愛とシトラス⑥
――胡乃葉の一人遊びが終わると、俺の指は解放された。
「ねぇ、セックスしようよ」
胡乃葉の言葉に俺は耳を疑った。
「たった数十分で回復できるほど俺はタフでは……」
「違う。ほら、指貸してみなさい」
俺はもう終わりにしたかった。やはり今日の胡乃葉は何もかもが可笑しすぎる。今の俺の心に、興奮を受容できるほどのエネルギーなんてないのに。
俺は首を横に振った。だけど胡乃葉は俺の左手の指をまた掴んできた。
「こうやるの」
胡乃葉は自身の指と俺の指とを絡ませ始めた。それはセックスとは名ばかりな小鳥の戯れのような微細な気持ち良さだったが、胡乃葉が嬉しそうな表情を浮かべているのがタオル越しにも感じ取れたし、それに俺自身も指先での絡まり合いは心地が良かったから、俺もずっとこうしていたいと思った。
小鳥が互いをついばむような戯れ行為、それでも最後は互いにちゃんと果てることができた。俺の方が先に果てたらしい、快楽のそのさきに先に辿り着いた俺を胡乃葉はからかってきた。そしてその後に遅れて胡乃葉も果てると、この日はもうこれでそれ以上のことはなかった。お互いにいつも通りの寝方で眠りに入った。
今日という日が未来の俺を苦しめることがありませんように――俺は薄れゆく意識の中でふと願った。
今日という日が、後から振り返ってみたら本当に現実にあったことなのか分からない、まるで蜃気楼のような日であったと感じられますように。




