welcome to underground
悲しみの湖畔、俺はアズサが死んでしまってからはそう呼んでいるが、アズサという一人の人間の人生の終着をこの目で見れたことが、悲劇なんかでは絶対になかった。
記憶を全て取り戻した今、こうして目の前にアズサの骸を埋めた場所を見つめながらそう思った俺は、それでもなお悲劇では絶対的にないにしても、ただ抱く悲しいという気持ちに対して、何か自分に対する憎悪のような感情に襲われ始めた。
――それをしょうがないことだとして片付けるのには、まだまだ時間が必要だ……。いや、綺麗に片付けられなくていい。ずっとずっと反省と後悔を抱き続ければいい。そっちの方がアズサへ対する謝罪にもなるし、なによりも俺みたいな人間にとってはそっちの方がお似合いだ。
『最愛の彼女、悲しみの湖畔にて眠る』そう記された石碑を見ながら、内心そう呟いた。
忘れたいもの忘れたくないもの、忘れてしまっては人間にとって無いも同然だから、記憶の忘却のせいだとしても、俺は俺自身の人生の暗部でもあり光そのものでもあるアズサとの記憶を一度でも手放した事を一生責め続けるし、記憶を全て取り戻した今、自分に対して殺意すら覚えている。
俺は記憶を全て取り戻したからか、ちょっとした疼きを覚えていた。それは、自分自身の根底が一気に覆されてしまうような危ない感覚で、アズサへ対する自責も相まってか、ふつふつと煮え滾るような破壊衝動が身体を駆け回って仕方がない。
でも、そんなこともこの悲しみの湖畔に来れば一気に落ち着きを取り戻すんだ。俺はアズサの墓の前で合掌をした後、記憶を取り戻した今、いちばんやらなければならない事をしに行くことにした。このGardenに来たのも、その為である。勿論、アズサの墓参りはそれ以上に大切なことだが。
俺は下ってきた坂を上がって、このGardenに存在する二つの大きなビルに向かった。そこに、果たさなければならない約束はあるのだ。その道中で、俺は突然何か妙に変な感情を覚えた。それまで抱えていた自責の念や謝罪や後悔の気持ちを遙かに超えた、憂鬱に似た感情である。
そして、濁流のような感情に、俺は飲み込まれた。
――俺はもっと優しくなるべきだったんだ。自分自身に対しても、勿論アズサに対しても……こんな取り返しのつかない事ばかりしでかしてきた自分に必要だったのは、快楽ではなく、ただただ愛を受け取る為の器だった。愛を与えてくれる人間は一番身近にいたのに、それを受け取る器が俺にはなかった。失って初めて分かる大切なものの尊さと、それを身勝手に壊すことしかできなかった自分自身の救いようの無さは、絶望的だ……。自分は欲望に塗れず、不平不満や人生の疲弊を快楽で洗い流すことなく、壊すことではなく受け取ることだけではなく与えることによって、己の人生をよりよくすべきだった。一度人生を振り返ると、後悔の範囲が止まることはないな……。
「やけに長く感じられたな」
濁流のような感情に飲み込まれながら、俺は目の前にそびえる左右二つのビルを見つめた。
今回入るのは左側のビルだ。アズサと共にGardenに来た時も、ほとんどは左側のビルに入ったっけ。でも左右のビルは一番上のところが繋がっているから、どちらから入ったっていいんだけどな。
俺はビルの中に入り、目的の場所へ向かった。




