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天才少女真白

 朝起きるとみなもは朝食を作ってくれていた。

焼き鮭に大根下ろしに冷奴……ひじきの煮物や漬物まで……以前よりレパートリーが増えている。


「おお……みなもの料理スキルが上達してる」

「環瑠さんから教わってるからな。栄養バランスとかも計算しながら作ってるぜ。朝こそガッツリ食わなきゃ体が動かないぜ」


 真白ちゃんは既に座っていた。私が起きるのを待ってたみたいだ。


「実は真白にも手伝ってもらったんだぜ。環瑠さん程じゃないけど料理が得意みたいでさ」

「凄いじゃん! 私は料理がからっきしだから尊敬するよ」

「べ……別にこれくらい……居候の身だし何もしない訳にもいかないからね……」


 これらの料理はママがいつも作ってくれていた所謂おふくろの味というやつだ。それを覚えていて再現出来るなんてママの事が好きなんだろうな。余計な心配をしていたようだ。


「出来れば味噌汁や納豆。あと卵も欲しいとこだね。一汁三菜にはまだまだだよ」

「すまん……材料を買うの忘れてたんだ」

「真白ちゃんはママの料理が大好きだからね。だからこれでも物足りなく感じるかもね」

「いいから食べよ。お姉ちゃんが起きるのずっと待ってたんだから」

「ごめんごめん。血圧低くて朝が苦手で……」


 でも料理を見たら食欲がわいてきた私は席に着いた。


「それじゃいただきまーす!」

「そういえば真白。お前学校はどうすんだ? 毎日ここから浦和まで通うんだよな? 結構距離あるぜ」


 真白ちゃんはご飯を噛んで飲み込んでから話し始めた。行儀いいなぁ。たまにクチャクチャ食べながら喋る人がいるから見てて不快に感じるんだよね。


「いや行かないよ。1日中ずっと二人を観察するつもりだから」

「えーじゃあサボるつもりなの? 勉強ついて行けなくなっちゃうよ!」

「……簡単すぎるんだよね。今の学校の授業が」

「簡単って……偏差値七十オーバーの名門お嬢様高校の授業内容が簡単……?」


 真白ちゃんは立ち上がって持ってきたバッグから何かを取り出して私達に見せてくれた。


「これって真白ちゃんの通信簿? 見ていい?」

「まさかオール一とかだったりしてな」

「もーみなもったら、真白ちゃんは頭良い……なにこれ」


 オール五だった。全ての教科でトップ。こんなのアニメや漫画でしか見た事ない……


「真白ちゃん……頭良いんだね。勉強だけじゃなく体育でもトップだよ」

「おいおいまじかよ! 真白お前すげー天才なんだな!」


 私の中に強烈なコンプレックスが芽生えた。でもそれと同時に誇らしさを感じている。姉として出来の良い妹を褒めてあげなきゃ。


「凄いよ! 真白ちゃんは私の自慢の妹だよ!」

「別に……これくらい普通だよ」

「これだけ頭良いなら大学は東大……いや海外の凄い大学に入れるよ! バーハードとか!」

「ハーバードだね……」

「フォックスオードとか!」

「オックスフォードだね……それじゃ狐だよ」

「とにかく凄いよ! どんな大学に行くのか楽しみだよ!」


 姉として真白ちゃんの進路相談に乗ってあげなきゃね。嫉妬心はとっくに消えていた。


「……興味ないよそんなとこ」

「へ? 興味ないって……もしかして地球の大学じゃ満足出来ない? 宇宙へ行くの?」

「何処の大学にもいくつもりはないって事だよ。行ったってどうせ退屈だもん」


 退屈……真白ちゃんは頭良すぎてそういった一流大学でさえつまらなく感じてしまうのかも知れない。どんな授業内容なんだろう……難しい数式とか図形とか出てくるのかな……そんなの私には理解出来ない。今の私にとっては焼き鮭の骨を取る作業の方が大事だし難しい事は頭良い人に任せておこう。


