表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/77

陽光④

 現実に帰ってきたはいいものの、結局小瓶の中身は自分が期待していたようなベラトリックスの過去を映したものではなかったし、俺にとって無条件で喜べるような情報はなにひとつなかった。


 アズサはベラトリックスと関係を持っていた。どこか分かっていたような理解できないような、そんな釈然としない漠然とした虚無を俺は抱いた。俺はベッドに寝っ転がった。


 アズサ……なんで……。

 ……。

 ………………。


 沈黙は何も育てない。沈黙の中にいるとなにもポジティブなものを感じ取れない。沈黙は、ただネガティブな感情だけを肥大化させる。


 アズサに対する様々な感情が俺を襲ったが、それでも心の奥深くの、思想や生い立ちの影響を受けていない裸の自分はこう無意識に呟く。『でも、自分だって胡乃葉と関係を持ったじゃないか』と。


 裸の自分の無邪気さに、酷く痛みを感じるほど俺の心は邪気に覆われてしまっているのだろうか。どうしようもない罪悪感、実体がなく掴み取る事が出来ないゴーストのような後悔の気持ち。息が苦しい。世界から隔絶される感覚に陥った。世界に、自分という存在の居場所がどこにも無くなってしまったような感覚に陥った。


 ベラトリックスに訊きたいことが増えた。――アズサと、どういう関係だったのか。俺は、ベラトリックスに会うという必然だったその運命がより必然的なものになるのを感じた。


 ベラトリックスに会いたい理由が、またひとつ増えたのだ。そして、俺は恐らくこのままいけばベラトリックスのことを殺すだろう。そのくらい俺の心は泥濘に包まれていたし、何もかもを破壊し尽くしたい気持ちに侵されていた。


 そして俺は、その気持ちを抑えることができなかった。


 俺は二段ベッドの上段の物置き場からそれを取り出した。地面に座ると、俺は取り出したフォークをゆっくりと、痛覚をできるだけ刺激しないようにゆっくりと腕に突き刺した。


 度を超えた痛いが身体を貫く。声にならない声が漏れ出す。徐々にフォークが腕の深みに入っていくにつれて俺は声を出すのを我慢することができなくなって、腕から赤い涙をどっぷりと流れはじめた。


 ――痛すぎるよぉ……っ。


 腕から流れ出る血を途中から直視することができなかった。


 腕にビリビリとした熱い感触を感じはじめた。


 それでもフォークを腕の深部まで刺そうとするその手を止めることはできなかった。でも、そのとき、ふと、自分がやっていることが急に怖くなりはじめた。


 ――ど、ど、ど、どうしよう……もうこんなにも深く刺しちゃったし、後ろに戻るも前に進むも痛いのは止まらないぃ。


 でも、さっきまで抱えていた気持ちは急に萎んでいってしまった……。衰弱した気持ちは、俺を中途半端な場所で放り投げた。これからどうするにしても、俺の腕の痛みは無限に続く。それでも、刺したままじゃどうしようもないよな……。


 俺は腕からゆっくりとフォークを抜こうとした。けれど痛すぎた。さっきまでは溢れ出るようにそこにあったアドレナリンが、今となっては完全に萎れたからだ。


 身体全体の痛覚が悲鳴をあげているのが分かる。脂汗が全身につたわる。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 繁殖行為をしている時でも出ないような荒い息が時間の経過とともに更に加速する。


 ――それでも、フォークを……うでからひきぬかなくちゃ、だめだよなっっ!


 もう一度俺はフォークを握った。少し持ち手の部分が左右にブレるだけで強烈な痛みが身体中に走った。それでもッ! 俺は力づくで腕に刺さっているフォークをなんとか引き抜いた。


 ……大量の出血、抜いた後のことまでは、考えていなかったなぁ……あはは……。


 微睡が俺を誘った。それはもしかしたら、睡魔に偽装した死かもしれない。それでもいいとどこか心の底で思って、いいやそれじゃ駄目だと顕在の自分が反論をする頃には、俺は死とも昏睡とも言えるような微睡に飲み込まれていた。


 今の俺には、現実に抗えるだけの生命力が残っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