愛とシトラス⑧
胡乃葉との混じり合いから数日経ったとある日の朝。俺は身体に妙な重さを感じて目を醒ました。
まるで生き霊にでも取り憑かれたのかと思うほどに鈍重になった身体、俺は目を開いてその正体を視認した。その正体は胡乃葉だった。そうか、だろうな――そう内心思い二度寝をしようとした、そのとき――胡乃葉はただ俺に乗ってきているだけではなく、顔を舐めてきている事に俺は気がついた。
それに気がついてから、やけに顔の辺りが生臭く感じられた。それもそのはずだ。この様子を見るに、胡乃葉は俺が完全に目醒める前の、中途半端にしか意識が起きておらず朦朧としていた数十分前から顔を舐め続けているようだった。俺は豊潤な身体をしている胡乃葉をなんとか力づく目一杯に押しのけた。
「にゃぁ」
押しのけた反動で胡乃葉はまるで猫のような声を出した。
今の胡乃葉はさながら本物の猫だった。今の不意に溢れた声も、今目の前で見せている仕草や態度も、その全てが猫そのものだった。胡乃葉は猫化してしまっていた。
冷静に考えても、目の前の胡乃葉はそのように表現するしかなかった。
猫のように丸くさせた手をペロペロと、本物の猫のグルーミングのような態度を目の前で見せている胡乃葉に、唖然以外の感情を抱くことができなかった。まだここは夢の中なんじゃないか……。数日前のあの混じり合いが、何か胡乃葉の変なスイッチを刺激してしまったのだろうか。だが混じり合いから今に至るまでの数日の間、別に胡乃葉に可笑しなところなんて見受けられなかったぞ……? この数日間は、嵐の前の静けさだったっていうことか……?
そんなことを考えていると、俺は胡乃葉に襲われた。
凄まじく強い力でベッドに押し倒され、俺は突然なこともあって全く反抗することができなかった。
俺はこのとき、初めて胡乃葉に恐怖を抱いた。俺はそのまま、さっきみたいに顔を舐められた、ずっとずっと。胡乃葉が飽きて、仮に飽きなくとも猫化が終わって元の胡乃葉に戻るその時まで、ずっとずっと……俺は胡乃葉に顔を舐められ続ける運命なのか……。
普通の人間には感じないはずだが、何故かこのときの胡乃葉の舌は本物の猫のようにザラザラとしていて、ジャリジャリと音が立っていた。
俺はそのあとも、胡乃葉にされるがままに顔を舐められ続けた。胡乃葉が飽き、猫化が解けるまで、ずっとずっと。