「じゃあ真白、お前も高卒になるんだよな。いやー私と同じだな!」


 みなもが学歴マウントを取り始めた。みなもの通ってた高校と真白ちゃんの通う高校では偏差値が全然違うんだけど。でも最終学歴は同じになるんだよね。……理不尽だ。


 「あ! でもでも私は今大学に通っているから大卒になるなー真白を越えていく訳だ! 姉貴分として背中を見せないといけないからな! 私を追ってこいよ!」

「もーみなもったら、気にしなくて良いからね。真白ちゃんの方が頭良いから」

「その大学ってどんなとこなの?」


 真白ちゃんが興味を持ち始める。さっきまで冷めてたのに。


「真白ちゃんからしたら取るに足らないとこだよ。みなもは勝ち誇ってたけどFランだもん」

「なんていう大学? 今日見に行っても良い?」

「良いけど……真白ちゃん学校はどうするの?」

「優等生がサボりとか関心しないな。単位足らなくて留年しちまうぜ」

「しないよ。今までずっと出続けていたし暫く出なくても大丈夫だよ」

「友達とか心配するよ?」

「友達なんて居ないよ」

「真白……お前学校でぼっちちゃんなのか? そういうとこも私とそっくりだな」

「真白ちゃん……もしかしていじめられてる?」

「そんな訳ないじゃん。好きで作らないだけだよ」


 それなら良かった。もしそんな事になっているなら私は学校に乗り込んでいじめっ子達を懲らしめなきゃいけなくなる。可愛い妹を守る為に。


「退屈なんだよね。今の学校は全てが退屈。大学に行ってもこの退屈が変わらないなんて想像したら行きたくなくなるよ」

「なら紅玉に来いよ。私は通い始めてからそんなに経ってないけど毎日が楽しいぜ! 一番の理由は彩果と一緒だからって事だけど」

「みなもー!」

「よしよし」


 真白ちゃんの学力ならうちの大学なら成績トップになれるだろう。首席で卒業だって出来る。それこそ真白ちゃんには退屈に感じるだろうに……偏差値が違い過ぎて。

 



「ここがお姉ちゃんと姉御が通う紅玉大学か……オシャレな建物だね。ポストモダン建築ってやつだね」


 まさか真白ちゃんが見学に来るなんて……でも案内してあげなきゃ。真白ちゃんが自分から興味を持ったんだもん。


「私のママが学長をやってるんだぜ。コネで裏口入学させてもいいぜ」

「お義母さんはそう言う行為は嫌いだと思うよ。そんな事しなくても一芸を披露すれば良いだけだし」

「そんな簡単に入れるなんて凄い大学なんだね!」


 確かに凄い大学ではある。筆記試験がない大学なんて名門かfランのどちらしかないからね。勿論ここは後者だ。


「みなもと私は美術サークルに入ってるんだよ。雪菜が立ち上げたサークルでさ、無理矢理入部させられたんだよね」

「先輩達もここに通ってるんだ! 皆凄いんだね!」


 頭の出来が同じだからね……勿論良くない方で。

 



「真白ちゃん!」

「雪菜先輩!」


 部室に入るやいなや真白ちゃんと雪菜が抱き合ってくるくる周り始めた。嬉しさを体現しているんだろう。にしても凄い回るな……回りすぎて竜巻が発生しそうだ。


「ふぇー回り過ぎた……」

「目が回るー」

「二人共何やってるんだか……久しぶりだね真白!」

「お久しぶりです! 陽花先輩は僕の姉貴分ですからね。尊敬してるんですよ」


 みなもにも同じ事を言ってた気がする。真白ちゃんには姉貴分が何人居るんだろう……


「真白……」

「お久しぶりです師匠! やっと恩返し出来る時が来ましたよ!」

「そう……それは楽しみだよ……」


 新月が気まずそうにしている。そういえば真白ちゃんは私を困らせたいって言ってたな。その為にエッチを見てやるって発想は彼女が一人で思いついたんだろうか? いかにも新月が考えそうな内容だ。


「ねぇ新月。真白ちゃんに何か吹き込んだりした?」

「な……何の事だい? 人聞きが悪いなぁ……」

「ふーん……まぁ良いや」


 何か事情を知ってそうだったけどそれ以上詮索するのはやめた。親友を疑う様な事はしたくないもん。

 

「いやー真白ちゃんも暫く見ない間に大きくなったねー」

「雪菜先輩は何一つとして変わってないですね! 色んな意味で!」

「お? どういう意味だ絶壁貧乳女の絶壁貧乳妹」


 ポイズン雪菜は今日も絶好調。さり気なく私も攻撃対象に入ってるし……それにしても昔に比べて人見知りしなくなったな……真白ちゃんの成長を感じさせる。


「真白の絵はうちも好きだよ。男の子同士の愛……BLは見ていて尊いよね。BL作品を片っ端から読み漁っているよ」

「さすが陽花先輩! 同じ腐女子として気が合いそうですよ!」


 陽花は百合に興味なさそうだと思ったら腐女子だったのか。私はBLにそこまで興味ないから話の輪に入れそうにないな。


 そういえばみなもが居ないなと思ったら部室のドアの隙間から室内を覗いていた。


「そんな所で何してるのみなも。こっちにおいでよ」

「放っておいてくれ。私はこうして女子大生達が部室で仲良く会話しているのを見ているだけで幸せなんだ」


 私はみなもの腕をひいて部室に連れ込んだ。 


「一緒に居たほうが楽しいよ? ていうかみなもだって女子大生じゃん」

「彩果達より年上だし! 私みたいなババアがピチピチの女子大生の邪魔してはいけないんだ!」

「もーそんな事考えてるの? 雪菜も何か言ってあげてよ」

「そうですよ! 女子高生に比べたら女子大生なんてババアですよ!」

「ちょ……雪菜、それは禁句だよ……」

「だって高校生が主人公の作品に比べて大学生が主人公の作品とか少ないですから。需要が皆無ですよ!」

「あるもん! 最近は『時グル』みたいな大学ものの作品も人気だもん!」


 確かに高校生に比べると学校行事が少ないし絶大な権力を持つ生徒会もない。青春を感じる事が少ない。何より制服がない! 大学ものは展開しずらいのもあるだろう。責任取れるからすぐエッチするし……


