天使な婚約者は交わし上手
その日の夜、食べ終わった食器類を洗いながらリビングでソファに座り洗濯物を畳んでいる彼女の姿を見ながら昼休みの時の事を美琴は思い出す。
視界に映る彼女、桜木優姫の姿は周りが言う良い子と当てはまっている様に見える。
姿勢を正し綺麗に洗濯物を畳んでいる姿はまさしく周りの言う【桜の天使】そのものであり「良い子」の範疇内に居る事だろう。
(でも、それが苦しいかもしれない、と)
良い子である事が苦しい、その気持ちには多少なりとも理解をすると同時に本当に良い子を演じていると言う確証は全くなかった。
同棲して2人の時に見せる姿は明るく大人しく気持ちが溢れ出ていた。それが嘘でも、演技でも美琴はどうしても思えなかったのだ。
ただ強いて言うのであれば学校で見せるあの笑顔は、機械的、それだけは嘘だと思っている。
食器を拭き終わり食器棚に片付け終わり再び優姫の方に視線を向けると彼女とこちらに視線を向けてビクッと体を跳ねらす。
「ッ、ど、どうかしたか?」
「いえ、さっきから美琴君から視線が来ていたので気になりまして。どうかなさいましたか?」
「ぁ、いや、そう言うわけじゃねーけど、嫌だったか?」
「全然、寧ろ美琴君からの熱い視線にもっと好きになっちゃいました」
「、、、、そうかよ」
ブレないな、コイツ、と美琴は心の中で思いながらリビングに足を踏み込み、ソファに近づき優姫の隣に座り洗濯物をする。
聞きたい事はあるがいきなり「お前って良い子だよな」とか「実は良い子演じてる?」って言われたらいくら好きな相手でも引かれる可能性大なので面倒くさい美琴は会話に出さない様に一旦決めた。
畳終わった洗濯物を置く時、ふいに優姫の右手が視界に入った。綺麗な手だな、と思うと同時に人差し指に絆創膏が貼られているのに気がついた。
朝ご飯を食べている時にはついてなかったものだ。
「それ、」
「?」
「その絆創膏、どーした?、」
「え?、ぁ、これですか?今日生徒会の仕事の時に先生から頼まれたプリントを片付けてた時に切ってしまったんです。そんなに深くはないのですぐに治りますよ」
その言葉を聞き、頼まれた結果怪我をしたと言う意味合いに美琴は聞こえたが、本人はそんな気は一切ないのか平然と言ったのだ。
優姫を良く見る様になって1番驚きと感心を感じたのは彼女の頼まれごとをされる回数だった。
昼休みの時にも議題として出たが、色んな頼まれごとをされる、そしてそれを全部引き受ける。
そしてそれを一度も嫌そうにせず引き受けていると言う事に、美琴は少なからずの疑問を感じていた。
「、、、、優姫って嫌な事とかあんの?」
「嫌な事ですか?、難しい話ですね。そうですね、美琴君と過ごす時間が減るとかですかね」
「そう言う感じじゃなくて、こう言うこれをされたら嫌とか」
「えぇ、他ですか?、、人の悪口とか、傷付けたりとかですかね」
「、、、、もっとこう、急に頼まれごととか、」
「急って事は相手も忙しかったり急いでたりって事ですよ。ちゃんと頼んできてくれるのは良い事じゃないですか」
「、、、、なんか、優姫って強いな」
「?、何がですか?」
思いもよらず本心を聞けるかもしれない質問をしたにも関わらず、無意識なのだろうか分からないが淡々と交わして正統派な「良い子」の答えを繰り出し、嫌な質問をする美琴の意図を全くもって理解してない優姫にただただ負けを感じるだけだった。
少しだけ自身が汚い人間思える様なトーンで答えているって言うのもあると思うが。
意識的に交わしている感じはしないが、変に本当の気持ちをだそうとしてないと言うのは言葉の中で機械的に聞こえたからだった。
(演技なのかは分からないが、相手にどう言えば喜ばれるかを理解してる感じがするわ)
本心だけはいくら美琴でも言えるものではない、それか本当に本心から言ったかのどちらかだな。
そう考えながらも紫苑達との会話が以前頭の中でこびりついているままだった。
「美琴君、明日の夜ご飯は何が良いですか?」
「明日はそうだな、、、、パスタとか?」
「パスタ、ならベーコンがあるのでベーコンとほうれん草の和風パスタ作りましょうか」
「楽しみにしてる。けど、無理は?」
「厳禁ですね!分かってます。ぁ、先お風呂入りますか?」
「んや、優姫が先で良い。疲れただろ、俺はちょっと勉強をな」
「そう言って、漫画読んだりとかは?」
「しないから」
「なら良いですけど」
図星を突かれギクっと体が硬直しかけたが何とか耐えれた。
蓮華からオススメされた漫画を読もうと思ったが、此処でバレたら信用がなくなりそうだと言う少ない子供心が働き事実に戻った美琴は大人しく勉強をする為に机に赴く。
こう言う時ばかりは桜木優姫と言う強さを深く深く感じさせられると同時に結婚したら何回も何十回も何百回も同じ事を繰り返すんだろうな、と頭の片隅で考えながらシャーペンを手に取るのであった。
「案外、、、アイツも俺と同じでめんどくさがり屋だったりして」
ボソッと口から溢れた言葉にクスッと笑ってしまうぐらいには現実味のない事を言ったと自覚している美琴。
もし本当にめんどくさがり屋だったら、それはそれで新たな一面、ギャップを知れたって事になるんだろうな、と思いながら視界に映る漫画を読みたくなる気持ちを厨二病如く右腕を左腕で掴み我慢する。




