かかるだろ。だから」


「?だから」


「今日の夕飯豪華にしてくれ」


「!、任せて下さい」


 顔を見せず背を向けて言えば優姫はパァと表情が明るくなり頷いて了承した。

 背後からでも伝わるぐらい嬉しいんだと分かって少し照れくささを感じる。そのままヒヨコみたいに美琴の後ろをついて行きテクテクと言う効果音が聞こえそうだな、と思いながら段ボールがある部屋に入る。


 段ボールを持ち、再び職員室に行こうとしたら、優姫が「あっ」と小さく声を発したのが耳に入る。


「最後の1個は私が持って行きます」


「え?何で?」


「美琴君がこのまま全部運んだら4個運んだ事になります。そしたら、頼まれた私じゃなくて美琴君が殆ど運んだ事になってしまいます。だから、半分ずつ運んだら、私もちゃんと運んだ事になりますから」


「ッ、、、、フッ、、、ハハッ、マジかッ」


「!、何で笑うんですか!?」


「いや、こっちの問題だから」


 何処までも頼まれた事を自分もやったと言う証拠を誰も見てないのにしようとしている所に美琴は笑ってしまった。

 良い子だと思うと同時にこんなめんどくさい事は自分であれば絶対しないと思いながらも目の前で頼まれごとを毎回引き受けている彼女の姿を見ると、助けたい、頼られたいって気持ちになるのは何故なんだろうなとも思ったり思わなかったり。


 笑われているのに少しムスッとなっている彼女を無視して段ボールを運び、最後の1個ずつを2人で職員室まで運んだ。


「ふぅ、これで終わり、だな?」


「はい、終わりです。ありがとうございました、、ぁ、鍵」


「お礼は良いっての。鍵?」


「段ボールが置かれてた部屋の戸締りも頼まれてたんです。まだ鍵あそこに置かれてるので、美琴君先に帰ってて下さい」


「いや、でも」


「すぐに終わりますので、では」


 優姫はそう言って先ほどの部屋へと戻って行った。

 それをただ見つめるしかなかった美琴は帰ろうと職員室を出るが、今更1人で帰るよりも2人で帰った所で何も変わらないだろと、思い始めて来た。


(この時間帯なら部活も終わってるし、生徒に見られる危険性は、なしだよな)


 既に外は暗くなっており、女子高生が1人で帰れるような時間帯でもない。

 そして頭の中の父親からの圧で婚約者を1人で暗い中歩かせた、とバレでもしたら最悪殺されかねないと言う恐怖と優姫に対しての保護欲で彼女の元へと向かった。


 部屋の近くまでつくとまだ鍵は閉められておらず、部屋の中にいる事が分かる。物音はせず部屋の中に入り声をかけようと思ったが、「先に帰って」と言われたのに居たとなれば怒られるかもしれないと言う不安と緊張から、忍足になってしまう。

 覗き込むように顔で部屋の中を見たら、聞き捨てならない言葉が脳まで届く。


「ハァァ、、、、疲れましたぁ。本当に、あんなめんどくさい事頼まれるとは思いませんでした」


「???」


 耳を疑った。

 天使、【桜の天使】である桜木優姫の口から「めんどくさい」と言う言葉が出された。

 自分の口からではないか?と思いたくなった、普段からめんどくさい事は嫌いな美琴だったが、この時ばかりは緊張もあり口は閉じていたのだ。
















































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