「あはは……一応大学にもイベントはあるんだよ雪菜。去年うちと一緒に参加した学祭も楽しかったでしょ?」

「そりゃ陽花ちゃんと一緒だからね!」

「嬉しいよ雪菜」

「えへへ……」

「惚気かよ。この台詞いつも言われてるから一度言ってみたかったんだ。にしてもこの大学にも学祭なんてあるんだ」

「紅玉祭って言うんだよ。秋に二日間行われるんだ。去年は楽しかったなぁ……」


 大学の文化祭か……高校と比べると馴染みがない。でも規模は凄いんだろうな。『時グル』の学祭シーンも面白かったし私も参加してみたいな。勿論みなもと一緒に。


「今年は彩果ちゃんにも参加してもらうつもりだよ。サークルはそれぞれ催し物を出すから協力して欲しいんだ」

「絵とか描けば良いのかな?」

「美術サークルなんだからそうに決まってんだろ! 他に何するんだ絶壁貧乳女」


 今日は一段と毒が強い。でもまた私の実力を発揮する機会が訪れるという事だ。今から楽しみだよ。


「いやーにしても彩果ちゃんと真白ちゃんってそっくりだよね。双子かと見間違えるくらいに」

「本当にそっくりだよね……谷間がないところが」


 雪菜と陽花は私達の胸を見ながら感慨深そうに言う。


「私達がひんぬーなのはママからの遺伝だもん! ていうかもうおっぱいトークは良いから! 昨日散々したから! くどいから!」

「私達はその話知らないからね。今からじっくり話そう!」

「もーみなもも何か言ってよ! またひんぬーいじりされるよ」

「私は好きな人のおっぱいが好きだから何とも思わないぜ」

「みなもー!」

「よしよし」

「惚気かよ」


 ふと真白ちゃんを見ると目を輝かせて私達を見ていた。なんだか楽しそう。


「真白ちゃんってお胸はないけど髪の毛が純白で綺麗だし顔立ちも良いし美少女だよね!」

「えへへ……私の妹可愛いでしょ?」

「それは姉の私も可愛いって意味に聞こえるぞ! 自意識過剰絶壁貧乳女」


 どうしたんだろう。こんなにポイズン雪菜が絶好調なのは久し振りだ。何かあったのかも知れない。


「ねぇ陽花。もしかして何かあったの? 今日の雪菜は何か違うよ」

「気付いた? 実は描いてた絵本を出版社に持ち込んだら書籍化が認められたんだよね」

「え! 凄いじゃん雪菜!」

「えへへ……『AIジニア』の設定や内容が良かったって褒めて貰えたんだ。まだ荒削りだけどプロでも通用するって」


 遂に雪菜が絵本作家としてデビューする。友達としてこんなに嬉しい事はない。


「今から雪菜先生のサイン貰おうかな」

「えへへ……ありがとう。彩果ちゃんの為なら何枚でも描くよ! でも価値が出るようにちゃんと結果を出さないとね」


 雪菜が謙虚になってる。それくらいプロデビューする事が嬉しくて同時に責任を感じてるんだ。……昔の私を思いだす。


「よーし! 雪菜のプロデビューを祝杯しよう!」

「自分がはしゃぎたいだけだろ! お調子者絶壁貧乳女」


 やっぱり雪菜は毒を吐かないと物足りない。

 

「いいなぁ……仲良くて……楽しそうで……羨ましい」

「真白ちゃん……」


 ずっと私達の会話を聞いていた真白ちゃんが少し寂しそうに言った。



「お姉ちゃん達は昔からの幼馴染なんだよね……お互いに気を遣わずに本音で会話できる親友……僕には居なかったら憧れるよ」


「寧ろ気を遣って欲しいくらいだけどね……親しき仲にも礼儀ありって言うしさ。でも私達は今までそういう関係だったしこれからも友達でいると思う。腐れ縁で結ばれているから」

「そういう関係が僕には眩しいんだよ。そして惹かれるんだ」


 真白ちゃんはただ友達が欲しかったんじゃない。私達みたいな昔から付き合いがあって切っても切れないような関係の友達が欲しかったんだ。昔の真白ちゃんは人見知りで学校でいつも一人だったから幼馴染なんていないから……


「よーし! じゃあ真白ちゃんを我等腐れ縁四姉妹に入れてあげよう!」

「え? そうなると五姉妹じゃないの?」

「そうだったね! 真白ちゃんが四女で彩果ちゃんが五女だね!」

「私の方がお姉ちゃんなんですけど! 私の四女感は!?」


 真白ちゃんは腐れ縁の友達とは少し違う気がする。でも雪菜達からすれば友達の妹なんだよね。昔から真白ちゃんを可愛がってくれたし。


「僕もこの大学に入りたい……お姉ちゃん達と一緒に勉強したりサークルをやりたい!」

「え! 真白ちゃんがこの紅玉大学に!?」


 ちなみにみなもは会話に入ってこないと思ったらまたドアの所に戻って私達のやりとりを覗き見ていた。

年齢を気にしすぎだよ……

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